↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/18

7 序章のルート分岐は強制的で

 クロヴィスを見たプレイヤーが、マーカスの背中から飛び退く。


「クロヴィス王子!? どうして……スキップしすぎたのか、選択肢は……」

「やあ、意識ははっきりしているようだね。俺の従者が君をそこの藪で見つけたって言っているんだが、そんな格好で何をしていたのかな」


 じりじりとプレイヤーへと距離を詰めて行くクロヴィスは、どこか黒い笑みを浮かべている。


「同行していただこうか?」

「はっ? え」


 がっしりとプレイヤーの腕が掴まれるのが見えた。マーカス技手際よくプレイヤーの両腕を背中側に縛っていく。


 ……これは王国ルート確定で良いのだろうか。


 ずるずると劇場内に連行されるプレイヤーに、ただ小首をかしげるしかなかった。



◇◇◇



 プレイヤーを騎士達に引き渡すと、クロヴィスと共に最寄りの詰所に移動した。広い敷地の中に、木造の家屋が点在している。平屋の建物は訓練場だろうか、その近くにはアパートのような建物も見えた。


 訓練場の脇を通り、三階建ての施設に足を踏み入れる。クロヴィスは真っ直ぐな足取りで三階まで上がると、一番奥の部屋へと向かった。


 窓のない密室。部屋の中に家具らしい物は一つも置かれておらず殺風景だ。

 遅れて入ってきたマーカスが、プレイヤーを部屋の中央に投げ入れるように連れてきた。


「いっつ……」

「クロヴィス様、騎士団の者たちはいかがなさいますか?」

「このまま周囲に待機していてもらおう」


 マーカスが扉を閉めると、部屋の中はしんと静まる。クロヴィスは戸惑う様子のプレイヤーに向き直ると、にこやかに語りかけた。


「手短に行こう。君が背負っている紋章……二輪の花が重なったその模様は今は亡き旧帝国の物だ。何者か答えてもらおうか」

「……」


 問われている白騎士の彼は答えない。ゲーム上は記憶喪失ということになっているため、彼も話せる情報がないのだろう。

 大丈夫だろうかと、固唾を飲んで見守る。


「答えないなら、王国内に侵入した不届き者として、君を処分しなければならないなぁ」

「! ま、待ってくれ」

「おや、答えてくれる気になったかい」


 深い藍色の髪を振り乱しながら、プレイヤーはクロヴィスに詰め寄る。


「お、俺はただ、気が付いたらあそこにいたというか……何も、わからないんだ」

「何も?」

「……実は自分が誰かも、よくわかっていなくて」

「ふむ……」


 クロヴィスが顎に手を当てて頷く。考える仕草を見せる傍ら、マーカスがプレイヤーの曖昧な返答に不満を抱いたのか、間に割って入るかのように動き出した。


「切り捨てましょう」

「待て、マーカス。もう少し話を聞こう」

「ですがクロヴィス様、国内にこのような者を長く留めて置くのはいかがなものかと」

「まあまあ、まだ始まったばかりだろう?」


 クロヴィスはマーカスの肩に手を置くと下がらせる。


「知っている範囲で構わない。君が帝国側の人間でないことさえ証明できれば、俺達は君に手出しはしないよ。さあ、吐いてくれるかな。どうしてあの場所にいたんだい」


 あの人は答えられるのだろうか。もしここでとんちんかんな回答をして、やはり怪しい奴めとマーカスにばっさりと殺されてしまったら?

 緊迫した状況に、嫌な汗が背中を伝う。


「答えてもらえないと、俺たちも君をどうにかできないんだよね。頼むよ」

「お、俺は……」

「あの、クロヴィス様」


 プレイヤーが死ねば私もゲームオーバーかもしれない。目指しているトゥルーエンドの為にも、私はクロヴィスを引き止める。


「この方が本当に記憶喪失なら、何も答えられないのは仕方のないことだわ」


 私の声に、三人の視線が集まった。クロヴィスは穏やかな目をしているが、マーカスの視線は剣先のように鋭い。

 プレイヤーのすがるような顔色に、私は胸に手を当て頷きを返す。


「アメリアは彼の言葉を信じるんだね」

「ええ。本当に記憶喪失だとしたら可哀想だもの。覚えていないなら、帰る場所も無いのではないかしら」


 ここでプレイヤーを王国陣営に引き込めれば、帝国ルートに向かうことはない。どうにか今の流れのまま、味方にしてしまいたい。


「確かに、それは可哀想だな……」

「クロヴィス様、貴方様まで!」

「ふふ、ですよね? 見たところ貴方のその装いは、騎士なのよね。旧帝国はだいぶ昔に滅んだと聞いておりますが……きっと訳ありなんだわ。クロヴィス様、記憶が戻るまでの間だけでも、助けてあげられないかしら」


 うんと頷いてくれ。

 クロヴィスの目を見て訴えてみる。


「アメリアは彼を保護するべきだと?」

「正気ですか、アメリア様」

「ええ、正気よ。お父様から騎士団も人手が欲しいと聞いているわ。手伝ってもらいましょう! 彼、鍛えていそうだし、もし何か思い出したら有益な情報をくれるかも」

「アメリア様、この者がスパイだとしたらどうするおつもりです」


 マーカスの指摘に否定できず、言葉に詰まる。


「なら条件を出すのはどうだろう。君、名前は」

「な、名前……」

「もしやそれすらも忘れてしまったのかな」

「いや……レナード……という名前を、覚えてる」


 レナードはデフォルト名。どうやら彼は、名付けでふざけるタイプではなかったようだ。「あああ」とかだったらどうしようかと思っていた。


「では、レナード。思い出すまでの間、我々王国は君に衣食住を提供する代わりに、騎士団で働いて貰おうと思う」

「有難いけど、いいのか……」

「タダではないからね。しっかりと働いてもらうのが条件だ」

「あ、ああ。やらせてくれ」


 クロヴィスの提案に乗った彼は、初めて安堵したように表情を和らげた。強制的に王国ルートにされ、困っていたのは確かだろう。


「マーカス、彼を団長の元へ」

「はっ、クロヴィス様」


 マーカスがレナードの腕を掴み、外へと連れ出していく。

 すれ違い様にレナードと目が合った。


「ありがとう……アメリア」


 小声だがはっきりと聞こえた言葉に鼓動が跳ねる。クロヴィス程ではないが、デフォルトのプレイヤーも見た目は良い。長く息を吐き、どきりと高鳴った鼓動を鎮めた。

 彼らの足音が遠ざかって行く。


「アメリア、君の希望通りに彼はうちで保護することになったよ」


 クロヴィスの声が、優しく耳の奥を撫でる。

 プレイヤーが騎士団に入るのはシナリオ通りで、王国ルートへの分岐は成功したと思って良いだろう。


「ありがとうございます、クロヴィス様。記憶がないなんて、可哀想でしたから……」

「優しいね君は。前からずっと」

「あら、なんですか殿下。褒めても何も出ませんよ」


 靴音を響かせながら彼が近づく。


「これがどう出るのか……今度は彼がこの王国を、平和に導いてくれることを願っているよ」


 クロヴィスに見下ろされる。彼の目は私をみているが、どこか遠くを見据えているようにも思えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。