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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第三章――「二つの世界の復讐」

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第7話(前編1)――「王都脱出の決意」

 その日の午後、グランツ公爵邸では、アルベルトが家令から王宮の動向について報告を受けていた。


 軍務局が証人への加害を企てた男を捕らえたことも、すでに耳に入っている。セシリアが手配した男まで失敗したとなれば、王宮の調査が公爵家へ及ぶのは避けられそうになかった。


 そこへ家令が急いで入ってきた。


「閣下、王宮から兵が派遣されるとの情報が入りました。閣下とセシリア様のお身柄を王宮へ移し、取り調べを行う方針のようでございます」


 アルベルトは椅子から立ち上がった。


「私を捕らえるつもりなのか! 何の権限があって、公爵である私を罪人のように扱うのだ!」


「陛下からのご命令でございます。王軍への襲撃事件について、正式に事情をお尋ねになるものと思われます」


「事情なら、これまでにも何度も説明してきたではないか。これ以上、何を聞くつもりなのだ!」


 家令は返答に困った。


 王妹の財産を使った件では、すでに公爵家の帳簿が調べられている。そこへ今回の襲撃事件が加わり、証人への加害計画まで発覚した。


 国王が正式な拘束を命じても、不思議ではない状況だった。


「王宮の兵は、いつ来るのだ?」


「明日にも命令書を持って参る可能性がございます。ただし、正確な時刻までは分かっておりません」


 アルベルトは家令を下がらせ、執務室に1人で残った。


 王宮へ連れていかれれば、すでに提出された帳簿や書状について説明を求められるだろう。支出承認書には自分の署名があり、商人は襲撃計画についてアルベルトも承知していたと話しているかもしれない。


 何も知らなかったと主張しても、簡単には認められないはずだった。


 アルベルトは机の引き出しから公爵領の地図を取り出した。


 領地には、まだ自分に仕える家臣や私兵がいる。王都に残れば拘束されるが、公爵領へ戻れば、国王と交渉する余地が残るかもしれない。


 アルベルトが地図を広げているところへ、セシリアが入ってきた。


「旦那様、王宮の兵が来るというのは本当でございますか?」


「ああ。どうやら陛下は、私たちを捕らえて取り調べるつもりらしい」


 セシリアは顔色を変えた。


「そんな……。公爵家の私たちが、本当に拘束されるのですか?」


「今の状況では、そうなるだろう。だから私は王都を離れることにした」


「王都を離れるとおっしゃいますと、公爵領へお戻りになるのですか?」


「そうだ。領地には私兵も家臣もいる。あちらへ戻って体制を整えれば、陛下と話し合うこともできるはずだ」


 セシリアは夫の考えを聞き、不安を覚えた。


「でも、陛下から王都を離れてはならないと命じられておりますでしょう。その命令に背けば、ますます罪が重くなるのではありませんか?」


「ここで捕まれば、それまでだ。領地へ戻りさえすれば、まだ手はある。私が公爵であることに変わりはないのだからな」


 アルベルトは地図に記された公爵領の城を指した。


 そこには長年自分に仕えてきた家臣や兵士がいる。王都から数日かかる場所まで逃げれば、追ってくる王軍にも対応できるだろうと考えていた。


 セシリアは、机の地図を見つめた。


 王宮へ連れていかれれば、商人への支払いだけでなく、証人を殺そうとした件についても追及される。自分が依頼した男まで捕らえられている以上、知らなかったと言い張るのは難しい。


 それでも、王都から逃げることが正しい判断なのか、彼女には分からなかった。


「旦那様、本当に領地へ戻れば安全なのでしょうか。王軍が追ってきたら、私たちはどうなるのですか?」


「公爵領には兵がいる。陛下も、簡単に私兵と戦う決断はできまい。まずは領地へ戻ることだ」


 アルベルトは自信を持って答えた。


 セシリアはしばらく考えた末、夫についていくことにした。


「それなら、私もご一緒いたします。ここに残って王宮の兵に捕らえられるよりは、旦那様のおそばにいた方が安心ですもの」


「当然だ。お前だけ残していけば、取り調べで何を話すか分からんからな」


 セシリアは夫の言い方に腹を立てたが、今は言い争っている場合ではなかった。


 アルベルトは家令を呼び、信頼できる家臣と護衛の指揮官を集めるよう命じた。


 公爵領の家臣には早馬を送り、自分が戻るまでに動かせる兵を集めるよう伝える。王都を出たあとに使う馬車や宿駅についても、手配を進めさせることになった。


 ただし、国王から王都を離れることを禁じられている以上、正式な手続きで城門を通ることはできない。そこで、城門の警備に関わる者の中から、公爵家に協力する人物を探すよう命じた。


