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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第三章――「二つの世界の復讐」

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第2話(前編2)――「占術が示した開門時刻」

 レオンは護衛たちを少し離れた場所へ下がらせ、石壁の前で占術を使い始めた。


 最初に確かめようとしたのは、壁の向こうにどのような部屋があるのかということだった。しかし、いくら意識を集中しても、いつものように未来の光景が現れない。石壁の姿がぼんやりと見えるだけで、その先を知ることはできなかった。


 レオンは一度占術をやめ、問いかける内容を考え直した。


 以前から、占えば何でも分かるわけではないことは経験している。漠然とした問いでは何も見えず、日時や場所、確認したい出来事を絞った方が結果を得られる場合があった。


 そこで今度は、扉が開く時刻に絞って占ってみた。


 今日のうちに開くのか。それとも翌朝なのか。いくつかの時刻を順に確かめていくうち、翌日の夕方について占った時に、ようやく光景が現れた。


 視界の中に見えたのは、地下10階の石壁だった。


 その前にはレオン自身が立っており、数人の護衛が背後に控えている。松明が石壁を照らし、床には鉱夫たちが作業した跡も残っていた。


 やがて壁の奥から低い音が聞こえ、中央の継ぎ目が少しずつ広がり始めた。灰色の石が左右へ動き、人が通れるほどの隙間ができる。


 レオンは扉の向こうまで確かめようとしたが、開口部の奥に部屋が見え始めたところで、光景は途切れてしまった。


 占術を終えたレオンは、目の前の石壁を改めて眺めた。


 今は動く気配もないが、占術で見えた未来が正しければ、翌日の夕方には扉が開くはずだった。


 レオンは護衛の隊長と鉱山技師を呼び、今後の作業について指示した。


「占ってみたところ、この扉は明日の夕方に開く可能性がある。今は無理に動かさず、その時刻を待ってみたい。周囲の採掘はしばらく止めて、見張りを置いてくれ」


「扉が自然に開くということでしょうか。何か操作する必要はないのですか?」


「少なくとも、占いで見た光景では誰も触っていなかったよ。ただ、向こう側が安全かどうかまでは分からなかった。明日は必要な人数だけで確認したいから、鉱夫たちには近づかないよう伝えてほしい」


 隊長は了承し、翌日の警備について準備を始めた。


 鉱山技師には周囲の岩盤が崩れる危険がないか確かめてもらい、扉の前に残っていた採掘道具も片付けさせた。採掘責任者も、翌日まではこの場所での作業を中断すると約束した。


 レオンは準備が整ったことを確かめると、地上へ戻ることにした。


 地下10階から迷宮の入口までは距離があり、行き来するだけでも時間がかかる。しかし、明日の夕方に開く可能性があると分かった以上、石壁の前で一晩中待ち続ける必要はなかった。


 帰り際、レオンはもう一度石壁を振り返った。


 日本の占い店で見たカードと同じ絵柄が、なぜあの部屋にあるのか。偶然にしては出来すぎているが、今は答えを確かめる方法がない。


 レオン自身が日本からこの世界へ来た理由も、いまだに分かっていなかった。


 もしかすると、あのカードには、自分が異世界へ来たことと何か関係があるのかもしれない。


 その夜、レオンは領地の邸宅で、迷宮から持ち帰った報告書を読み直していた。


 地下10階で発見された石壁について、管理官が鉱山技師の調査結果を伝えに来ていた。


「周囲の岩盤に大きな亀裂は見当たらず、今のところ崩落の危険はないそうです。ただ、石壁の材質については分からなかったとのことでございます。鉱山技師も、あれほど硬い石はこれまで見たことがないと申しておりました」


「私の鑑定でも材質までは分からなかったからな。明日、扉が開けば向こう側を調べられるかもしれない。それまでは手を出さず、警備だけ続けてくれ」


 レオンは採掘作業の予定表も確認した。


 地下10階には石壁の発見された場所とは別にも採掘できる鉱脈があり、周辺の作業を止めても生産への影響は小さいという。鉱夫たちをほかの場所へ回せば、当面は予定どおり採掘を続けられる見通しだった。


「それならよかった。発見した鉱夫たちには、無理に掘り進めず作業を止めたことを褒めておいてくれ。もしあの石壁が貴重な遺跡だったら、壊してしまったあとでは取り返しがつかないからな」


「承知いたしました。発見した者たちも、子爵様が直接調査なさると聞いて喜んでおりました。自分たちにも正体が分からないものですから、随分気にしているようです」


「私だって気になるよ。ただ、何か分かるまでは、ほかの採掘場所の話と一緒に広めないよう頼んでおいてくれ。珍しいものが見つかったと聞けば、勝手に入り込もうとする者が出てくるかもしれないからな」


 管理官は引き続き警備を徹底すると約束し、翌日の予定を確認して退室した。


 1人になったレオンは紙を取り出し、昼間見たカードの絵柄を覚えている範囲で描いてみた。


 崖の近くに立つ若者と、その足元にいる犬。細部までは思い出せなかったが、前世の占い店で何度も見ていたタロットカードの「愚者」に間違いないと思えた。


 真理子が占いを教わり始めたころ、店主はカードの意味を覚えるだけでなく、相談者の話をよく聞くよう注意していた。最初はカードの意味を思い出すだけでも精一杯だったが、半年ほど店で働くうちに、客の話を聞きながら占うことにも慣れていった。


 客がいない時間には、老人がカードの扱い方や相談の受け方を教えてくれた。分からないことを無理に言い当てようとしないことも、何度となく注意された覚えがある。


 こちらの世界では占術によって未来の光景まで見えるようになったが、占った内容をどう判断するかについては、前世で教わったことが今でも役に立っていた。


 レオンは紙に描いた旅人を眺めながら、占い店の主人の顔を思い浮かべた。


「爺さん、今の私を見たら驚くだろうな……」


 あの老人が今も日本で占い店を続けているのかどうか、レオンには分からなかった。こちらの世界へ来てから約2年が過ぎたものの、日本でも同じだけの時間が経っているのかさえ確かめようがない。


 真理子だったころは48歳で、夫との離婚を経験したあと、ようやく占い店で働き始めたばかりだった。それが今では18歳のレオンとなり、子爵として領地を治めている。日本に残っている老人がこの姿を見ても、同じ人間だとは思わないだろう。


 しかし、昼間見たカードの絵柄は気になっていた。


 単に日本のタロットカードによく似たものが置かれていただけなのか、それとも前世とこの世界をつなぐ何かがあるのか。明日、扉の向こうへ入れれば、少しは事情が分かるかもしれない。


 レオンは描いた絵を引き出しへ戻し、残っていた仕事を片付けると、翌日の迷宮探索に備えて休むことにした。

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