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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第7話(中編)――「公爵邸を直せ」

 6月上旬、レオンは王都へ戻った。


 軍務局への報告とともに、領地で試作した石灰や煉瓦、地下換気に使った管の見本も持ち込んでいる。


 銀や金の鉱石ほど人目を引く物ではない。しかし領地を大きくしていくなら、道や橋、倉庫、工房、家を造るための材料は金銀と同じくらい重要だった。


 王都へ戻って3日後、グランツ公爵家の執事がレオンを訪ねてきた。


「公爵夫人が、ローデン男爵にご相談したいことがあるそうです」


「俺にですか?」


「領地で建物に新しい工夫をしておられると伺ったそうです。公爵邸でも以前から困っている場所がございます」


 王宮へ出入りする職人から話を聞いたらしい。


 レオンは依頼を受けた。


 グランツ公爵家には、国王の妹である正妻エレオノーラと、第二夫人セシリアがいる。


 セシリア・フォン・グランツが前世の水野沙也香であり、夫のアルベルトが高瀬修一だったことは、すでに分かっている。2人ともレオンにとって復讐すべき相手だった。


 一方、今回レオンへ相談を持ち掛けたエレオノーラは前世とは関係がない。アルベルトの正妻であり、国王の実妹でもある。


 だからこそ、レオンは興味を持った。


 アルベルトにとって、エレオノーラは王家との結びつきを支える重要な存在である。


 今すぐ何かを仕掛ける必要はない。


 まず普通に仕事を引き受け、役に立つところを見せればよい。エレオノーラとの関係を変えるとしても、その先の話である。


 ◇ ◇ ◇


 グランツ公爵邸は、旧王領管理所とは比べものにならない大きさだった。


 石造りの本館に左右の翼棟が付き、裏には広い庭園、厩、使用人棟まで並んでいる。


 ところが、近くで見ると古い建物らしい問題もあった。


 エレオノーラ・フォン・グランツは応接室でレオンを迎えた。


 年齢は30歳前後で、王家の女性らしく落ち着いた身なりをしている。華美な宝石をいくつも身に付けるのではなく、淡い色のドレスに小さな首飾りを合わせていた。


「わざわざ来てくださってありがとうございます」


「建物は実際に見ないと分かりませんから。困っているところから教えてください」


 エレオノーラは執事や侍女が話している時も途中で遮らず、最後まで聞いてから答えていた。


「夏になると西側の部屋がとても暑くなるのです」


 エレオノーラは侍女の方を見た。


「冬は窓の近くが寒いですね。それから雨の多い時期になると北側の壁が湿ります。地下の貯蔵室にも黴が出ることがあります」


「台所も見せてもらえますか?」


「台所まで見るのですか?」


「毎日使う場所でしょう。屋敷を直すなら、生活している人が困っているところをまとめて見た方が早いです」


「分かりました。案内させます」


 レオンは本館だけでなく、地下室や台所まで歩いた。


 北側では雨樋から溢れた水が基礎の近くへ落ち、地面に溜まっている。地下室の湿気も、それが原因の一つだと考えられた。


 西棟は午後の日差しを大きな窓から受けるうえ、天井近くに暖かい空気を逃がす場所が少ない。


 台所では煙突の引きが悪く、風向きによって煙が室内へ戻っていた。


 【建築Ⅰ】を得る前なら、それぞれ別の不具合として見ていたかもしれない。


 今は水と空気の流れを建物全体で考えられる。


「直せると思います」


 エレオノーラは驚いた。


「全部ですか?」


「順番にやります。まず北側の雨水を建物から離して、地下室がどれくらい乾くか見ます。西棟は窓の外で日差しを遮り、天井近くから熱を逃がします」


「それだけでも大きな工事になりそうですね」


「もう一つ試したいものがあります。庭の一部を掘らせてください」


「庭を?」


「地下に長い管を埋めます」


 レオンは紙を借り、簡単な図を描いた。


「地上の気温は1日の間でも、季節によっても大きく変わります。でも地下数メートルでは、その変化がかなり緩やかになります。そこで外の空気を長い管に通し、地下で少し温度を変えてから部屋へ入れます」


「夏なら冷たくなるのですか?」


「外の空気よりは涼しくできます。冬なら反対に、外の冷たい空気を少し暖めてから取り込めます。ただし、夏の氷や冬の暖炉が要らなくなるようなものではありません」


「それでも十分です」


「俺の領地で小さく試して、効果は確認しました。今度は大きな屋敷でも使えるか確かめたいんです」


 エレオノーラは図面を見た。


「かなり費用が掛かるのではありませんか?」


「材料と職人の給金だけ負担してください。今回は大きな建物での試験も兼ねていますから、俺の利益は取りません」


「そこまでしていただくのは申し訳ないです」


「うまくいけば、その実績を使って他の屋敷でも仕事ができます。俺にも得がありますよ」


 それでも迷っている様子だったので、レオンは西棟の2部屋だけで試すことを提案した。


「最初から屋敷全部へ入れる必要はありません。2部屋で使ってみて、気に入らなければそこで止めましょう」


「それなら……お願いしてもよろしいですか?」


「もちろんです」


 エレオノーラの表情から迷いが消えた。


「頼りにしています、ローデン男爵」


 今のところは、それで十分だった。

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