第二十三話
幸さんが懐妊したことで、ちょっとした騒動が発生しました。
幸さんが元々亀であることは、隠してもいませんしほぼ誰でも知っていることです。
それ故に発生した騒動とも言えます。
人と亀の間に生まれた子供は、はたしてそれは人なのか、亀なのかという事を定義づけるべきではないか? とのことなんです。
これどうでもいいことと僕は思いましたが、皇位継承権が発生するかどうかということのようなんですよね。
亀ならば皇位継承権が発生しませんが、人であるならば皇位継承権が発生するために、帝国の秩序に影響するとのことなんですが、僕の皇位継承権の低さを考えますと、どうでもいい話に思えます。
皇位継承権四百五十三位なんて名乗る貴族もいることはいるようですから、その辺の序列に影響すると言うことなんでしょうけれども。
現実問題として親の僕ですら皇位継承権持ちが上に三十人以上いる上に兄帝に子供が出来ればその順位はさらに下がる状態です。
皇位継承の可能性は実質的に皆無なんですから、そんなこと騒いだところで意味があるとも思えません。
そんな暇あるなら、書類決裁しましょうよ。
でも、だんだんお腹が大きく膨らんでくる幸さんを見ると純粋に愛おしくなります。
自分の子供が生まれると言うのもありますけど、僕の子供を愛する幸さんが産んでくれるんだと思うと、すごい幸せな気分になります。
通常の出産ではないため、期間も一緒かはわかりませんが待ち遠しいですね。
そんな家族のことに構っている間にも、国の状況は動いています。
弱体化した成の領土を狙う光と建以外の隣接国に対して、光として先制攻撃をするべきかどうかということで議論が起きていることが大きいですね。
内政的には成は皇帝が治める帝国ですが、光が首都に軍を駐留する冊封国でもあるわけです。
となれば、成への攻撃は、光への攻撃と見なすことになります。
それを列強もわかっている筈なのですが、前回の戦いで軍主力が壊滅した傷が癒えない成が美味しい餌であるように見えることは避けられないのでしょう。
光も成との戦いのように運河を使って前線に兵を早期に集結させて進軍みたいなことを成の領内では出来ませんから、光が出てくる前にいかようにも出来ると示して成に譲歩させる威圧的交渉をしているようです。
そんなことを言われている状態は、光に対する挑発と取れなくもないのですが、直接的に光に対して言ってきているわけではないため、手を出しにくいということではあります。
勿論、光と直接戦うこと自体までは列強も望んでないとは思います。
いくら元々軍はあまり強くないという世評のあった光軍とはいえ、成に対して完勝したことで多少は評価が変わっていますし、戦いとなれば無傷の勝利などあり得ないのはわかりきっていますからね。
光のように領土が広い割には国境を接する国が少なく、敵を限定できる国ならばともかく、他の成に接する列強は、列強同士の国境が入り組んでいますから、戦いで勝利しても暫くは国力回復に時間がかかります。
それが統治者すべての念頭にあったからこそ、一時的に戦火が絶え平和な時代が続いていたともいえるでしょう。
光としても強く出れない理由はあります。
前回のように成から仕掛けてきたと明確にいえる状況であれば、他の諸国が盟約を発動して攻撃してくることもなかったでしょうが、光が仕掛ける場合には、連合して対処してくると言う可能性は十分にあり得るわけです。
当時は、光が成に簡単に勝てるわけがないと思われていたと言うのも大きかったでしょうし。
しかし、成に対して、完勝したことで警戒される対象となったと見られてもおかしくはありません。
もっとも、成に対して仕掛けて来ていることを思えば杞憂な気もしなくもないですが、光から手を出したと言う既成事実を作るために意図してやっている可能性もありますので、積極策に出ることをためらわせるには十分な状況です。
「外交で、光の立場を強化することが一番ではないでしょうか?」
「とはいえ、成・建を冊封国にしたことで警戒されてしまっている。よほどの条件でなければ、まともな盟約など結べますまい」
「隣接国との盟約ではなく、遠方の国ならばいかがでしょうか? 成を威圧している国々を想定した攻守同盟を結ぶのです」
「と言いますと?」
僕は、遠交近攻策を提案した。
成と隣接して、成に圧力をかける国の隣国で成や光と境を接しない国であれば、光を直接警戒する必要がなく、盟約を結ぶことも可能になるのではないかと。
具体的な標的としては、文化大国である風を想定します。
風は文化ほどには軍は大国と見なされていません。
ですが、それなりの国力はありますので、光と風が手を組んだとなれば、挑発してくる列強達もそう簡単に強気にはなれないはずです。
一方風にとっては、盟約の存在だけで大きな利益が得られるわけです。
風に対して攻撃してくるとなると、光が後ろから攻撃してくると思えば抑止力になるでしょう。
風は、光や成と国境を接するわけではありませんから、光と盟約しても、攻撃できなくなるなどと言った制約もありません。
特に問題なく盟約を結んでくれるのではないでしょうか。
「なるほど、それは理に適っておりますな。早速下交渉を始めましょう」
流石に盟約ともなると、トップ同士が会ってすぐに取り決めなんてことはできない。
まずは時候の挨拶からはじまって、徐々に関係強化を行う必要がある。
最終的に盟約を結ぶことを示唆はしていますが、いきなり直接的提案をするとなれば、相手を重んじてないとみなされかねません。
徐々に、形式に則って親しくして行くという形になります。
もっとも、風のほうは風のほうでこの盟約が魅力的と思っているようで、割とすぐに具体的な話をしたいと言うふうなことを言ってくれはしましたけどね。
そんなこんなで過ごしているうちに、幸が僕の子供を産んでくれました。
少なくとも見た目は、人の赤子で男の子です。
「幸さん、大変でしたね。ありがとう」
「棒様、私も卵を産むことになるのかと思いましたが、人として産まれてくれましたので不思議な気持ちです。でも、こうして棒様の子供が産めたことが幸せですから、些細なことはどうでも良いですね」
僕と幸さんの間に生まれた子供は、兄帝の勅令により瑠と名付けられました。
皇族の一員として認められ、皇位継承権も付与されました。
順位としては高くないけど、亀の子供が皇帝になる可能性が発生したとして、大華世界全体で話題になっているみたいです。
でも、僕と幸、そして瑠が幸せになれればそれで良い話です。
風との盟約の交渉も詰めの段階となっていますし、順風満帆と言っていい状態になってきました。
外交描写は、戦国時代の合従連衡をモデルにしています。




