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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第6話(前編)――「地下4階で銀が出た」

 4月下旬、迷宮の入口から地下2階まででは、すでに採掘の準備が始まっていた。


 地下1階の広間には松明の油や木材を置く場所が作られ、地下2階へ続く狭い通路では鉱夫たちが岩壁を削っている。まだ台車を自由に通せるほどではないが、荷物を担いだ者同士がすれ違える区間は増えていた。


 鉄鉱石と石炭も少量ずつ掘り始めている。


 鉄鉱石は領内の鍛冶屋へ回し、石炭も炉で試した。王都から呼んだ職人によれば、どちらも十分使える質だった。


 鉄をすぐ外へ売る必要はない。鍬や鋤、斧、釘、荷車の金具を領内で作れば、これまで町から買っていた物を減らせる。製材所を造るにしても、鉄の道具は必要になる。


 地下3階では薬師を付けたうえで、薬草の採取も始めていた。根まで採ってよい種類と、葉だけを採る種類を分け、同じ場所から続けて採りすぎないようにしている。


 迷宮を最初に調べてから、まだ20日ほどしか経っていない。それでも入口には鉱夫や荷運びの者が出入りし、以前のような誰も近づかない洞穴ではなくなっていた。


 旧王領管理所で帳簿を見たレオンは、管理官へ尋ねた。


「鉄と石炭は、今のところどれくらい採れていますか?」


「まだ試掘の段階です。外へ売った分だけなら、今月は銀貨50枚にも届かないでしょう。ただ、鍛冶屋へ回した鉄がありますので、農具や釘を買う金は減ります」


「それなら十分です。売った金だけを見ても仕方がありませんからね」


 鉄で農具を増やせば畑の仕事が早くなる。石炭を使えば、鍛冶や製鉄のために森林を大量に切らずに済む。


 直接銀貨にならなくても、領地で使える資源には価値があった。


「今日から地下4階を調べます。問題がなければ、今回の調査では地下6階まで見るつもりです」


「一度に進まれるのですか?」


「いえ。1階ずつです。地下4階を調べたらいったん入口まで戻ります。翌日、問題がなければ5階へ進みます」


 今回、内部へ入る兵は40人とした。盾兵16人、弓兵10人、槍兵8人、剣を扱う兵6人である。そこへ鉱山技師2人、薬師2人、荷運びに慣れた領民6人が加わる。


 迷宮の外には別に兵60人を置いた。


 地下3階までの地図はできており、途中には水や松明の予備も置いてある。前回より人数は増えたが、調査そのものは楽になっていた。


 ◇ ◇ ◇


 地下4階へ続く石段を下りると、周囲は再び岩ばかりになった。


 地下3階にあった草や苔はほとんど見えず、広い通路の両側に灰色の岩壁が続いている。


 レオンが【魔物察知Ⅰ】へ意識を向けると、右奥にまとまった反応があった。


「かなりいます。先に何がいるのか見ます」


 通路をそのまま進んだ場合を占う。


 見えたのは広い岩室だった。


 床に転がっている黒い岩のような物が次々に動き出す。人の腰ほどの高さがある大きな甲虫で、背中は硬い殻に覆われていた。


 剣は弾かれ、正面から突いた槍も滑っている。しかし横倒しになった個体は腹側に硬い殻がなく、そこへ槍を入れると動かなくなった。


 レオンは占いを終えた。


「広い部屋に大きな甲虫がいます。10体以上です。背中は硬いので、正面から斬っても効きません。突進を横へ流して転ばせ、腹を槍で狙ってください」


 隊長が兵へ伝え、盾兵の配置を変えた。


 岩室へ近づくと、占いで見た黒い塊が床にいくつも転がっている。


 最初の1体が脚を広げた。


「来るぞ!」


 甲虫が硬い脚で岩を擦りながら走り出した。


「正面で止めるな! 盾を斜めにして横へ流せ!」


 盾兵が突進を受け流すと、甲虫は勢いを止められず岩壁へぶつかった。そのまま身体が傾き、腹が見える。


「今だ、腹を突け!」


 槍が次々に入った。


 ほかの個体も同じ方法で仕留めていく。弓矢は殻に弾かれたため、弓兵には長い棒を持たせ、側面から脚を狙わせた。


 20分ほどで岩室は静かになった。


 倒した甲虫は14体。兵の負傷者は4人だったが、いずれも打撲や浅い傷で済んだ。


 鉱山技師の1人が死骸の殻を叩いた。


「この殻はかなり硬いですな。加工できれば、何かに使えるかもしれません」


「何枚か持ち帰って職人に見せましょう。役に立つなら、魔物も資源になります」


 岩室そのものも調べることにした。


 奥の壁を見ていたもう1人の技師がレオンを呼んだ。


「こちらに妙な筋があります」


 灰色の岩の中に白っぽい鉱石が走っている。


 表面を割って調べた技師は、何度か場所を変えて試料を採った。


「銀を含んでいる可能性があります。王都へ持ち帰って調べなければ断定できませんが、私が見てきた銀鉱石に近いです」


 同じ鉱石は一か所だけではなかった。


 岩室の奥にも続き、その先の通路でも露出している。


 レオンは、ここから鉱石を採り続けた場合の未来を占った。


 鉱夫が掘り出した鉱石を袋へ入れ、兵が量を確かめている。迷宮の外へ運び出された石は炉へ送られ、精錬された銀が秤に載せられていた。


 銀貨を数える帳場の光景も見えたが、レオンが気になったのは別の場所だった。


 銀鉱脈の近くで、白っぽい岩を大量に掘っている者がいる。


 それは銀ではない。


 道や建物の工事へ使われていた。


 占いを終えたレオンは、技師へその場所を見せた。


「この辺りの白い岩も調べてもらえますか? 銀ではありませんが、将来かなり掘っています」


 技師は壁を削り、欠片を手に取った。


「これは石灰石でしょう。珍しい物ではありませんが、まとまって採れるなら使い道は多いです」


「石灰にできますか?」


「焼けばできます。石積みの目地や壁塗りにも使えますし、畑によっては土へ入れることもあります」


 レオンは白い岩壁を見直した。


 高瀬真理子だったころ、石灰石がセメントの原料になることも知っていた。粘土と一緒に高温で焼くことまでは覚えているが、配合や温度、細かな製法までは知らない。


 それでも、試してみる価値はある。


「王都で窯や建築に詳しい人にも見てもらいます。石灰だけでも道や建物に使えますから」


 地下4階では銀だけでなく、建築に使える石まで見つかった。


 これなら迷宮から掘り出す物は、金になる鉱石だけを探す必要はない。


 道路、橋、倉庫、家、農地。


 領地そのものを丈夫にできる物も探すべきだった。


「これからは鉱石だけでなく、建築材や土も記録してください。使い道が分からない物でも、変わった物があれば試料を持ち帰ります」


「承知しました」


 その日は銀鉱石と石灰石の試料を集め、地下5階へ続く道だけ確認して地上へ戻った。


 銀鉱脈も石灰石も、その場から逃げるわけではない。採掘を始める前に、まず使い方と必要な量を決めればよかった。

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