14 どこまで探れる?
そして私はメイドたちが現れると、あれよこれよとされるがまま身を清められた。この世界には電化製品はないが、ドライヤーといった便利家電たちは魔法で代用していた。
ベテラン感を醸し出した赤毛のメイド服の女性が、細長い陶器調の筒を持ちながら濡れた私の髪に温風を吹き付けていく。
(炎魔法の紋章が見える……風魔法じゃないんだ)
感心しながらも声には出さず、温かな風に吹かれる。バスルームに用意された鏡の前に座らされた私は、ただただ風に吹かれ続けた。昨晩の汗臭さはどこかへと離散し、体からは爽やかな石鹸の香りが漂う。
「さ、アメリア様。乾きましたよ」
「ありがとうございます。えっと、ミランダさん」
彼女は給仕長らしい。記憶の片隅で、幼い頃のクロヴィスからミランダが怖いと話を聞かされたことがあった。つり目型の彼女の目元は、確かに幼い子どもにはキツく見えただろう。
ミランダは私の髪をブラシで梳かしていく。前世とは違う柔らかな髪が、ブラシが通るたびにふわりとボリュームを持っていた。
「こんなにしていただいて……申し訳ないわ。殿下も大袈裟なんです……家に帰ってからでも良かったのに」
「アメリア様、何を仰いますか? それにしてもあの殿下がアメリア様を……あの方もやるようになったわね……朝まで拘束するなんて。しかも夜遊び……妃様が知ったら卒倒されるに違いないわ」
気まずそうに眉を顰めたミランダに、私は慌てて口を開いた。
「ミ、ミランダさん!? あの、クロヴィス様は私を探しに来てくださったというか。だからその、どうかご内密に」
「あの方がお城を抜け出していることは把握していますよ、アメリア様。いつものことですから。殿下とマーカスは……もう、何度言っても聞かないんだから」
「……そうなんだ」
城を抜け出していることは割と知られているらしい。ミランダはクロヴィスとマーカスのことを詳しく知っているはずだが、もしかしたら最近の彼のことで何か気付いたことはないだろうか。
(クロヴィスが何かを気にかけてる様子とかあったりしない……?)
考えているうちに、スルスルと器用に髪がまとめ上げられ、頭の上には大きなお団子が出来上がっていく。なんて綺麗なヘアアレンジ……と感心している場合ではない。
「あの、ミランダさん」
「何かしら」
「クロヴィス様、最近お疲れではないですか? 何か言っていませんか? 私のことだったり、他のことももちろんですけど」
「アメリア様の……? 何もないわよ、あの方は。帝国の王太子と連絡を取り始めたのは驚きましたけどね……」
「それって、いつですか!」
そう、それだ!
王国と帝国は対立しており、本来ならクロヴィスがアベル達と親しそうにしてるはずがない。
「いつって……いつだったかしらねぇ……一昨年くらいかね」
「一昨年!?」
ゲーム本編開始よりもかなり前だ。クロヴィスの不審な行動は、私が思うよりも範囲が大きいのかもしれない。膝の上で手を握り、動揺を悟られないよう鏡越しにミランダに微笑みかけた。
「そうなのですね……」
「それ以来、アベル王太子殿下とは連絡を取り合うようになったわねぇ……あら、アメリア様? 大丈夫ですか」
「え、ええ。私、知りませんでしたわー……おほほほほ」
一昨年から付き合いがあるのならば、思っていたよりもアベルとの親密度は高そうである。通りで劇場では仲が良さそうに見えたわけだ……。
「さ、アメリア様。髪の毛は終わり。次はドレスに着替えましょうか」
「ドレス? あの、着てきたワンピースで構わないのだけど」
「クロヴィス殿下から貴方にはこれを着せるようにと仰せつかっています。まずは見てちょうだい、そして着てあげてくださいな。あの方の機嫌をとりたいのでしょう?」
「う……」
クロヴィスが少し不機嫌そうなのは給仕達もわかっているようだ。
コンコンと扉がノックされた後、入ってきたメイドが抱えていたのは澄んだ氷のような青色の訪問着だった。




