第6話(前編2)――「占術が見た待ち伏せ」
それから数日後、ローデン領では次の軍需品の出荷準備が進められていた。
レオンは管理官とともに倉庫を訪れ、木箱の数と荷札を確認していた。鉄製品は種類ごとに分けられ、保存肉は密閉した容器に収められている。薬についても湿気や衝撃を防ぐための梱包が施されていた。
「今回の荷物は、すべて出荷前の検査を終えているのか?」
「はい。鉄製品については工房の責任者が検査を済ませております。保存肉と薬も確認が終わり、あとは荷車へ積み込むだけでございます」
管理官は出荷帳を開き、輸送を担当する御者と護衛兵の名前を示した。
以前の事件を受け、荷車には護衛を同行させることになっている。途中の宿駅でも荷物を勝手に動かされないよう、監視を続ける方針だった。
「車輪や車軸についても、出発前にもう一度確認しておいてくれ。品物の種類が増えた分、積み込みの間違いにも気を付けたい」
「承知しております。整備担当者にも確認させますので、前回のような細工をされる心配は少ないと思います」
「そうだといいんだけどな。まだ、誰が妨害を命じたのか分かっていないからね」
レオンは出荷帳を閉じ、壁に掛けられた街道の地図へ目を向けた。
次の輸送隊が無事に王都へ到着するか、出発前に占術で確認しておくつもりだった。
これまでにも、荷車の事故や人為的な妨害を予知し、事前に対策を取ってきた。今回も何事も起きなければ、それに越したことはない。
レオンは地図を机へ広げ、出発予定日と輸送経路を確かめた。
そして、荷車が王都へ向かう様子を思い浮かべ、意識を集中した。
しばらくすると、街道を進む輸送隊の姿が視界に現れた。
空は晴れており、御者たちも普段どおりの様子だった。護衛兵が周囲を警戒しながら進み、荷車は予定された宿駅へ到着する。
そこで夜を過ごした一行は、翌朝、再び王都へ向けて出発した。
ところが、林に挟まれた道へ入ったところで、突然、前方に数人の武装した男が現れた。
護衛兵が馬を止め、御者たちへ下がるよう命じる。
その直後、林の中から矢が飛んできた。
護衛兵の1人が馬から落ち、別の兵が剣を抜く。道の両側からさらに男たちが現れ、荷車へ向かって走り始めた。
レオンは、その光景を詳しく確かめようとした。
襲撃者は20人以上いるようだった。剣や槍を持った者のほか、弓を構えた男も見える。護衛兵たちは応戦するが、狭い街道では思うように動けず、御者たちも馬を落ち着かせることで精いっぱいだった。
やがて襲撃者の1人が火のついた布を荷車へ投げ込んだ。
乾いた梱包材に火が移り、炎が広がっていく。ほかの男たちも積み荷を壊し始め、護衛兵は荷車を守りきれなくなっていた。
そこで光景が途切れた。
レオンは地図から顔を上げた。
「今度は武装集団か。しかも、荷物を奪うのではなく、焼き払おうとしていたな」
管理官が近づいてきた。
「何か危険が見えたのでございますか?」
「ああ。林に挟まれた狭い街道で、20人以上の武装した男たちに襲われるところが見えたんだ。護衛兵にも怪我人が出ていた。今回は荷物を守るだけでなく、襲撃そのものを防ぐ必要がある」
管理官は、すぐに護衛兵を増やすことを提案した。
しかし、レオンは首を横に振った。
「護衛を数人増やした程度では、あれだけの人数に対応できないだろう。まず襲われる場所を確かめたい。それが分かれば、別の方法も考えられるはずだ」
レオンは地図を調べ、占術で見えた道の形を確かめた。
両側に大きな木が並び、少し先で道が緩やかに曲がっている。王都へ近づいた辺りに似た場所があり、そこには王軍の駐屯地も置かれていた。
レオンは護衛隊長を呼び、地図の該当箇所を示した。
「この道を覚えているか? 両側に林が続いていて、先の方で道が曲がっている場所なんだが」
「はい。王都へ向かう途中にある狭い街道でございます。何度も通ったことがありますが、林に人が隠れていれば、道から見つけるのは難しいでしょう」
「占いでは、そこで襲われるところが見えた。しかも敵は積み荷に火をつけようとしていたんだ」
護衛隊長は、今回の襲撃が単なる盗賊によるものではない可能性を指摘した。
荷物を奪うことが目的なら、わざわざ焼き払う必要はない。20人以上の武装した男たちが同じ輸送隊を狙うとなれば、誰かが計画していると考えた方が自然だった。
