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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第三章――「二つの世界の復讐」

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第4話(後編2)――「第二夫人への追及」

 国王はアルベルトを睨んだ。


「お前の屋敷の会計係が、なぜ妹の署名を練習していたのだ?」


「わ、私には分かりません! 会計係が勝手に何かしたのでございましょう」


「勝手にやったというのか。随分便利な言い訳だな。都合の悪いことは、何もかも家来が勝手にやったことになるらしい」


 アルベルトは答えられなかった。


 レオンは黙って様子を見ていたが、内心では呆れていた。


 昨日は妻を怒鳴りつけ、今日は国王の前で家来に責任を押しつけている。やり方は違っても、自分の都合が悪くなると他人を犠牲にしようとするところは、前世の修一と少しも変わらなかった。


 ◇ ◇ ◇


 やがて、兵に連れられた会計係が広間へ入ってきた。


 中年の男で、顔は真っ青だった。その後ろには、セシリア付きの侍女もいる。兵が持ってきた革袋には、逃げようとした時に持ち出した帳簿や書類が入っていた。


 国王は会計係を見下ろした。


「お前が、エレオノーラの署名を偽造したのか」


 会計係は膝をついたまま、何も答えなかった。


 国王は兵に命じ、押収した紙を卓の上へ広げさせた。


 そこには、エレオノーラの名前が何度も書かれていた。最初は筆跡が似ていないが、後になるほど本物の署名に近づいている。


 エレオノーラが見ると、自分の署名に似せようとしていたことは一目瞭然だった。


「まあ……。ここまでして私の名前を使おうとしていたのね」


 国王は改めて会計係へ尋ねた。


「これでも何も知らんと言うつもりか。誰に命じられたのだ」


 会計係は震えながら答えた。


「も、申し訳ございません……。セシリア様に命じられたのでございます」


 その言葉を聞き、アルベルトが顔を上げた。


「セシリアだと?」


「はい。奥様の署名を真似して、サルヴィ商会への支払いを認めたことにするよう言われました。断れば仕事を失うと思い、従ってしまったのでございます」


「印章はどうしたのだ」


「以前の書類に押されていたものを写し取り、似たものを作りました。すべて私が手を動かしましたが、命じられた仕事だったのです……」


 国王は侍女へ視線を移した。


「お前は何を届けに行ったのだ」


 侍女は青ざめた顔で答えた。


「セシリア様からのお手紙でございます。会計係へ急いで届けるよう命じられました」


「その手紙はどこにある」


 兵が押収した封筒を差し出した。


 国王は中の紙を開き、目を通した。


 そこには、会計係に対して、問題の帳簿と署名を作った時の書類をすぐに隠すよう指示が書かれていた。


 国王は呆れた。


「これは随分分かりやすいな。証拠を隠せと命じておるではないか」


 会計係は泣きそうな顔になった。


「私は、全部自分のせいにされるのが怖かったのでございます。だから、命じられて行ったことを証明できるよう、書類の控えを隠して持っておりました。今日、王宮へ呼ばれたので、それも一緒に持ってきたのです」


