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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第三章――「二つの世界の復讐」

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第5話(前編1)――「王妹を失う男」

 アルベルトとセシリアが退室したあと、国王は椅子に腰を下ろした。


「まったく、情けない話だ。公爵ともあろう者が、妻の財産を勝手に使い、いざ追及されると第二夫人や会計係へ責任を押しつけるとはな」


 エレオノーラは、兄へ深く頭を下げた。


「兄上、ありがとうございました。おかげで、ようやく事情が分かりました」


「礼には及ばん。お前の財産が勝手に使われていたのだ。当然のことをしたまでだ」


 国王はしばらく妹の顔を見てから尋ねた。


「それで、昨日の話だが……。アルベルトと離縁したいという気持ちは、今も変わらぬのか」


 エレオノーラは迷わず答えた。


「はい。今日の2人の姿を見て、なおさら決心が固まりました。もう、あの人を夫として信じることはできません」


 国王は頷いた。


「そうか。確かに、今日のアルベルトの態度では、これからも夫婦として暮らせとは言えんな」


「私は、公爵家の妻としてできる限りのことをしてきたつもりです。でも、もう十分です。これからは自分の人生を大切にしたいのです」


「分かった。離縁の手続きを進めよう。アルベルトにも正式に知らせる必要があるが、お前の意思は尊重する」


 エレオノーラは、もう一度礼を言った。


「ありがとうございます、兄上」


 国王はレオンへ目を向けた。


「ローデン子爵、今日もお前の占いには驚かされたぞ。会計係が逃げるところまで見えていたとはな」


「今回は、うまく役に立ちました。あの男が証拠を持って逃げてくれたおかげで、かえって話が早くなりましたね」


 レオンが笑うと、国王も苦笑した。


「まったくだ。悪事を隠すつもりが、自分から証拠を持って逃げるとは愚かなことをしたものだ」


 エレオノーラも笑った。


「でも、レオンが占ってくれなければ、本当に逃げられていたかもしれません。そう考えると、今日はあなたのおかげでもあるのよ」


「私は占っただけですよ。実際に逃げる男を捕まえたのは兵士たちですし、アルベルトを問い詰めたのは国王陛下ですから」


「それでも、大事な仕事をしてくれたことに変わりはない」


 国王はレオンを見て頷いた。


「今後も軍務局の事件について調査が続く。サルヴィ商会が何を企んでいたのか、引き続き確かめる必要があるな」


「はい。私も王軍への納入妨害については、最後まで調べたいと思っています」


 国王は了承した。


 エレオノーラの財産問題については、すでに偽の署名が作られていたことが分かった。


 しかし、サルヴィ商会が王軍の物資に細工をした事件については、まだ公爵夫妻が命じたという証拠はない。


 今後は、両方の事件を調べながら、必要な事実を明らかにしていくことになる。


 ◇ ◇ ◇


 国王との話を終えたレオンとエレオノーラは、王宮の庭園へ出た。


 秋の風が木々を揺らし、庭園には色づいた葉が落ち始めていた。


 エレオノーラは、レオンの隣を歩きながら言った。


「今日は、ずいぶん気分が軽くなったわ。今まであの人に遠慮していたのが、馬鹿らしく思えてきたの」


「そうでしょうね。国王陛下の前で、あれだけ言い争っていたんですから。私も見ていて呆れましたよ」


「本当にそうね。アルベルトはセシリアへ責任を押しつけ、セシリアはアルベルトへ責任を押しつける。あの人たちは、自分たちが何をしたのか、少しも反省していないのよ」


 エレオノーラは、レオンの顔を見て笑った。


「でも、あなたの占いは本当にすごいわね。昨日は書類を破るところを当てて、今日は会計係が逃げるところまで当ててしまったのだから」


「今回は、うまくいきましたね。私も、あの男が本当に逃げ出したと聞いた時には、少し笑いそうになりましたよ」


「まあ、レオンったら。兄上の前で笑ってしまったら大変だったわね」


「そうですね。さすがに、あの場で笑うわけにはいきませんから」


 2人は顔を見合わせて笑った。


 しばらく歩いたところで、エレオノーラはレオンの手を取った。


「レオン、私、アルベルトと離縁することに決めたわ。兄上も、私の気持ちを認めてくださったの」


「よかったですね。これまで随分悩んでいましたから」


「ええ。でも、これからどう暮らしていくのか、まだ考えなければならないこともあるわ」


 レオンは、彼女の手を握り返した。


「そのことなら、私にも少し考えていることがあります。でも、今はまず、離縁の手続きを終わらせましょう。あなたが自由になってから、ゆっくり相談したいんです」


