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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第三章――「二つの世界の復讐」

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第5話(中編1)――「私の家へ来てほしい」

 数日後、エレオノーラとアルベルトの離縁が正式に成立した。


 エレオノーラは公爵邸へ戻り、自分の衣服や装飾品、書籍などを運び出す準備を始めた。荷物の整理には王宮から派遣された者たちも立ち会い、公爵家の品物と彼女個人の持ち物を確認していった。


 持参金と王家から認められた所領の収入についても、今後は公爵家が勝手に使えないようにする。すでに使われた金の返還は引き続き調査されるが、エレオノーラ自身は公爵邸を離れ、当面は王宮で暮らすことになった。


 荷物の整理がほぼ終わったころ、セシリアが部屋へやってきた。


「お姉様、いよいよお出になるのですね。長い間お世話になりました。これからは私が旦那様をお支えしますので、どうぞご安心くださいませ」


 セシリアは丁寧に挨拶していたが、その顔には喜びが隠しきれていなかった。


 エレオノーラは相手の表情を見て、かえっておかしくなった。セシリアは、これから自分が公爵家の女主人として振る舞えると思っているのだろう。


「そう。それなら、アルベルトをしっかり支えてあげてくださいね。公爵家も、これからいろいろ大変でしょうから」


「もちろんですわ。旦那様のお役に立てるよう、精いっぱい努めるつもりです」


「それは頼もしいわね。でも、1つだけ気を付けた方がいいことがあるわ」


 エレオノーラは、侍女が箱へ収めている書類を確かめながら続けた。


「これからは私のお金を使えないのですから、公爵家の仕事は公爵家のお金でなさってね。それから、私の署名を勝手に作らせた件についても、兄上の調査が終わったわけではありません。ご自分のことも、きちんと説明できるようにしておいた方がよいと思うわ」


 セシリアは顔を赤くした。


「お姉様、私は旦那様のお仕事を手伝おうとしただけで……」


「そのお話は、もう何度も聞きましたわ。これからは兄上の役人に説明してあげてください。私には、もう関係のないことですから」


 エレオノーラは穏やかな顔で言い終えると、荷物を運ぶよう侍女に命じた。


 セシリアはそれ以上何も言えなかった。


 やがてエレオノーラを乗せた馬車が公爵邸の門を出ていった。長年暮らした屋敷を離れる寂しさが、まったくないわけではない。しかし、それ以上に、これからの暮らしを自分で選べることが嬉しかった。


 馬車が王都の通りへ出ると、エレオノーラは窓の外を眺めた。


 今日からは、もうグランツ公爵夫人ではない。


 国王の妹としての立場は変わらないが、夫の顔色をうかがって暮らす必要はなくなったのである。


 ◇ ◇ ◇


 離縁が成立した知らせを受けたレオンは、その日の午後、王宮を訪れた。


 エレオノーラは庭園で待っていた。秋の日差しが噴水の水面を照らし、庭師たちが色づいた落ち葉を集めている。レオンの姿を見つけると、エレオノーラは嬉しそうに歩み寄ってきた。


「レオン、ようやく終わったわ。今日から私は、もうグランツ公爵夫人ではないのよ。これで、あなたと会う時も、あの人のことを気にせずに済むわ」


 レオンは彼女の手を取り、離縁が成立したことを喜んだ。


 これまでエレオノーラは、夫との関係に苦しみながらも、公爵夫人としての務めを果たそうとしてきた。その彼女が、自分で決心して新しい人生を選んだのである。


「本当によかったですね。私も嬉しいです。これからは、あなたのやりたいことを遠慮せずにやってください。せっかく自由になったんですから」


「ありがとう。でも、これからの暮らしについては、まだ何も決めていないの。しばらくは王宮にいるつもりだけれど、いつまでも兄上のお世話になるわけにもいかないでしょう?」


