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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第10話(前編)――「錫まで出た」

 6月下旬、地下9階へ続く石段の近くで見つかった灰黒色の鉱石について、王都から分析結果が届いた。


 レオンは領地の管理所で報告書を開き、同席していた鉱山技師にも試料を渡した。


「錫を含んでいるそうだ」


 技師は鉱石を手に取り、欠けた部分を確かめた。


「錫ですか。地下8階で銅が見つかったばかりだというのに、都合のよい組み合わせですな」


「銅と混ぜれば青銅になるんだったな」


「はい。鉄がある以上、武器の主役にはなりませんが、鋳物や金具、器、鐘などには使いやすいでしょう。錫そのものにも用途があります」


 高瀬真理子だったころの知識でも、銅と錫から青銅を作れることは覚えていた。錫は融ける温度が低く、別の金属をつなぐ用途や、鉄を錆びにくくする加工にも使われていたはずである。


 ただし、知っているのはそこまでだった。


「王都から青銅を扱える職人を呼べ。銅も錫もここで採れるなら、原料を外へ売るより加工した方がいい」


「承知しました」


「地下9階も正式に調べる。石段の近くに少し出ただけなのか、奥まで続いているのか確認したい」


 話しているところへ、迷宮入口を守る隊の兵が駆け込んできた。


「男爵様、地下から上がってきた鉱夫から報告です。地下7階で魔物を何度も見たため、採掘を止めております」


「何が出た?」


「大型の狼が数頭、それに見たことのない獣もいたそうです。普段は魔物をほとんど見ない採掘路まで入り込んできたため、護衛隊長が全員を地上へ戻しました」


「負傷者は?」


「1人が腕を噛まれましたが、命に別状はありません」


 レオンは席を立った。


「判断は正しい。地下7階から下の仕事は全部止めろ。俺が確認する」


 その日の午後には迷宮へ入った。


 地下5階まではいつもと大きな違いはなかったが、6階へ下りるころから様子が変わった。通路の泥には新しい足跡がいくつも重なり、壁際に置いていた木箱の1つが壊され、中に保存していた干し肉まで食い荒らされている。


 そこまで確認してから、レオンは【魔物察知Ⅱ】へ意識を向けた。


 反応はすぐに返ってきた。


 地下7階から下に、以前よりはるかに多くの気配がある。8階の奥だけではなく、そのさらに深い場所にも強い反応がまとまっていた。


「これは多いな」


 同行していた隊長が尋ねた。


「普段とは違いますか?」


「ああ。下から上へ動いている。何が起きるのか占う」


 レオンは、このまま何もせず数日が過ぎた未来を占った。


 夜の迷宮入口から大量の魔物が飛び出し、守備兵を押し込んでいる。狼や猪に似た魔物の一部は街道へ抜け、そのまま村へ向かって走っていた。


 やがて光景が変わった。


 地下10階と思われる広大な空間に、今まで見たものより大きな四足の魔物がいる。全身を黒褐色の鱗で覆われ、頭には短い角が並んでいた。太い尾が横薙ぎに動くたび、兵の盾がまとめて弾き飛ばされている。


 その周囲には、多数の魔物が集まっていた。


 地下10階に大きな巣があり、そこから上層へ魔物が押し出されているらしい。


 占いが途切れ、レオンは目を開いた。


「近いうちに地上へ出る。今の守備兵だけでは止められない」


「何人ほど必要でしょうか?」


「まず採掘を地下6階から下まで止めろ。入口は100人に増やし、4つの村にも夜警を置け。王都へ援軍を頼む」


 地上へ戻ると、その日のうちに国王へ報告を送った。


 返事は早かった。


 近隣の王国軍とローデン男爵領の兵を合わせ、最大1,000人をレオンの指揮下へ置くという。


 数日後、レオンは王都で国王へ直接状況を説明した。


「地下10階に大きな巣があるようです。放置すれば、魔物の群れが地上へ出ます」


「1,000人で足りるのか?」


「全員を地下へ入れるわけではありません。入口と4つの村にも兵を残します」


「お前に任せる。必要なら周辺の守備隊も使え」


「ありがとうございます」


 国王は机の上の灰黒色の鉱石へ目をやった。


「ところで、今度は錫だそうだな」


「そう聞いています」


「鉄、石炭、銀、金、岩塩、銅。その次が錫か」


「石灰石や石膏、薬草もあります」


「聞いていない物まで増やすな」


 国王が額へ手を当てた。


「今回は鉱山の自慢をしに来たわけではありませんよ」


「分かっている。だから1,000人も預けるのだ」


 国王はそこで表情を改めた。


「領民を守れ。迷宮の財宝より先にだ」


「もちろんです」


 レオンにも異論はない。


 鉱山も工房も、そこで暮らす人間がいるから価値を持つ。村を魔物に荒らされてまで、地下10階へ急ぐ理由はなかった。


 領地へ戻ると、レオンは1,000人を3つに分けた。


 迷宮入口と地下1階から3階までの守備に400人、4つの村と街道へ300人を置き、残る300人を自分が率いて地下へ入れる。


 騎兵の大半は地上に残した。狭い迷宮内へ馬を連れていくより、村と入口の間を急行させた方が役に立つ。


「地下へ入る300人のために、食料を4日分用意しろ。ただし全部を兵に背負わせるな。6階と8階にも食料と水を置く。松明、油、予備の弓弦、槍、盾も多めに準備しろ。6階と8階には治療所を設け、薬師を4人ずつ配置する」


 兵站を担当する士官が帳面へ書き込んだ。


「地下10階まで4日かけるおつもりですか?」


「急げばもっと早い。ただ、魔物の巣へ疲れた兵を連れていく気はない。9階で一度休ませる」


「分かりました」


「入口の400人にも矢と水を多めに渡せ。俺の占いでは、魔物が地上へ出るのは夜だ。入口を抜かれても追って森へ入るな。村の防衛線までで止めろ」


 1,000人を動かすとなれば、500人や600人を率いた時とは必要な物の量が違う。


 食料だけでも1日で大量に消費する。負傷者をどの階からどの経路で運び、交代する兵をどこで休ませるかまで決めておかなければ、戦う前に部隊が混乱する。


 それでも、レオンには【兵站Ⅱ】があった。


 地下6階と8階を中継点にして補給物資を置けば、地下へ入る300人全員が4日分の食料と水を背負う必要はない。入口から必要な物を順次送り込み、帰路につく者には空になった容器や負傷者を任せる。そうすれば人員の往復も無駄にならなかった。


 準備を終えたのは7月上旬だった。


 レオンは迷宮入口に並んだ兵を見渡した。


「俺が地下へ入っていても、地上の守りが最優先だ。魔物が出たら森まで追うな。入口と街道、それに村を守れ。地下のことは俺たちに任せろ」


 兵たちの返事が重なった。


 レオンは300人を率い、地下9階を目指した。

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