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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第10話(後編)――「ローデン子爵」

 地下10階へ続く石段を下りると、これまでの階とは比べものにならないほど広い空間へ出た。


 天井は高く、兵が掲げる松明だけでは奥まで見通せない。床には獣の骨が散らばり、岩壁の向こうからも魔物の唸り声が聞こえている。


 レオンは300人を一度に前へ出さなかった。


「盾兵100人を前へ出せ。弓兵は左右へ分けろ。後ろの100人は予備だ。合図があるまで動くな」


 兵たちが配置についたところで、広間の奥から重い足音が響いた。


 暗がりの中から黒褐色の巨体が現れる。


 占いで見た魔物だった。


 四つ足で立っていても背中は人の身長より高く、全身を分厚い鱗が覆っている。頭には短い角が並び、太い尾が床を打つたびに細かな石が跳ねた。


 隊長が巨体を見上げた。


「地竜に近い魔物ですな」


「空を飛ばないなら、まだやりようはある」


 地竜の周囲には、昨夜の群れに加わらなかった魔物が数十体残っていた。


「先に小さい方を片付ける。地竜にはまだ矢を使うな」


 弓兵が周囲の魔物を狙った。


 矢を受けた獣が兵へ向かってくる。盾と槍で正面を止め、広間の左右へ分けながら1体ずつ仕留めた。


 その間、地竜はほとんど動かなかった。


 最後の数体が倒れたところで、巨体が前へ出た。


「散れ!」


 盾兵が左右へ分かれる。


 正面からまともに受けるつもりはなかったが、完全には避けられず数人が弾き飛ばされた。


「弓兵、目と脚の付け根を狙え!」


 矢が集中した。


 胴体へ当たった矢は鱗に弾かれるが、1本が目の近くへ刺さり、地竜が大きく頭を振った。


 怒った巨獣が弓兵へ向きを変える。


 レオンは占いで見た動きを覚えていた。


 尾を横へ大きく振った直後だけ、右後脚の動きが鈍る。


「槍兵は右後脚だ。尾を振ったあとに入れ!」


 地竜の尾が横薙ぎに走った。


 兵たちが伏せる。


 直後、槍兵20人が右側へ踏み込んだ。


 鱗の隙間へ槍が入る。


 地竜が吠え、身体をひねった。


「離れろ!」


 数本の槍は折れたが、後脚から血が流れ始めた。


 同じ場所へ何度も攻撃を重ねるうち、地竜の動きは次第に鈍った。それでも前脚の一撃で盾が割れ、兵2人が岩床へ転がった。


 レオンも剣を抜いた。


「弓兵、左目へ集中しろ!」


 矢が飛ぶ。


 地竜が頭を左へ振った瞬間、レオンは傷ついた右側から踏み込んだ。


 【危険察知Ⅱ】が強く反応する。


 頭が戻るより早く脚の付け根へ入り、鱗の隙間へ剣を突き込んだ。


 地竜が暴れたが、レオンは剣を抜いてすぐに離れた。


「傷へ集中しろ!」


 槍兵が続いた。


 右後脚がついに崩れ、巨体が大きく傾く。


 首が低くなったところへ、レオンはもう一度走った。


 首の下、鱗が薄くなっている場所へ剣を深く突き入れる。数人の槍兵も同じ場所へ武器を入れ、地竜は何度か身体を震わせたあと、岩床へ倒れた。


 レオンは剣を抜き、すぐに周囲を見た。


「負傷者を先に運べ。奥を見るのはその後だ」


 この戦いだけで重傷者11人、軽傷者30人以上が出ており、死者は3人だった。


 レオンは倒れた兵を確認し、遺体も地上へ戻すよう命じた。その日は広間の安全確認だけに留め、奥の調査は翌日に回した。


 翌朝、鉱山技師と薬師を地下10階へ入れた。


 地竜の巣の周辺では、これまでにない物がいくつも見つかった。


 紫や緑の結晶を含む岩は、磨けば宝石として使える可能性があるという。別の壁には金銀を含む鉱石が露出しており、地下4階や5階の鉱石より含有量が高い可能性もあった。


 レオンが足を止めたのは、地竜の巣の近くに広がる灰白色の土だった。


 鉱山技師が小さく焼いた試料を調べる。


「地下9階で見つけた物より、さらに熱に強いかもしれません。炉の内壁に使えれば、今より高い温度を保てる可能性があります」


「量はあるか?」


「見える範囲だけでも相当あります」


「優先して調べろ。宝石は後でいい」


 技師が苦笑した。


「やはり、こちらですか」


「炉が良くなれば、鉄も銅もガラスも全部良くなる。宝石を売るだけより使い道が多い」


 薬師たちも、湿った岩陰から茸や苔を採っていた。そのうちの1種類は、傷の炎症を抑える薬に使える可能性があるという。


 地下10階まで来ても、レオンが興味を持つのは宝石や高品位の金鉱石だけではなかった。領地の工房を良くする土も、兵や領民を治療する薬も、使い方次第では金銀と同じくらいの価値を持つ。


