第二十二話
「建が傘下に入りたいと言ってきたんですか?」
「ええ、建は大華の八帝に入らない小国で大華帝国の公を名乗っている国でしかありませんが、大河の河口にある中州と言う戦略上の要地にあります。今までは光と成の国境の緩衝地帯としての意義がありましたが、成が我が国に臣下の礼を取った今、緩衝地としての意義が喪失しましたからな。戦いになっても簡単に滅びるだけですので、自ら傘下に入りたいと言ってきているのでしょう」
「なるほど。確かに戦って滅びるよりは、少しでも有利な条件を望むと言うところですか」
「そうです。成との和議で、国を存続させ領土の割譲を求めなかったことを見て、戦ってすらこの条件で済むのであれば、自ら降伏するならもっと有利な条件に出来ると考えたのでしょう」
それはどうなんでしょう?
成は緩衝地帯としての利用価値がありますし、統治費用を考えますと既存の支配組織及び、軍を利用できれば有利と言う程度のことですから。
建は緩衝地帯としての意味が喪失した以上、存在意義にも疑問があります。
もっとも成が力を取り戻し独立を求める可能性もあることを考えれば、無碍に扱うわけにもいきませんか。
「それでは、成に対する条件と貿易に関して変更する程度でいかがでしょうか? 建は光と成から売られる物品に対して関税を徴収することを禁じる。光は、建からの物品に関税を徴収しない、とするのです」
「確かに、成に対する条件よりは建から光に来る物品にも関税を取られなくて済むと言う意味では有利ですが、これだけで飲みますでしょうか?」
「彼らが少し考えればわかる筈です。成から建に来る物品の税を安くするかなくすかすれば、成から光に売りに来る物品が、建経由に運ばれることになると」
「おお、確かにそうなれば、建にとっては美味しい話でございます」
「もっとも、光が成に対して税率を下げないとは一言も交渉の場では言う必要がありません。条約が結ばれてから光の国益を鑑みて税率に関して考えればいい話なのですから」
光から成に対しての物品について税徴収を禁じた結果、光の物品が成に流れ込んでぼろ儲け状態になっています。
ただ、成からの富が光に流れ込んでくるだけでは、成の富が枯渇するのも時間の問題です。
それに、光の民にとって成からの物品が安く手に入れば、それを利用して新たな産業を行うと言ったことも視野に入れることが出来るわけです。
実際、光から安く入ってくる物品を利用して成で産業を興している事例が見受けられますので、目端の利く商人達から、成の物品に対する関税を安くしてほしいと言う陳情が来ています。
「暫くは、建に儲けさせることも必要でしょう。こうやって儲けることが出来るとわかれば、他の小国も光に靡くかもしれません」
「それもそうですね。では、建に対して税率を少し引き下げることは考えていると提示しましょう。建はそれよりも安くする・無関税にすれば儲かるという考えに誘導することも出来るかもしれませんし」
「それがよろしいでしょう」
交渉の条件が決まりましたので、実際の交渉の場に赴くことになりました。
僕自身、宰相補佐としての役職と皇族と言う身分の重さがちょうどいいと、正使扱いで参加することに。
でも、役職のほうはともかく、三十三番目で皇族も何もあったものでもない気はしなくもないです。
その軽さが逆に格下の国に対してちょうどいいのかもしれませんね。
「ようこそいらっしゃいました。我が国は、弱体化著しく存在価値のない大華帝国から独立し、光に臣下の礼を取る準備がございます」
建の宮廷では歓迎されています。
でも、形式とはいえ目の前で宗主国が弱体化しているから独立して別の国に鞍替えする、と言うことを言う神経はどうなんでしょう?
実質的には、大華帝国とは関係ない独立国だったわけですし。
それを言うなら僕自身、冒険者組合所属の冒険者と言う意味では大華帝国の構成員ですしね。
不機嫌になってはしまいましたが、外交の場で感情をあらわにするのは禁物です。
もっとも、
「私の妻は、大華帝国から迎えた形になっているのですが、その前で大華帝国が存在価値がないと言われるとは、どのようなご存念でしょうか?」
「え? あ」
表明ぐらいはしても良いですよね。
あくまで交渉で有利な条件を引き出すための駆け引きですよ、きっと。
勿論、大華帝国からと言うのは形式にすぎませんし、自国のことではなく妻の国ことを言われても? と考えられるのは仕方ないとは思います。
でも、意趣返し位はさせていただいても良いでしょう。
最初の失言を追求したことが良かったのか、交渉は光ペースで進みました。
形式的に譲歩したとするために条件として設けていた貢納や光の軍船の港優先使用、建の外交権を光への譲渡についても建は受け入れました。
建は大華帝国の諸侯としての地位を放棄し、光から冊封を受ける政権となりました。
もっとも、貢納は大した額ではありませんし、軍船の港優先使用は戦時になれば力づくでとなったでしょうし、外交権の譲渡も隣国は光の勢力圏のみとなっている建がもっていても仕方ないものではあります。
遠交近攻をするには、建の国力がなさすぎますし。
交渉を無事終わらせ光に戻った僕に、衝撃的な知らせが入りました。
幸が妊娠?
あれ? 仙人って子供が出来るんですか?
僕が光にいる時には、毎晩のように房中術を行っていましたから、当然可能性は出てくるんでしょうけど、仙人、しかも元が亀だったことを考えますとちょっと最初言われた時には、何を言っているんですか? と思いました。
でも、幸との間に子供が出来ることは嬉しいですし、幸の元に駆けつけます。
「幸、ありがとう」
「棒様、幸は」
「僕と幸の子供が生まれるとは確かに思ってなかったけど、生まれるとわかったらうれしくて仕方ない。身体を大事にして、元気な子供を産んでよ」
「棒様」
その後僕と幸は抱き合いました。
良く考えてみれば、西王母は娘を結構産んでいるんですし、子供が出来てもおかしくないんですよね。
子供が生まれるまで、まだ時がありますが待ち遠しくなりました。