 アルベルトは、翌日の夜までには公爵邸を出るつもりだった。


 セシリアも侍女たちに命じ、旅行用の衣服や装飾品をまとめ始めた。公爵家の財産についてはすでに調査が進んでいる。王都を離れる前に、できるだけ多くの金や宝石を持ち出しておきたかった。


 一方、命令を受けた家臣たちは、不安を隠せずにいた。


 王命に背いて逃亡するだけでも危険なのに、私兵を集めて王軍と対峙することになれば、自分たちまで処罰される可能性がある。


 しかし、アルベルトはそんな不安に構おうとしなかった。


「陛下も、公爵である私を簡単に処罰できると思うなよ。領地には兵も財産もある。王都から離れてしまえば、まだ何とでもなるはずだ」


 アルベルトは家臣へ準備を急ぐよう命じ、再び地図へ目を向けた。


 今のうちに王都を脱出すれば、まだ巻き返せる。


 アルベルトは、そう信じていた。


 その一方で、公爵領から呼び寄せる護衛兵たちには、王軍が追ってきた時にどう対応するのか、具体的な説明がなされていなかった。


 公爵家に仕えることと、王命に背いて戦うことは別である。


 その問題が、のちにアルベルト自身を追い詰めることになるとは、当の本人はまだ考えていなかった。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の夜、グランツ公爵邸の裏門には2台の馬車が用意されていた。


 アルベルトは家臣から城門の警備について最後の報告を受け、王都からの脱出を決行することにした。


 今夜の当直には、以前から公爵家と付き合いのある門衛がいる。家臣が金を渡し、公爵家の荷物を運び出す名目で馬車を通すよう頼んでいた。


 通常なら、夜間に王都を出る馬車は厳しく調べられる。しかし、門衛が協力すれば、乗っている人物を確認されずに通過できる可能性があった。


「手配に間違いはないのだろうな。城門で止められれば、その場で王宮へ連絡されてしまうぞ」


「すでに話はついております。公爵家の印が入った書類を見せれば、通行を認めるとのことでございます。ただし、護衛が多すぎますと目立ちますので、騎兵は10人に抑えております」


「それでよい。王都を出てしまえば、あとは領地へ向かうだけだ」


 アルベルトは外套を羽織り、家臣とともに裏門へ向かった。


 馬車のそばでは使用人たちが荷物を積み込んでいたが、その中でセシリアが侍女と言い争っていた。


「奥様、申し訳ございません。これ以上お積みしますと、馬車が重くなりすぎてしまいます」


「でも、こちらは私の衣装なのよ。王都へ戻れなくなったら困るでしょう。大切なものばかりなのだから、きちんと積んでちょうだい」


 セシリアは衣服を詰めた箱のほか、宝石や装飾品も持ち出そうとしていた。


 アルベルトは積まれた荷物を見て顔をしかめた。


「何だ、その箱の数は。旅行に出かけるわけではないのだぞ」


「分かっておりますわ。でも、こちらは私の大切な衣服や宝石なのです。王宮の役人に取り上げられてしまうかもしれませんし、置いていくわけにはまいりません」


「衣服なら領地へ戻ってから用意すればよい。今は身軽にしておかねばならん。大きな箱は降ろせ」


「せめて宝石だけは持っていかせてくださいませ。私の財産ですもの」


 セシリアは小さな宝石箱を胸に抱え、譲ろうとしなかった。


 アルベルトは言い争っている時間を惜しみ、衣服の入った大きな箱を降ろさせる代わりに、宝石箱だけは持参を認めた。


 馬車が出発するころには、屋敷の使用人たちも緊張していた。国王の命令に背いて主人を逃がすことになると、皆が承知していたからである。


 アルベルトは家臣に見送られ、セシリアとともに馬車へ乗り込んだ。

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