レオンも同じ意見だった。
以前のサルヴィ商会事件も、王軍への納入を失敗させることが目的だった。今回も同じ人物が関わっている可能性はあるが、占術で見えたのは実行役だけである。背後に誰がいるのかまでは分からなかった。
「今回は荷物を守るだけで終わらせたくない。実行役を捕まえれば、誰に雇われたのか聞き出せるかもしれないからね」
レオンは管理官に命じ、襲撃が予想される区間を避ける別の経路を調べさせた。
さらに、出荷予定日と到着予定日を確認した。荷車が問題の場所へ着くまでには、まだ数日ある。先に早馬を走らせれば、近くの王軍駐屯地へ事情を知らせる時間は十分にあった。
「王都の軍務局へ知らせを送っていては、返事を待つだけで何日もかかってしまう。今回は襲撃場所に近い駐屯地へ直接連絡しよう。必要なら、そこから軍務局へ報告してもらえばいい」
護衛隊長も賛成した。
レオンは占術で見えた地形と襲撃の状況を詳しく書き、駐屯地の指揮官に宛てて早馬を出した。
出荷そのものは予定どおり進める。だが、実際の軍需物資を危険な場所へ通すつもりはなかった。
レオンは出発準備を続けながら、王軍と協力して襲撃者を捕らえる方法を考え始めた。
◇ ◇ ◇
数日後、早馬を受け取った王軍駐屯地から返答が届いた。
指揮官はレオンの占術を重視し、軍務局へも急ぎ報告したうえで、現地の兵を動かす準備を進めていた。正式な軍需品の輸送を守るため、襲撃が予想される街道の警備を強化することも認められたという。
輸送隊が現地へ到着するまでには、まだ時間があった。
レオンは返答を確認すると、護衛隊長や管理官と相談し、2つの輸送経路を使うことにした。
実際の軍需物資を積んだ荷車は、襲撃が予想される場所を避け、別の道から王都へ向かわせる。多少の遠回りにはなるが、予定している納入期限には間に合う見込みだった。
一方、元の街道にも荷車を進ませる。
こちらには軍需物資を積まず、通常の輸送隊と区別がつかないように木箱を並べる。襲撃者を誘い出すための荷車だった。
御者役にも事前に事情を知らせ、武装した男たちが現れたら、荷車を捨てて退避する手順を決めておく。
レオンは現地の王軍指揮官へ詳しい配置を伝え、合流後に最終確認を行うことにした。
実際の輸送隊を狙わせないことが最優先である。襲撃者を捕らえるために御者を危険へさらすつもりもなかった。
そのため、襲撃が予想される区間では一般の荷車が不用意に通行しないよう、周辺の宿駅にも連絡を入れた。
そして出発の日、レオンは輸送隊に同行してローデン領を発った。
数日かけて街道を進み、襲撃場所に近い王軍駐屯地へ到着した時には、必要な兵がすでに集められていた。
レオンは指揮官と地図を広げ、占術で見えた襲撃の様子を改めて説明した。
「男たちは最初に道の前方へ現れ、その直後に両側の林から弓で攻撃してきます。ですから、こちらの兵は先に林の外側へ回しておきたいんです。連中が荷車へ近づいたところで退路を塞げば、実行役をまとめて捕らえられると思います」
王軍の指揮官は地図を確認した。
「なるほど。襲撃者が荷車へ向かって出てきたところを、我々が包囲するわけですな」
「はい。ただし、できるだけ生きたまま捕らえてください。誰が雇ったのか分からなければ、また別の男たちを送り込まれるかもしれません」
「承知しました。兵にもそのように命じておきます」
レオンは、実際の軍需物資が安全な迂回路へ入ることを確認し、王軍の配置についても細かく相談した。
襲撃者が火を使うことも分かっているため、荷車へ燃え移らないよう備える必要があった。もっとも、囮の木箱に高価な品物を入れるつもりはない。荷車を失うことになっても、御者と兵士の安全を優先する方針だった。
準備を終えると、王軍の指揮官がレオンへ声を掛けた。
「子爵殿は、占いで敵の動きを知っておられる。こちらも、ずいぶん戦いやすくなりますな」
「危険が見えているのに、何もせず襲われるのを待つ必要はありませんからね。できれば、こちらに怪我人を出さずに済ませたいと思っています」
「まったく、そのとおりです。では、予定どおり兵を配置しましょう」
翌朝の襲撃に備え、王軍は夜のうちに準備を整えた。