 エレオノーラには自分の財産があり、王家から認められた所領もある。暮らす場所に困るわけではなかったが、今までとは違う生活を始めたいと考えていた。


 レオンは、そんな彼女へ以前から伝えようと思っていたことを口にした。


「エレオノーラ、私からお願いがあるんです。これからは、私の家へ来てほしい」


 エレオノーラは驚いた顔をした。


「あなたの家というと、ローデン領へ?」


「ええ。私は、これからもあなたと一緒に暮らしたいんです。領地の仕事もありますし、王軍への納入も続いていますから、いつまでも王都にいるわけにはいきません。でも、あなたと離れて暮らすのは嫌なんですよ」


 レオンは彼女の手を握り、以前から抱いていた気持ちを伝えた。


 エレオノーラを好きになったのは、王妹だからでも、公爵夫人だったからでもない。初めて会った時から、その人柄に惹かれていた。アルベルトへの復讐とは関係なく、これからの人生をともに過ごしたいと思っている。


「私はあなたを愛しています。だから、将来は正式に妻として迎えたいんです。もちろん、離縁したばかりですから、今すぐ結婚しようと言うつもりはありません。公爵家の事件が片付いてから、改めて国王陛下にお願いするつもりです。それまでは、私の家で一緒に暮らしてもらえませんか」


 エレオノーラはレオンを見つめた。


「レオン、私もあなたと一緒にいたいわ。でも、私はあなたよりずっと年上なのよ。それに、一度結婚して、こうして離縁までした女なの。それでも、本当に私でいいの?」


 レオンは笑った。


 前世では48歳の高瀬真理子として生きてきた自分である。18歳になった今さら、年齢や離婚歴を気にするつもりはなかった。


「そんなこと、私は少しも気にしていません。大事なのは、これから誰と一緒に暮らしたいかでしょう。私が好きなのは、今ここにいるあなたなんです」


「まあ……。あなたにそんなことを言われたら、もう断れないじゃない」


「断らないでくださいよ。私は本気でお願いしているんですから」


 エレオノーラは笑い、レオンの胸へ身体を寄せた。


「私も、あなたと一緒に暮らしたいわ。これまで、あなたと会える日をどれだけ楽しみにしていたか分からないもの。これからは毎日会えるのね」


「ええ。朝も夜も、同じ屋敷で暮らせますよ。今までみたいに、次はいつ会えるのかなんて心配する必要もありません」


 レオンは彼女を抱き寄せた。


 以前から2人は愛し合っていたが、エレオノーラには公爵夫人という立場があり、会うたびに人目を気にしなければならなかった。


 しかし、今は違う。


 彼女は自分の意思でアルベルトと離縁し、新しい人生を選んだ。レオンは、その選択を何より嬉しく思っていた。


 しばらくして、エレオノーラが顔を上げた。


「ねえ、レオン。ローデン領へ行ったら、私にも仕事をさせてほしいの。ただあなたに養ってもらうだけの生活は嫌なのよ。私は自分の所領を管理してきたし、公爵家でも家政や領民の暮らしに関わる仕事をしていたの。その経験を生かしたいわ」


 レオンは大歓迎だった。


 ローデン領では鉱山と工房が発展し、王軍からの注文も増えている。それに伴って働く人も増え、住まいや生活環境を整える必要が出てきていた。レオン自身、商売や採掘の仕事には詳しくなったが、領民の暮らしに関する細かな仕事まで十分に手が回っているとは言えなかった。


「それなら、ぜひお願いしたいです。働く人たちの家を増やしたいし、子供たちが勉強できる場所も作りたいと思っています。私だけでは手が回らないので、あなたが力を貸してくれたら助かります」


「それなら、まずは領地の様子を見せてちょうだい。どんな人たちが暮らしていて、何に困っているのか、自分の目で確かめたいわ。あなたの仕事を手伝うだけでなく、私にもできることを見つけたいの」


「もちろんです。これからは2人で領地を良くしていきましょう」


 エレオノーラは嬉しそうに笑った。


 公爵夫人として暮らしていた時は、夫から意見を求められることも少なかった。それが今は、レオンが自分の経験を必要としてくれている。


 これから始まる生活が、ますます楽しみになった。

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