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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第7話(前編)――「土の下から風を通せ」

 5月下旬、レオンの領地では、迷宮から得た資源が少しずつ地上の暮らしに使われ始めていた。


 鉄は鍬や鋤、斧、釘、荷車の金具に加工され、石炭は鍛冶場の炉へ回している。石灰石から作った石灰は倉庫の壁や石積みに使い、粘土を焼くための小さな窯も作った。


 まだ大きな産業と呼べる規模ではない。それでも、これまで町から買っていた物を領内で作れるようになれば、その分だけ外へ出ていく金を減らせる。


 レオンが特に期待していたのは、石灰石と粘土だった。


 高瀬真理子だったころ、セメントが石灰石や粘土を原料として作られることは知っていた。しかし詳しい配合も焼く温度も知らないため、そのまま同じ物を作れるわけではない。


 職人たちには、石灰石と粘土の割合や焼き方を変えながら、少量ずつ試してもらっていた。


 うまくいかなくても、石灰は石積みや壁塗りに使える。粘土も煉瓦や陶器、排水用の管にできるので、試した物がすべて無駄になるわけではなかった。


 ある日、試作した煉瓦と管を見ていたレオンは、前世で知った別の技術を思い出した。


 地上の気温は夏と冬で大きく変わるが、地下数メートルまで下がると、その変化は地表よりかなり小さくなる。地上の暑さや寒さが地下まで伝わるにも時間が掛かるため、夏の地下は外気より涼しく、冬なら外気より暖かい時期がある。


 その性質を建物へ取り込む方法があった。


 前世では、アースチューブと呼ばれていたはずである。


 地面の下へ長い管を埋め、外気をそこへ通してから室内へ入れる。真夏なら暑い空気が地下を通る間に冷やされ、冬なら冷たい外気が土から熱を受け取る。


 冷房や暖房の代わりになるほどではなくても、外の空気をそのまま入れるよりは過ごしやすくなる。


 問題は、管の中へどうやって空気を流すかだった。


 前世なら送風機を使えば済む。しかし、この世界には電気で動く送風機などない。


 レオンは鍛冶屋や大工と相談し、まず旧王領管理所で小さく試すことにした。


 建物の北側、日陰になる場所へ吸気口を作り、そこから太い鉄管を地下へ伸ばす。地中ではおよそ3メートルの深さを通し、庭の下を長く這わせてから建物の床下へつなぐことにした。


 鉄管は高価なので、今回は試験用である。領内の家へ広げるなら、焼いた陶管や煉瓦で作った地下通路を使う方が現実的だった。


 鍛冶屋の親方が図を見ながら言った。


「夏に冷やされた空気を通せば、管の内側に水が付くかもしれませんな」


「水が溜まったままになるのはまずいですね。管全体に少し傾斜を付けて、一番低いところへ集めましょう」


「地下へそのまま流しますか?」


「いえ。排水用の枡を作って、地上から開けられる点検口も付けます。水が溜まったら抜いて、管の中も掃除できるようにしてください」


 吸気口には雨除けを付け、鼠や虫が入らないよう金網を張った。さらに埃や枯れ葉を減らすため、取り外して洗える布も重ねることにした。


 室内では床近くに空気の出口を作る。


 反対側には天井近くから屋根より高い位置まで排気筒を伸ばし、暖まった空気が上へ逃げる力を使って、地下管から新しい空気を引き込む仕組みにした。


 夏は日差しを受けた排気筒の中で空気が暖まり、上へ抜けやすくなる。冬は暖炉や煙突の上昇気流も利用できる。


 大きな風を起こす仕組みではないが、換気に必要な空気をゆっくり動かすことならできそうだった。


 レオンは工事を始める前に占った。


 真夏の午後、この仕組みを使った管理所はどうなっているのか。


 見えたのは、外で人々が汗を流している光景だった。


 管理所では窓をすべて開け放つことなく、床近くの通気口から空気が入っている。外ほど暑くはなく、帳場にいる者も普通に仕事を続けていた。


 冬の光景も現れた。


 外から直接吹き込む風ほど冷たくない空気が床近くから入り、暖炉で暖められた室内の空気と混じっている。


 冬の部屋を暖めるのはあくまで暖炉だが、凍えるような外気をそのまま取り込むより負担は小さそうだった。


 そこで占いは終わった。


「これなら試す価値があります。作りましょう」


 工事には10日ほど掛かった。


 完成したころには初夏らしい暑い日が増えていた。


 晴れた日の昼過ぎ、管理所の外では日なたに立っているだけで汗が出る。レオンは地下管の吸気口を開け、屋根へ伸ばした排気筒も使える状態にした。


 すぐに冷たい風が吹き出したわけではない。


 それでもしばらくすると、床近くの通気口からゆっくり空気が入り始めた。


 管理官が手を当てた。


「外より涼しいですな」


「地下を通ってきた空気です。外がもっと暑くなれば、差も分かりやすくなると思います」


「火も氷も使っていないのにですか?」


「土の温度を使っているだけですよ」


 午後いっぱい試しても、以前ほど室温は上がらなかった。


 夕方になって外気の方が涼しくなれば、地下管を閉じて窓を開ける。いつでも地下管を使えばよいのではなく、外気との温度を見ながら使い分ければよかった。


 翌日も試したところ、占いで見たとおりの結果になった。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【建築Ⅰ】を獲得しました》


 能力を得たあとで管理所を見直すと、壁の厚さや窓の位置、屋根の傾き、雨水の流れ方まで、それまでより細かく気になるようになった。


 家を一目見ただけで構造のすべてが分かる能力ではない。それでも、風をどこから入れてどこへ抜くか、雨水をどう逃がすか、建物のどこへ無理が掛かりやすいかを考える助けになる。


 管理官は庭の地下を通る管の位置を見た。


「これなら、男爵様の新しいお屋敷にも使えますな」


「俺の屋敷はまだ要りません。せっかくなら、もっと大きな建物で試したいですね」


「王都なら大きな屋敷はいくらでもありますが、使わせてもらえますか?」


 レオンには、ちょうど思い当たる場所があった。


 グランツ公爵家の王都屋敷である。

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