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3 迫るチュートリアル



◇◇◇



 クロヴィスの前で倒れてから三日後、私は馬車に揺られていた。


 窓の外を、白い外壁の石造りの建物が流れていく。近代ヨーロッパのような街並みが異国情緒を感じさせ、馬車のカーテンの隙間から見える景色に、ついじっと見惚れてしまった。


 ここは王都マグフレイア。王国内では一番の人口を誇り、城下町であることからも商いが盛んな都市。


 辺境伯が娘の為にと王都近くにも別邸を構えているが、森の側で静かなのもあり建物は密集していない。人工物が集まる王都はまるでテーマパークのようでもあった。


「アメリア、外に何か? 珍しいものでも見つけたのかい」

「あ、行儀が悪かったですね……すみません……」


 窓の外を食い入るように見ていた私を、隣にいるクロヴィスが呼び掛ける。いけない、令嬢ともあろう者が、子どもみたいに外の景色に見入ってしまうなんて。

 窓から少し離れ、座り直す。


 令嬢らしく振る舞わないと。


 私たちは今、王立劇場に向かっていた。国王が主催する演奏会に招かれ、屋敷まで迎えに来てくれた彼と向かっている最中というわけだ。


 ぎゅっと下腹を抑える。

 推しとのお出かけが楽しみなのが半分、恐怖も半分。妙な緊張で、今にもお腹を下しそうな具合だった。


 無事に今日が終わりますように……。


 そう願ってしまうのも、大きな懸念事項が一つあるせいで。


 王立劇場だが、ゲーム序盤のチュートリアルの舞台なのだ。つまりこれから主人公こと、ゲームプレイヤーが現れる!


 プレイヤーが帝国ルートを選べば、クロヴィスの死が確定するのも同然。

 お願いだからどうか『冬の王国』ルートを選んでほしい。


 チュートリアルのミッションは『皇女の誘拐を阻止せよ』という内容。


 拐われる皇女は帝国ルートの主要キャラである、アベル皇太子の妹だ。ゲーム内ではアベルのことが大好きな彼女は、可愛らしい妹キャラであった。


 彼女を助けた後、どちらの国を拠点にするか選択肢が現れる。それが一番最初の、大きなルート分岐。


 クロヴィスの目を見つめる。


 もし分岐に失敗したら?

 この人は死んでしまうの……?


「……そんなの、嫌」

「ん?」


 因みにリリーナ皇女を拐うのは王国側の勢力だ。停戦協定を結んでからまだ三年、帝国と手を組むのに反対する派閥がまだ国内には多く残っている。

 ゲーム内ではクロヴィスが反対派の彼らを説得しにいくパートがあるのだが、それは中盤でのことでまだまだ先の話。


「ああ、もしかして寒いのか。ほら、こっちにおいで」


 クロヴィスが身を寄せ、体温が伝わってくる。感じる推しの温もりに、バクバクと鼓動がうるさく鳴った。ここは馬車の中、逃げ場はない。ただでさえ推しが目の前にいて心臓が持たないというのに!


「あっ、あの、ち、違うんです! じゃなくて、違いますわ。ちょっといろいろ頭の中がいっぱいでして」

「最近の君は何か思い詰めているようだね……俺にできることはないかな。話を聞かせてくれ」

「いい、いいえ! 大丈夫です! クロヴィス様は、ご自分のことだけ考えてて! ほ、ほら、今日はリリーナ様がいらっしゃいますでしょう? 何かお話できるといいのだけど、おほほほほ」

「……」


 ぴたりと彼が動きを止める。真剣そうにこちらを見遣る瞳に、私は小首を傾げた。


「……アメリア。どうしてリリーナ皇女が来ていることを知っているんだ」

「……え」


 頭の中で木枯らしが吹く。

 あれ、やらかした……?


「え、ええと、陛下が帝国に招待状をお送りしたと聞いておりまして……リリーナ様は、確か、こういうのがお好きだったと、思いまして? えっと」


 まずい。

 クロヴィスの目が、スッと細められた。

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