↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/92

第3話(後編)――「銀貨9枚」

 5月下旬、レオンのもとへ馬商人の紹介で客が来るようになった。馬や荷車を買う前に相談したいという者が多く、市場を離れて占いに出向く日もあった。


 ただ、占えば必ず答えが出るわけではない。はっきり分からなければ、そのまま相手に伝えた。前世の占い店でも、分からないことまで断言してはいけないと教えられていた。


 商人たちは、そうした返答にも腹を立てなかった。むしろ、無理に話を合わせないことが信用につながったらしく、別の相談を持って再び訪ねてくる者もいた。


 月末が近づいた朝、エルザはレオンから預かった革袋を食卓に置き、中の金を数えていた。


「昨日の分まで、これに入っているのね?」

「ああ。それで今月稼いだ分は全部だよ」


 エルザは銀貨をもう一度数え、隣で黒パンを食べていた夫を見た。


「銀貨9枚よ。ほかに銅貨もあるわ」


 ゲオルグはパンを持つ手を止めた。


「9枚もあるのか。俺の給金より多いじゃないか」


 レオンも食卓の銀貨を見つめた。銅貨を数えて薪を買っていた先月には、これほど稼げるとは思っていなかった。


「今月は馬の相談が来たからな。毎月これだけ稼げるかは分からないよ」

「それでも9枚だろう。俺は毎日城へ通って8枚だぞ」

「父さんの給金は毎月入るじゃないか。俺の方は、来月どうなるか分からないんだ」


 ゲオルグはうなずいたが、まだ銀貨を見ている。リナが父と兄を見比べ、口を挟んだ。


「兄さん、そんなに稼いだなら、また肉を買えるよね?」

「お前はすぐ肉の話になるな」

「だって、おいしかったんだもん」


 エルザは笑いながら銀貨を袋へ戻し、レオンへ渡そうとした。


「母さんが持っていてくれ。銀貨は家の金にしていいよ」

「9枚とも預けるの? 自分で使う分も必要でしょう」

「銅貨はもらっておくよ。市場へ行くには、それで足りるから。銀貨は家賃や薪代に使ってくれ。借金も残っているんだろ」


 ゲオルグがパンを皿に置いた。


「借金までお前に払わせるつもりはない。まだ16歳なんだぞ」

「父さんだけに払わせることもないだろう。俺もここで食べて、暮らしているんだから」


 父が家族のために働いていることは、毎朝、城へ出かける姿を見て知っていた。母が買い物のたびに値段を比べ、出費を抑えていることも分かっている。自分にも稼ぎができたのだから、2人に使ってほしかった。


「借金だけに使わなくてもいいんだ。食べ物を少し増やしたり、リナに必要な物を買ったりしてくれ。残った分は貯めておけばいい」


 エルザは袋を手元へ引き寄せた。


「それなら預かるわ。あなたも、何か買いたい物ができたら言うのよ」

「分かった。また稼いでくるから、母さんも少しは楽をしてくれ」


 ゲオルグは息子の顔を見て笑った。


「頼もしいことを言うようになったな。今月は俺の負けだ」

「稼ぎで勝負していたわけじゃないだろ」

「それでも、息子に追い越されれば気になるんだよ」


 父がようやくパンを食べ始めると、リナがエルザへ肉を買う日を尋ねた。まず今ある食べ物を食べてからだと母に言われ、慌てて自分の皿へ手を伸ばした。


 ◇ ◇ ◇


 朝食後、ゲオルグは伯爵家へ向かい、リナは母の手伝いを始めた。レオンは家の裏へ出て、父から借りた練習用の剣を構えた。


 【剣術Ⅰ】を得てからも、父にはなかなか打ち勝てない。狙いを読まれて受けられたり、踏み込む前に剣先を押さえられたりする。ただ、教えられたことを次の稽古で試せるようになり、以前より長く打ち合えるようになった。


 馬にも、商人の好意で何度か乗せてもらっていた。初めて鞍に上がった時から馬の動きに合わせて身体を動かせたため、商人には本当に乗ったことがないのかと繰り返し聞かれた。【乗馬Ⅰ】も、剣術と同じように役立っている。


 レオンは昨日の稽古で直された足の運びを確かめ、剣を振った。父に相手をしてもらうまでに、できるだけ身に付けておきたかった。ひと通り練習を終えたら、今日も市場へ出るつもりだった。


 その日の夕食は、豆のスープに野菜がたっぷり入り、白いパンも2つ並んだ。エルザが切り分けると、リナは自分の分を手に取って兄に尋ねた。


「これ、兄さんが稼いだお金で買ったんだよね?」

「そうだと思うよ」


 リナはパンを半分に割り、片方を兄の皿へ置いた。


「じゃあ、兄さんにこれもあげる」

「俺にも分けてもらってるよ。お前が食べろ」

「でも、兄さんが買ってくれたんだから」


 レオンは妹の皿へパンを戻した。


「また買ってくるから、今日は自分の分を食べてくれ」


 リナはそれで納得し、パンを口へ運んだ。エルザも椅子に腰を下ろし、家族と一緒にスープを食べ始めた。


 銀貨9枚を家に入れても、借金がなくなったわけではない。これからも父の給金は必要で、自分の稼ぎが途絶えれば、食費を切り詰める暮らしへ戻るだろう。


 それでも、母は今夜のパンを買えたし、妹も喜んで食べている。レオンは具の増えたスープをすくいながら、次はもう少しまとまった金を稼ぐ方法を占ってみようと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。