1 転生先が、婚約者に死亡ルートがあるゲームな件について
「大丈夫かい、アメリア!?」
「……あ」
雪が降り積もった屋敷の庭で、尻餅をついてしまった私に手を差し伸べてくれる白銀の髪の青年。
彼の氷水のような青い瞳を見つめた時、頭の中をかき乱されるような目眩に襲われた。ぐるりと回った世界に、バタリと地面に倒れ込む。
「アメリア!?」
待って頂戴、ここって……。
「さあ、俺の手を取って。やっぱり病み上がりの身体にはまだ厳しかったんだよ。大丈夫? 起きれそうかい」
彼の声が頭に響く。上半身を抱き抱えられているが答える余裕はない。
脳内ではある映像が延々と流れていた。小さな液晶画面を流れるゲームのショートムービーだ。画面の中には、目の前の彼と同じ青年が剣を手に王宮で戦っていて……やがてブラックアウトし、どこかの屋敷にいる令嬢の姿が映し出される。部屋で雪が降る窓の景色を眺める彼女の元に、青い顔をした母が駆け込んできた。
『アメリア! 気を確かに持ってちょうだい……殿下が!』
母を振り返った彼女は、呆然として。
『殿下が帝国に……討たれてしまったの!』
「え」と彼女が呟いたところで、映像は終わった。
今のは私がやりこんでいたゲームのワンシーン。目の前にいる彼は……。
「アメリア?」
「わ、私……」
映像と同じ声。推しの……声が聞こえる!
「クロヴィス殿下だぁ!?」
たまらず叫んだ。
いつの間にか、推し作品の世界に転生していたらしい。
突然叫び出した私を、殿下は重症だと判断したようだ。両腕で抱えられると、素早く屋敷の中に連れて行かれた。
応接室の暖炉には薪が配られており、室内は十分温められていた。
長椅子の上に横たえさせられ、急いで姿勢を正そうと体を起こすとそっと肩を押された。ものすごく優しい手付きだが、私の体はすとんと長椅子のクッションの上に落ちる。
「ダメだよ、アメリア。ほら、手もこんなに冷たくなってしまっている」
「あの、クロヴィス様」
「これも使って」
彼は外套の中に着ていたジャケットを脱ぐと、体の上にかけてくれた。
なんて、いたれりつくせり。
ほんのりと残った彼の体温が、じんと体の奥に染み渡る。ジャケットから香るローズの匂いに、この世界が現実であることを突きつけられる。
「……俺が君を連れ出してしまったからだね。背中は痛めてない?」
「い、いいえ。大丈夫よ」
ずいとクロヴィスの顔が近付く。彼の吐息がかかり、思わず体ジャケットで顔を半分隠した。
本物だ……。
つまり今の私は、彼の婚約者である辺境伯の娘アメリア・テンバートン。『サーガ・アルテミス〜冬の王国と炎の帝国〜』の、ゲームの世界にいる。