 迷宮を出たのは、討伐開始から4日後だった。


 地上側を含めた兵の死者は5人、負傷者は70人余りだったが、4つの村では領民の死者を1人も出さずに済んだ。


 レオンは安全確認が終わるまで、地下7階から下の採掘を再開させなかった。


「10日間は閉鎖したままにしろ。地下10階まで残った魔物がいないか調べてから再開する。再開後は10階に100人、9階に50人置け」


「承知しました」


 ◇ ◇ ◇


 王都へ戻ったレオンは、国王へ討伐結果を報告した。


 国王は死者数まで聞くと、しばらく報告書を見ていた。


「1,000人を動かして、領民には1人も死者を出さなかったのか」


「はい。兵は5人失いました」


「喜べとは言わん。だが、お前の指揮が悪かった数字でもない」


「分かっています」


「それで、地下10階には何があった?」


 レオンは持ち帰った一覧を渡した。


「金銀の含有量が高そうな鉱石、宝石になりそうな結晶、薬になる可能性のある茸や苔、それと耐火材に使えそうな土です」


 国王は一覧を読み、最後の項目で顔を上げた。


「金や宝石より、また土の話をするのか」


「良い炉が作れれば、鉄も銅もガラスも質を上げられます」


「お前にあの領地を与えたのは私だが、最近は少し損をしたような気分になってきた」


「王領だったころは、誰も地下10階まで調べていなかったでしょう」


「それを言われると弱いな」


 国王は笑い、側にいた書記官へ合図した。


「もう1つ話がある。ローデン領の迷宮について、権利を明文化する」


 書記官が文書を机へ置いた。


「迷宮から得られる鉱物、薬草その他の産物は、王国へ定められた税を納める限り、ローデン家の世襲財産として認める。王家が金鉱や銀鉱だけを後から取り上げることもない」


 レオンは文書を受け取った。


 これまで領内の資源として扱われてきたものが、王命によって正式に保証されたことになる。


「ありがとうございます」


「軍務局からも申し出がある。保存肉、薬、軍馬、鉄製品について、今後は王軍が継続して買いたいそうだ。価格と数量は担当者と詰めろ」


 固定した買い手ができるなら、金鉱よりありがたい面もある。


「ぜひ受けます」


「そして最後だ」


 国王が椅子へ座り直した。


「17歳で初めて王都へ来た時、お前はまだ貧乏士族の倅だったな」


「そうでした」


「その後500人を率い、600人で魔物を討ち、男爵領を与えた。今度は1,000人を動かして4つの村を守った。領地の人口も税収も増えている。男爵のままにしておく理由が薄くなった」


 レオンは国王を見た。


「本日より、レオン・ローデンを子爵に陞爵する」


 軍務官たちが一斉に頭を下げた。


 レオンも礼を取る。


「陛下のご期待に応えます」


「まずは領地をきちんと治めろ。次に来るたび爵位を上げろと言われても困る」


「伯爵になるには、まだ足りませんか?」


「もう次を狙うな」


 室内に笑いが起きた。


 ◇ ◇ ◇


 その日の夕方、レオンはグランツ公爵邸を訪れた。


 エレオノーラには10日ほどで王都へ戻ると約束していたが、迷宮の異変と討伐で予定より遅くなってしまった。


 応接室へ入るなり、エレオノーラは立ち上がった。


「聞きました。子爵になったのですね」


「今日、正式に言い渡されました」


「おめでとうございます」


「ありがとうございます。それと、遅くなってすみません」


 エレオノーラはレオンの顔を見た。


「本当に。10日ほどで戻ると言っていたでしょう」


「迷宮から大量の魔物が出そうになったので、戻れませんでした」


「それなら仕方ありません。でも、心配したのよ」


 使用人がいる間は、そこで話を切り替えた。


 扉が閉まると、エレオノーラの方から近づいてきた。


「無事に戻ってきてよかった」


「待たせました」


「1,000人を率いて魔物と戦ったと聞いたのよ。戻るのが遅いだけでも心配なのに、そんな話まで届くのですから」


「地下へ連れていったのは300人です」


「そういう問題ではありません」


 レオンは笑い、エレオノーラの腰を抱いた。


 彼女も自然に腕を首へ回す。


 唇を重ねてから離れると、エレオノーラは改めてレオンの顔を見た。


「最初に会った時は、こんな人になるとは思わなかったわ」


「どんな人です?」


「18歳で子爵になって、1,000人の兵を動かして、金山まで持っている人」


「それだけですか?」


 エレオノーラは笑った。


「それ以上は言いません」


 レオンはもう一度彼女を抱き寄せた。


 同じころ、公爵邸の別室では、アルベルトもレオンの陞爵を知らせる文書を読んでいた。机には、春に仕掛けた金銀の買い叩きが失敗した経緯をまとめた報告も残っている。


 16歳だったレオン・ローデンは、わずか2年ほどで王直属の士官となり、貧しかった男爵領を富ませ、1,000人の兵を動かすまでになった。そして今度は子爵である。


 アルベルトは報告書を机へ置いた。


「このままでは、次は伯爵になるな」


 これまで見下していた若者を、もう無視することはできなかった。

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