 エレオノーラは嬉しそうに笑った。


「ええ。そうしましょう。私も、これからはあなたと一緒に将来のことを考えたいわ」


 レオンは彼女の顔を見ながら、心の中で決意していた。


 エレオノーラが離縁したら、正式にローデン領へ迎えたい。


 そして、いずれは妻として、一緒に暮らしていきたい。


 その日が来るのを、レオンは楽しみにしていた。


 ◇ ◇ ◇


 一方、グランツ公爵邸へ戻ったアルベルトは、執務室で怒りを爆発させていた。


「まったく、何ということだ! あの会計係め、余計な書類を残しおって!」


 セシリアも、いつもの愛想のよい顔をしていなかった。


「旦那様こそ、私に責任を押しつけようとなさったではありませんか。あの場で私が黙っていたら、全部私のせいにされていたでしょう?」


「黙れ! お前が余計なことを喋ったせいで、陛下にまで疑われたのだぞ!」


「余計なことですって? 最初に私の名前を出したのは旦那様ではありませんか!」


 セシリアも負けずに言い返した。


 アルベルトは苛立って椅子へ腰を下ろした。


 今日の一件で、エレオノーラの財産を勝手に使っていたことが明らかになり、国王から返還を求められることになった。


 しかも、署名を偽造した会計係が捕まり、セシリアが指示したことまで知られてしまった。


 国王は今後も調査を続けるという。


 このままでは、公爵家の信用に大きな傷がつく。


 アルベルトは、何とか事態を収める方法を考えた。


「エレオノーラにも困ったものだ。夫婦の間のことを、わざわざ国王陛下へ持ち込むとは……」


「お姉様は、最近すっかり態度が変わってしまいましたわ。以前なら、旦那様にあれほど逆らうことはなかったのに」


「まったくだ。誰かが余計なことを吹き込んでいるのかもしれんな」


 セシリアは、すぐにレオンの顔を思い浮かべた。


「きっと、あのローデン子爵ですわ。お姉様は最近、あの若造と親しくしていらっしゃるでしょう?」


 アルベルトは不愉快そうに顔をしかめた。


「レオンか……。確かに、あの男が現れてから、エレオノーラの様子がおかしくなった」


「それに、今日も国王陛下のそばにいたではありませんか。どうして私たちの家の問題に、あの男が口を出せるのでしょう」


「王軍への納入妨害の件があるからだろう。だが、あの男が同席していたのは面白くない」


 アルベルトは拳を握りしめた。


 国王からも評価され、軍でも功績を挙げ、豊かな領地まで手に入れた若い子爵。


 しかも、自分の妻であるエレオノーラまで、あの男を頼りにしている。


 それがアルベルトには我慢ならなかった。


「旦那様、エレオノーラ様は本当にお屋敷を出ていかれるのでしょうか?」


 セシリアが尋ねた。


「まだ分からん。だが、昨日は夫婦のこれからについて考えるなどと言っておった。まさか、本当に離縁するつもりではあるまいな……」


 アルベルトは不安になった。


 エレオノーラは国王の妹である。


 彼女と離縁すれば、王家との強い結び付きまで失ってしまう。公爵家の信用も、今までどおりとはいかなくなるだろう。


 そんなことだけは、何としても避けなければならなかった。


 しかし、セシリアは別のことを考えていた。


「旦那様、もしエレオノーラ様が本当に離縁なさったら、私が正妻になれるのではありませんか?」


 アルベルトは呆れてセシリアを見た。


「お前は何を考えているのだ! エレオノーラがいなくなれば、王家との縁まで失うのだぞ!」


「でも、私だって旦那様の妻ですわ。今までずっとおそばにいたではありませんか」


「お前とエレオノーラでは立場が違う! あの女は国王陛下の妹なのだ!」


 セシリアの顔色が変わった。


「旦那様……。それでは、私よりエレオノーラ様の方が大切だとおっしゃるのですか?」


「今はそんな話をしている場合ではない! 公爵家が危うくなっているのが分からんのか!」


 セシリアは黙り込んだ。


 アルベルトは、エレオノーラを愛しているから失いたくないのではない。国王の妹という身分と、彼女の財産が惜しいのである。


 セシリアにも、そのことがようやく分かった。


 しかし、アルベルトは妻の不満など気にしていなかった。


 彼の頭には、レオンの顔が浮かんでいた。


 王軍への納入契約を手に入れ、金銀の採掘で豊かになり、今では国王の信頼まで得ている若い子爵。


 あの男さえいなければ、エレオノーラもここまで強気にはならなかったかもしれない。


「レオンめ……。あの若造が余計なことをしなければ、こんなことにはならなかったものを」


 アルベルトは、憎々しげに呟いた。


 セシリアも、その言葉に同意した。


「本当にそうですわ。あの男さえいなければ、お姉様も旦那様に逆らったりしなかったでしょうに」

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