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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第9話(前編)――「金を安く売るな」

 18歳になった春、レオンの領地では、地下4階の銀と地下5階の金がようやく安定した収入へ変わり始めていた。


 だからといって、掘った端から市場へ流しているわけではない。鉱山技師と相談して採掘量を決め、銀は王都の商人へ月ごとに売り、金はさらに量を絞った。精錬した地金の一部は領内に保管し、急いで換金しないことにしている。


 鉄や石炭、岩塩、石灰石は、領内で使う量が増えても困らない。金銀は事情が違い、一度に大量に売れば自分たちで値段を下げることになる。


 ところが4月に入ると、王都の商人たちの態度が急に変わった。


 管理官が帳簿を持って執務室へ来た。


「今月の銀ですが、これまで買っていた3商会が、そろって値下げを求めております」


「どの程度だ?」


「先月より2割ほど安い値です。金についても同じ話が来ております」


「3商会とも同じ時期か?」


「はい。それだけなら相場の問題かとも思ったのですが、薬草を扱う2商会まで、次から仕入れ量を減らしたいと言ってきました」


 レオンは帳簿を受け取り、商会名を確かめた。銀や金だけなら市場価格が下がった可能性もあるが、薬草まで同じ時期に動くのは不自然である。


「王都全体の相場は下がっているのか?」


「いいえ。調べましたが、ほとんど変わっておりません」


「それなら、狙われているのはこちらだけだな」


 取引関係をさらに調べさせると、値下げを申し入れた商会のいくつかはグランツ公爵領から穀物や葡萄酒を仕入れており、別の商会は公爵家と付き合いの深い金融商人から融資を受けていた。


 公爵家が直接命じた証拠はない。それでも、無関係な商人が同じ時期に同じような動きを見せるには、つながりが多すぎた。


 管理官もそこに気付いたらしい。


「グランツ公爵家が動かしているのでしょうか?」


「まだ決めつける必要はない。ただ、こちらが安く売ってやる理由もない」


「採掘量を落とされますか?」


「今までどおり掘ってくれ。値段が悪ければ、売らずに保管する」


 金も銀も、穀物や肉のように腐るものではない。しかもローデン男爵領には、岩塩、鉄製品、石灰、煉瓦、ガラス、保存肉と、すでに別の収入源が育っている。王直属の特任士官として月銀貨300枚の給金も受け取っているため、現金欲しさに金銀を投げ売りする必要はなかった。


「今月分は倉庫へ入れてくれ。買いたければ、これまでと同程度の値を出すよう商人へ伝えておけ」


「かなりの額を寝かせることになります」


「倉庫の中身が増えるだけだ。それより、売り先を増やした方がよさそうだな」


 レオンは王都で新しい取引先を探し始めた。


 これまで付き合ってきた商人にこだわらず、南方へ向かう商隊や西の隣国と取引する商人にも声を掛け、金については宝飾職人へ直接地金を卸せないか調べた。


 公爵家とのつながりが薄い商人の1人が、銀に興味を示した。


「ローデン男爵領の銀は、毎回同じ程度の質で出せますか?」


「今のところ問題ありません。試料も持ってきています」


 レオンは見本を渡し、希望する価格も示した。


 商人は数字を見て少し考えた。


「今まで買っていた商会が提示した値より高いですな」


「その代わり、王都の相場より少し安くしています。最初は銀貨換算で300枚分だけにしましょう。双方に問題がなければ、次から増やします」


 商人は条件を受け入れた。


 金も王都の宝飾職人3人へ少量ずつ直接卸してみると、こちらは予想以上に反応が良かった。職人側には中間商人を通さず買える利点があり、レオンにとっても一度に大量に売らずに済む。


 それから1か月もしないうちに、最初に値下げを要求してきた商会から連絡が来た。


「以前の価格で構わないので、また銀を売ってほしいそうです」


 管理官の報告を聞いたレオンは、すぐには元へ戻さなかった。


「半分までなら売って構わない。残りは新しい取引先へ回せ」


「以前の商会は困るでしょうな」


「向こうが先に買う量を減らしたんだ。こちらも売り先を増やしただけだから、文句を言われる筋合いはない」


 さらに、値下げに加わらなかった別の商人から、王都で妙な話が広がっていたことも分かった。


 ローデン男爵は迷宮開発や領地整備へ金を使いすぎており、近いうちに現金が必要になる。少し待てば金銀を安く手放すはずだと、何人かの有力商人が話していたという。その集まりには、グランツ公爵家と長く取引している商人もいた。


「俺が金に困るまで待てば、向こうの言い値で売ると思ったわけだな」


 管理官は帳簿を見ながら苦笑した。


「普通の男爵領なら、鉱山の開発費だけでも相当な負担でしょう」


「金銀しか持っていなければ、俺も困っていただろうな」


 だが、ローデン男爵領では鉄から農具を作り、岩塩で保存肉を作り、石灰や粘土を建築材へ変えていた。それぞれの利益は金鉱ほど派手ではなくても、領地の日々の支出を減らし、別の収入を生んでいる。


 管理官は、地下4階と5階を発見したころのことを思い出したようだった。


「当時は、銀と金こそ領地最大の財産だと思っておりました」


「俺もそう思っていた。でも、金を安売りせずに済むようにしてくれたのは鉄や塩の方だ」


「金が売れなくても困らないから、安売りもしなくて済むわけですな」


「ああ。急いで売らなくていいから、結局は高く売れる」


 5月末には銀の売却価格が元へ戻り、新しく開拓した取引先では以前よりわずかに高い値まで付いた。


 レオンは値下げに動いた商会とその取引先をすべて帳簿へ残させた。アルベルトが裏で動いている証拠まではないが、同じことがもう一度起きれば、今度は偶然では片付けないつもりだった。

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