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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第5話(後編)――「地下3階は薬草畑」

 地下3階へ下りると、迷宮の様子が大きく変わった。


 壁の隙間から水が染み出し、床の一部には湿った土が広がっている。天井の細い割れ目からは淡い光が入り、その周囲には草や苔が生えていた。


 薬師2人が興味を示した。


「レオン様、あの草を調べてもよろしいですか?」


「兵を付けます。調べる間も隊列から離れすぎないでください」


 薬師たちは4人の兵とともに壁際へ近づいた。


 1人が葉を傷つけないよう手に取り、裏側まで確かめた。


「血止め草です。地上でも採れますが、ここの物は葉が厚く、育ち方がかなり違います。薬効については持ち帰って調べたいですね」


 少し離れた湿った岩には、黒に近い緑色の苔が広がっていた。


 もう1人の薬師が一部だけを削り取る。


「これは熱を下げる薬に使う苔に似ています。ただ、色が違いますので、同じ物かどうかはまだ断定できません」


「分からない物は、ここで使わず持ち帰って調べてください」


「その方が安全です。薬草によく似た毒草もありますから」


 実際、足元には赤い実を付けた草も生えていた。


 レオンが尋ねると、薬師は触れないよう注意した。


「こちらは毒草です。実にも毒がありますが、特に根が危険です。素手で傷を付けない方がよいでしょう」


「薬草だけ見つけても、誰でも採れるわけではないんですね」


「知識のない者を入れれば、使える草を捨てて毒草を持ち帰ることもあり得ます」


 将来、迷宮から薬草を採取するなら、薬師か十分な知識を持つ者を付ける必要がある。


 さらに奥へ進もうとしたところで、【魔物察知Ⅰ】が反応した。


 複数の魔物が前方から近づいている。地下1階の大蜥蜴より強い気配も混じっていた。


「採取はそこまでです。全員、隊列へ戻ってください。前から魔物が来ます」


 薬師と荷運びの者を中央へ入れ、盾兵が前へ出た。


 ほどなく通路の奥から低い唸り声が聞こえ、地上で討伐した灰狼より一回り大きな個体が姿を現した。その後ろにも4頭いる。


 さらに奥には、灰狼とは違う大きな気配が残っていた。


「狼の後ろにも何かいます。弓兵は最初の3頭を狙ってください。残りは盾と槍で止めます」


 灰狼が走り出した。


 弓兵の矢を受けた3頭が倒れ、残る2頭は盾へぶつかったところを槍兵に仕留められた。


 その直後、奥から大きな猪が飛び出してきた。


 地上で見た大猪より身体が太く、背には硬そうな黒毛が生えている。頭を低くしたまま、狭い通路を一直線に突進してきた。


 正面から盾で受ければ、前列ごと押し飛ばされる。


「中央を空けろ! 左右の壁へ寄れ!」


 兵が左右へ分かれると、大猪は速度を落とせないまま、その間を抜けた。


「弓兵、後ろから射て!」


 通り過ぎた大猪の背へ矢が刺さる。


 猪は向きを変えようとしたが、大きな身体では狭い通路をすぐに回れない。そこへレオンと槍兵が横から脚を狙い、動きを止めたところで首へ槍を入れた。


 大猪は数歩よろめき、床へ倒れた。


 戦闘が終わった時点で、死者はいなかった。地下1階で軽傷を負った2人に加え、灰狼に腕を噛まれた兵が1人増えたが、いずれも自力で歩ける。


 レオンは【魔物察知Ⅰ】で周囲を確かめた。


 近くに新たな気配はない。


「予定どおり、今日はここで戻ります」


 隊長が通路の奥を見た。


「まだ先へ進めそうですが、地下3階までと決めていましたな」


「鉄と石炭、それに薬草まで見つけました。十分です。負傷者もいるのですから、これ以上欲を出す必要はありません」


 薬師も採取した袋を確かめた。


「持ち帰って調べたい物がいくつもあります。私たちも今日は十分です」


 一行は地図と目印を確認しながら来た道を戻り、夕方になる前に全員が迷宮の外へ出た。


 内部へ入った38人全員が戻り、負傷者は3人だけだった。


 最初の調査としては、十分な結果だった。


 ◇ ◇ ◇


 翌日、旧王領管理所の卓には、迷宮から持ち帰った物が並べられていた。


 鉄を含む鉱石と石炭、数種類の薬草や苔に加え、倒した灰狼の毛皮と大猪の牙もある。


 管理官は報告を聞きながら、それらを順番に確かめた。


「地下3階までの調査だけで、これだけ見つかったのですか?」


「はい。迷宮がどこまで続くかはまだ分かりませんが、地下3階まででも使える物はかなりあります」


 鉱山技師の弟子が、採掘場所を記した地図を卓へ広げた。


「地下2階の鉄鉱石と石炭は、採掘する価値があります。通路を広げて鉱夫を入れれば、まとまった量を採れると思います」


 薬師も採取した草を示した。


「血止め草は地上の物より葉が厚く、薬としての価値を調べる必要があります。苔も熱冷ましに使える可能性がありますが、こちらは王都で詳しく調べた方がよいでしょう。ほかにも採取したい種類がありました」


 レオンは地図を確認した。


「まず入口から地下2階までの道を整えます。鉱夫を集めて、鉄鉱石と石炭は少量から採掘を始めてください。入口と採掘場所には兵を置きます」


 管理官が尋ねた。


「採った鉄鉱石は、そのまま売りますか?」


「最初から全部を外へ売るつもりはありません。領内の鍛冶屋にも回して、農具や釘を作れるようにしてください。製材所にも鉄の道具が必要になります」


「石炭は鍛冶場へ回しますか?」


「まずそこで試しましょう。採掘量が増えて余るようなら、外へ売ることも考えます」


 薬草については、領主の許可なく迷宮へ入って採取することを禁じた。


 薬になる物と毒草が同じ場所に生えている以上、知識のない者を自由に入れるわけにはいかない。根こそぎ採ってしまえば、今後採れなくなる可能性もある。


「迷宮の入口は領兵で管理します。採取する場合も薬師の指示に従わせてください」


「承知しました」


 管理官は帳簿を開いた。


「今年は銀貨1,000枚を残すことが目標でしたが、これだけ資源があるなら達成できるかもしれませんな」


「まだ地下3階までしか調べていません。採掘に掛かる金も、人を雇う金もこれからですから、利益を数えるのは早いですよ」


「なるほど。先に売上だけ数えるわけにはいきませんか」


「実際に売って金が残ってからです」


 ただし、領地を見る目は確実に変わっていた。


 地下1階では魔物を避けながら進む方法を覚え、地下2階には鉄鉱石と石炭があり、地下3階では薬草が見つかった。その先にも下へ続く石段がある。


 王家がこの土地を貧しいと判断したのは、地上の耕地と税収だけを見れば間違いではなかった。


 しかしレオンが手に入れたのは、4つの村だけではない。


 羊や馬を増やせる草地があり、森林があり、鉄と石炭を採れる迷宮まで領地の中にある。


 レオンは卓上の鉄鉱石を手に取った。


「この鉄で農具を増やして、石炭で炉を動かす。薬草も金になるなら、去年と同じ銀貨360枚で終わる土地じゃありませんね」


 管理官も地図へ目を落とした。


「陛下は、思っていたより大きな領地をレオン様へ渡されたのかもしれません」


「陛下も、地下3階に何があるかまでは知らないでしょう」


 レオンは次の石段が記された場所を指した。


「まず地下3階までを金に変えます。その間に、次へ進む準備をしましょう」

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