「それで、セシリアから手紙が届いた途端、証拠を持って逃げようとしたのだな」


「は、はい。捕まれば私だけが処罰されると思い、怖くなってしまいました……」


 レオンは、その説明を聞いて納得した。


 会計係は自分の身を守るため、偽造した時の書類を残していたのだ。ところが、国王の調査が始まったため、今度はその証拠が見つかるのを恐れて逃げようとした。


 悪事に加担した男が、自分を守ろうとして残した証拠で、かえって悪事が明るみに出たのである。


 国王は兵へ命じた。


「会計係は引き続き取り調べよ。持っていた書類もすべて保管しておけ。それから、セシリアをここへ連れてこい!」


 ◇ ◇ ◇


 しばらくして、セシリアが広間へ入ってきた。


 国王の前なので、いつものように丁寧に礼をしたものの、その顔には不安が浮かんでいた。


「陛下、お呼びでございましょうか」


 国王は机の上の紙を指した。


「セシリア、これは何だ。エレオノーラの署名を偽造するよう、会計係へ命じたそうだな」


 セシリアは目を見開いた。


「そ、そのようなことは……」


「会計係が認めておる。それに、証拠を隠すよう命じた手紙もここにある。お前の侍女が届けたものだ」


 セシリアは侍女を見た。


 侍女は怯えた顔で、主人から目を逸らした。


「わ、私は……公爵家のために必要なお金だと聞いておりましたので……」


「妹の署名を勝手に作ることが、公爵家のためになるのか」


 国王の声が厳しくなった。


 セシリアは慌ててアルベルトへ向き直った。


「旦那様、何とかおっしゃってくださいませ! 私は旦那様のお仕事をお手伝いしただけですわ!」


 アルベルトは、ここぞとばかりに怒鳴った。


「何を馬鹿なことを言っている! 偽の署名など、私は知らんぞ! お前が勝手にやったことだろう!」


「そんな! 旦那様だって、エレオノーラ様のお金が必要だとおっしゃっていたではありませんか!」


「金が必要だとは言った。だが、署名を偽造しろなどとは言っておらん!」


「それでは、私だけが悪いというのですか!」


「当たり前だ! 商会を紹介したのも、お前ではないか!」


 セシリアは顔を真っ赤にした。


「旦那様が、ローデン子爵との取引を何とかしたいとおっしゃったのでしょう! そのためにお金が必要だと言われたから、私は手配したのですわ!」


「余計なことを言うな!」


「余計なことですって? 私に全部責任を押しつけようとなさるから、申し上げているのです!」


 2人は国王の前で言い争いを始めた。


 エレオノーラは、その様子を呆れて見ていた。


 夫は、昨日まで自分の妻だから金を使って当然だと言い張っていた。それが今日は、第二夫人が勝手にやったことだと責任を逃れようとしている。


 セシリアも、自分だけが責任を負わされそうになると、今度は夫の言葉を持ち出して必死に弁解している。


 国王は、とうとう机を叩いた。


「もうよい! 2人とも黙れ!」


 アルベルトとセシリアは、ようやく口を閉じた。


「よく分かった。お前たちは妹の財産を勝手に使っていた。しかも、本人に知られぬよう偽の署名まで作っていたのだな」


 アルベルトは慌てた。


「陛下、私は署名を偽造したことまでは存じませんでした!」


「その点は調べさせる。だが、お前は妹の承認を得ずに金を使っていたことを認めたではないか。それに、今の言い争いを聞く限り、2人とも何も知らなかったとは到底思えんな」


 セシリアは何とか取り繕おうとした。


「陛下、私は本当に公爵家のためを思って……」


「公爵家のためなら、王妹の財産を盗んでもよいというのか!」


 セシリアは黙り込んだ。


 そこでエレオノーラが口を開いた。


「兄上、私からも一言よろしいでしょうか」


「もちろんだ。お前の財産のことだからな」


 エレオノーラは、アルベルトとセシリアを順に見た。


「あなたたちは、公爵家のためだと言いながら、私のお金を勝手に使いました。しかも、私が承認したことにするため、署名まで偽造していたのですね」


 アルベルトは何か言いかけたが、エレオノーラは続けた。


「私は、あなたたちが何にお金を使ったのか、何度も説明を求めました。でも、昨日も今日も、まともに答えていただけませんでした」


「エレオノーラ、それは……」


「もう結構です。私が知りたいことは分かりました」


 エレオノーラは、夫の顔をまっすぐ見た。


「私のお金を返してください。それから、二度と私の財産を勝手に使わないでいただきます」


 アルベルトは言葉を失った。


 これまでエレオノーラは、公爵夫人として夫を支え、多少のことには目をつぶってきた。


 しかし、今日は違う。


 国王の前で、はっきりと夫に金の返還を求めている。


 国王は頷いた。


「当然の要求だ。使われた金をすべて調べ、エレオノーラへ返還すべき分は必ず返させる。今後、妹の財産には本人の承認なしに手をつけさせん」


 そして、アルベルトへ向き直った。


「公爵家の金の使い道については、引き続き調べる。サルヴィ商会との関係も明らかにしてもらうぞ」


「……承知いたしました」


「それから、調査が終わるまで王都を離れることは許さん。必要があれば、いつでも呼び出すことになる」


 アルベルトは頭を下げるしかなかった。


 セシリアも、もう何も言えなくなっていた。


 レオンは2人の姿を眺め、内心では愉快だった。


 前世では、修一と沙也香が手を組んで真理子を追い出した。


 ところが今度は、自分たちの悪事が発覚すると、互いに責任を押しつけている。


 まさか、異世界でも同じ2人がこんな醜い争いを始めるとは思わなかった。


 その時、レオンの視界に淡い文字が浮かび上がった。


《占術が的中しました》


《天命が1つ満たされました》


《身体適応が進みます》


《次の能力【変身】獲得まで、あと5回》


 レオンは表示を確認した。


 今回も、占術で見たとおりの出来事が起きたのである。


 しかも、占術のおかげで会計係の逃亡を防ぎ、偽の署名を作った証拠まで手に入れることができた。


 レオンは満足していた。


 これなら、迷宮で再会した占い師の爺さんにも、胸を張って報告できるだろう。

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