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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第三章――「二つの世界の復讐」

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第7話(前編2)――「夜の逃亡」

 裏門が開かれ、護衛の騎兵を先頭に2台の馬車が動き始めた。


 王都の通りには人影が少なく、馬車の車輪が石畳を踏む音だけが響いていた。アルベルトは窓の覆いを閉じ、城門へ到着するまで外を見ないようにしていた。


 やがて馬車が止まった。


 城門に着いたのである。


 護衛の騎兵が前へ進み、公爵家の印が入った書類を門衛へ渡した。


 門衛は書類を確かめ、馬車へ目を向けた。


「公爵家の荷物を運ぶと聞いているが、この時間に出発する必要があるのか?」


「領地から急ぎの用件が届きまして、夜のうちに出発するよう命じられております。通行の許可については、すでにお話が通っているはずでございます」


 騎兵がそう答えると、門衛は周囲を確かめ、ほかの兵に門を開けるよう合図した。


 馬車の扉を開けられることはなかった。


 城門の外へ出ると、護衛の騎兵たちは速度を上げた。


 アルベルトは窓の覆いを少し開き、背後の城壁が遠ざかっていくのを確認した。


「ようやく王都を出られたな。これで王宮の連中も、簡単には私を捕らえられまい」


 セシリアは、暗い街道へ目を向けた。


「本当に大丈夫なのでしょうね。陛下のご命令に背いたのですから、明日には追手が来るのではありませんか?」


「もちろん、いずれは追ってくるだろう。だが、領地までたどり着けば、こちらにも兵がいる。王軍が来たとしても、簡単に手を出せるものではない」


 アルベルトは自信ありげに答えた。


 しかし、セシリアには不安が残っていた。


 王都を離れたところで、軍務局へ提出された帳簿や書状が消えるわけではない。しかも、証人を殺そうとした男まで捕らえられている。


 それでも、今さら引き返すことはできなかった。


 馬車は護衛の騎兵を従え、公爵領へ向けて夜の街道を進んでいった。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、グランツ公爵邸へ王宮の兵が到着した。


 指揮官は国王の命令書を家令へ示し、アルベルトとセシリアを王宮へ同行させるよう求めた。


 ところが、2人はすでに屋敷を出ていた。


 家令は最初、主人の行き先を知らないと答えた。しかし、王宮の役人が屋敷の出入りを調べると、昨夜遅くに馬車2台が裏門から出発したことが分かった。


 さらに城門の通行記録を調べたところ、公爵家の荷物を運ぶ馬車が夜間に通過していたことも判明した。


 当直の門衛は取り調べを受け、通常の確認を省略して通したことを認めた。金を受け取っていたことについても、関係者の証言から調査が始められた。


 その日の午前中には、公爵夫妻が王命に背いて王都から逃亡したことが明らかになった。


 報告を受けた国王は、軍務局の将校たちを執務室へ集めた。


「アルベルトは、とうとう逃げたか。王都を離れるなと命じておいたはずだが、私の命令を守るつもりはなかったらしいな」


 軍務官が、確認できた情報を説明した。


「昨夜、馬車2台と騎兵10人ほどで西へ向かったとのことでございます。公爵領を目指していると思われますので、すでに街道の宿駅へ通過状況を確認させております」


「公爵領には私兵がいるな。どれほど集められる?」


「領内各地に分散しておりますが、数百人規模になると思われます。ただし、すべての将校がアルベルト公爵の命令に従うかどうかは分かりません」


 国王は机に広げられた地図を見た。


 公爵領にはアルベルトが居住する城があり、兵を集めて立てこもれば、拘束までに時間がかかる可能性がある。王軍が強引に攻め込めば、戦闘に巻き込まれる領民が出る恐れもあった。


 国王は、まず公爵領の周辺にある王軍駐屯地へ連絡するよう命じた。


「アルベルトが兵を集める前に、主要な街道を押さえておきたい。公爵領の将校たちにも、王命に背いて兵を動かせば責任を問うことになると伝えよ。ただし、命令に従う者まで処罰するつもりはない」


「承知いたしました」


「それから、ローデン子爵を呼べ。あの男に1,000人の兵を率いさせる」


 軍務官は命令を受け、使者を出した。


 レオンは王都に滞在していたため、その日の午後には王宮へ到着した。


「レオン、またお前に頼みたい仕事ができた」


 国王はそう切り出し、公爵夫妻が王都から逃亡したことを説明した。


 レオンは驚いたものの、アルベルトの行動を知ると、ある程度は納得した。


 あの男は公爵という身分に強い執着を持っている。王宮で罪を追及されるより、自分の領地へ戻って抵抗しようと考えても不思議ではなかった。


「公爵領へ戻ったところで、陛下の命令から逃れられるわけではないのに……。それでも、兵を集めれば何とかなると思っているのでしょうね」


「おそらくな。そこで、お前に王軍1,000人を預ける。アルベルトとセシリアを拘束し、王都へ連れ戻してほしい」


 国王は公爵領の地図を指した。


「ただし、できる限り戦闘を避けよ。公爵家の兵士も王国の民だ。降伏する者まで無理に戦わせる必要はないし、領民にも犠牲を出したくない」


 レオンは地図を確かめた。


 公爵家の城は領内の中心部にあり、周囲を街道と川に囲まれている。正面から攻めることも不可能ではないが、城壁を利用して守られれば、兵力で勝っていても損害が出るだろう。


 それなら、別の方法がある。


「陛下、まず城へ通じる街道と橋を押さえ、外から兵や物資を運び込めないようにしたいと思います。そのうえで、城内の兵士たちへ降伏を呼びかけます。公爵夫妻を守るために国王の軍と戦いたい者ばかりではないでしょうから」


「よい考えだ。私もアルベルトを殺せと命じているわけではない。生きたまま連れ戻し、何をしたのか詳しく調べる必要がある。セシリアについても同じだ」


「承知しました。王軍の皆さんと協力し、できるだけ犠牲を出さずに終わらせます」


 国王はレオンへ正式な指揮権を与え、必要な兵と物資を手配させた。


 今回の1,000人は、王都の兵だけで編成されるわけではない。公爵領の周辺にある王軍駐屯地からも部隊を集め、現地で合流することになっていた。


 レオンは軍務官と輸送や補給の計画を確認した。


 王都から全軍を連れて進めば、公爵夫妻に逃げる時間を与えてしまう。そこで、先行する騎兵が逃亡先を確認し、周辺の駐屯地から兵を集めて主要な街道を押さえる。レオン自身は王都からの部隊とともに進み、現地で指揮を執ることになった。


 王軍の将校たちも、レオンの方針に賛成した。


 公爵側が城に立てこもった場合、攻撃して降伏させるより、退路と補給路を押さえて説得を続けた方が、兵士や領民の被害を抑えられる可能性が高かった。


 準備を終えると、レオンは王都を出発した。


 ◇ ◇ ◇


 アルベルトとセシリアが公爵領へ到着したのは、王都を出てから数日後だった。


 城では、先に届いた命令によって私兵が集められ始めていた。しかし、その数はアルベルトの期待を下回っていた。


 領内の将校たちにも、公爵が国王の命令に背いて逃亡したという知らせが届いていたのである。


 公爵の指示だけで兵を動かすことに慎重な者もいた。中には、王軍と戦うことになれば自分たちも反逆者として扱われると考え、召集に応じない将校もいた。


 それでも、城の守備兵を含めれば300人近い兵が集まっていた。

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