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2 死亡フラグになんか負けない

 彼の雪の色にも見える銀髪が、暖炉の炎に照らされる。

 画面の中にいた彼が、手を伸ばせば触れられる距離にいた。


 視線に気付いたのか、クロヴィスのアイスブルーの瞳がスッと動く。


「アメリア、まだ寒かった?」

「っ、ち、違うわ」


 慌てて彼のジャケットを頭の上まで被った。

 見つめていれば反応を返してくれる。おしとの距離感に体はどんどん熱くなり、やはりここは夢などではないと思い知らされる。


 ……どういうことなの、どうしてゲームの世界に?


 私は知らない間に死んでしまったのか。

 最後に覚えているのは、パジャマに着替えベッドに潜り込んだ記憶。そのまま寝てるうちにこの世とおさらばしてしまったらしい。


 享年二六歳。


 あまりにも若すぎやしないだろうか。


「……はぁ」

「ため息なんてついて、どうしたんだ? 何か飲み物でも淹れてもらおうか。飲んだら今日はもう、これでお開きにしよう。無理に付き合わせて、また風邪を引いてもいけない」

「ク、クロヴィス様、あの、申し訳ございません!」


 慌てて起き上がると、彼の顔を見た。


 そうだ。彼は今日、先日王城で開かれた茶会を風邪で欠席してしまった私に会いに来てくれたのだ。

 会えなかった埋め合わせをしなければいけないのは、私の方だったのに。


 外では雪がちらつく寒い日。わざわざ来てくれた彼の前で、無様にも倒れてしまった。


 クロヴィスは長椅子の前でしゃがむと、ジャケットを握っていた手に触れた。


「申し訳ないって、何が?」

「何がって、せっかく来ていただいたのに……あなたの前で……」

「病み上がりなんだ、仕方ない。君が辛くないのが一番だよ。せっかく頬に赤みが戻ったのに……白肌の君も可愛いけど、元気な方が俺は好みかな」


 返ってくるのは甘い言葉。

 まるで乙女ゲームの王子が溺愛する彼女に紡ぐ言葉のよう。


 ……ここ、戦記物シミュレーションゲームの世界なんですけど。


 彼の目を見つめる。青い、氷の中の水のような澄み切った水色の瞳。この国の王家に代々受け継がれる、アイスブルーの色。


 ゲーム機の画面で見るような平面的な見た目をしていない。しっかりと凹凸があり、彼の体温を感じた。


 彼は生きている……死ぬ前にやりこんでいたゲームの推しが、目の前にいる。


 息を吸い込むのも忘れ彼の瞳に見惚れてしまう。


「……アメリア?」

「はっ! あ、あの、その、クロヴィス様! 今日の埋め合わせは後日また!」

「ああ。楽しみにしているよ」


 フッと微笑む彼に、ぎゅっと胸が苦しくなる。推しの顔がこんなに近くにあるなんて。

 気恥ずかしさからジャケットを抱え込むようにして胸元に抱き寄せた。


 本物の『アメリア』ではないとバレてしまったら……? 中身が別人で転生者だなんて知られたら、クロヴィスはどう思うだろう。私は推しの愛する婚約者を奪ってしまった極悪人だ。闇魔法で魂と体を引き剥がされ消されてしまうのでは。


 ゾワリと背筋を悪寒が走る。


 知られるわけにはいかない……だけど。


 持っている知識で助けないと。彼に気付かれないよう、俯くふりをして頷く。


 クロヴィス王子には死亡ルートが多かった。ゲーム内にはいくつかのルート分岐が用意されているが、殆どが死亡エンドだ。


 彼が属するウィンゼンス王国と、ガーゼルシュタイン帝国。両国は何かと争いがちで、三年前に停戦の協定が結ばれたばかり……という設定になっている。


 そして今から数年後、クロヴィスがいる王国は何もしなければ大陸統治を目標に掲げた帝国軍に攻め滅ぼされてしまう。ゲームでは主人公が王国か帝国、どちらかの国につき勝利へと導くのが決められたシナリオだ。私達の命は、プレイヤー次第……。


 ゲームでのクロヴィスの紹介にあったのは『悲運の救国王子』


 端から生存させる気がない謳い文句を思い出し、息が詰まる。


 ……この人を失うなんて。


 王国ルートに進んでも、国を守るために戦ったクロヴィスが帝国の皇太子と相打ちになり、弟に王位を託し散ってしまうルートが存在する。それが何も対策せずにプレイした時に進むノーマルエンド。


 進むべきは、トゥルーエンドだけ。


 死亡フラグを折りながら進め、彼が生き残るのエンディングを勝ち取るのだ。


 大丈夫だ、と心の中で繰り返す。大きな分岐になる場面は、頭に入っている。


 転生前の記憶の中で、ゲーム内での彼との思い出が決意を固くさせた。


 彼の即位を見届けるまで、私も死ねない。

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