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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第4話(前編)――「年収360枚の男爵領」

 2月中旬、レオンは新たに自分の領地となった4つの村のうち、最も大きな村にある旧王領管理所へ入った。


 石造りの2階建てで、1階には帳場と倉庫、2階には寝室が数部屋ある。これまで王家から派遣された管理官が使っていた建物で、領主の館と呼ぶには小さいものの、雨漏りはなく、裏にはブラウンを置ける厩もあった。


 レオンは当分、この建物を使うつもりだった。男爵になったからといって、真っ先に立派な屋敷を建てる必要はない。それより、自分の領地が毎年いくら稼ぎ、何に金を使っているのかを知る方が先だった。


 前任の王領管理官は引き継ぎのため、まだ現地に残っている。卓の上には過去3年分の帳簿に加え、4つの村の人口、耕地、家畜、森林の利用状況を記した資料が並んでいた。


「昨年の収入を銀貨に換算すると、約1,260枚になります」


 管理官は帳簿を開き、内訳を示した。


「最も多いのは穀物による納付です。ほかに羊毛、木材、放牧地の使用料があります。ただし、ここから領内を守る兵への給金、橋や道の補修、種籾の備蓄、凶作に備える食料などを出します」


「必要な支出を全部引いて、昨年はいくら残ったのですか?」


「銀貨360枚ほどです」


 レオンは帳簿の数字を追った。


「1年間で360枚ですか。俺が王宮から受け取る給金は月300枚ですから、領地全体で1年間に残す金の方が少ないんですね」


「山と森林が多く、耕地の少ない土地です。税を重くすれば収入は増えますが、それでは村の暮らしが苦しくなります」


「今でも豊かな村には見えません。税を上げるつもりはありませんよ」


 どこから金が入り、どこへ出ていくのかは分かった。税を上げずに収入を増やすなら、領内で生み出す物そのものを増やすしかない。


「今年は、必要な支出を引いたあとに銀貨1,000枚を残せるようにしたいです」


 管理官は帳簿から顔を上げた。


「昨年の360枚を、1年でそこまで増やされるのですか?」


「できるかどうかは、領地を全部調べてから決めます。畑のほかにも羊や馬、森林があります。山はほとんど調べられていませんし、北には迷宮らしい洞穴まであるでしょう」


「迷宮も収入源として調べるおつもりなのですね」


「中に魔物しかいないなら、兵を置いて封じた方が安く済みます。でも価値のある物が採れるなら、使わない理由はありません」


 管理官は別の頁を開いた。


「それでしたら、収入を増やす前に見ていただきたい場所があります。南側の2つの村では、雪解けの時期になると畑が水に浸かることがあります。今年は雪が多いため、例年より被害が出る可能性があります」


「川の増水が原因ですか?」


「山から流れる川が雪解けで増水します。それに古い排水溝があるのですが、土や枝で埋まった場所が多く、十分に水を逃がせません。全部を直すには金も人手も掛かるため、長く手を入れていない区間があります」


「明日、その2つの村へ行きます。作物を水に流されてから収入を増やす話をしても仕方がありません」


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、レオンは管理官と村人たちを連れて、南側の畑へ向かった。


 日陰にはまだ雪が残っているが、昼間の気温は少しずつ上がっている。畑の脇を流れる川にも山から雪解け水が入り始め、冬の初めより水量が増していた。


 古い排水溝をたどると、管理官の説明どおり手入れの悪い場所が多い。落ち葉や土砂が積もり、水路の半分近くが塞がれている区間もあった。


「村の近くは手入れしているようですが、ここまでは毎年できないのですか?」


 レオンが尋ねると、村人の1人が答えた。


「春は畑の支度があります。村の周りだけなら何とかなりますが、排水溝全部となると人手が足りません」


「これまで領主側から人や金を出して、まとめて直したことはありますか?」


「大きな水害が出た後にはありました。ただ、ここ数年はありません」


 被害が出た時だけ手を入れ、その後は村に任せていたらしい。


 レオンは川沿いを歩き、畑の高さと排水溝の位置を確かめた後、今年の雪が解けた時に、この一帯の水がどう流れるのかを占った。


 数週間後の畑が見えた。


 山から流れ込んだ水で川が膨らみ、曲がりのきつい場所から水が溢れている。低い畑へ流れ込んだ水は排水溝へ向かうが、土砂で狭くなった区間で滞り、畑に広がっていった。


 別の場所では木橋の脇に流木が重なり、川の流れを塞いでいる。


 このままでは、南側の2つの村でかなりの耕地が水に浸かる。


 レオンは地図を広げた。


「川が溢れるのはここです。排水溝は村の南まで全部さらってください。特にこの区間は狭いので、幅も広げます。木橋のところには流木が溜まるので、橋も補強しておきたいです」


 管理官は地図を見ながら作業量を見積もった。


「10日で終わらせるなら、2つの村から100人ほど集める必要があります。ただ、その間は自分の畑の仕事ができません」


「働いた人には日雇いと同じ給金を出してください。領地の仕事だからという理由で、10日もただ働きさせるつもりはありません」


「共同作業として人を出させる方法もありますが、使われないのですね」


「その間に自分の畑を放っておくことになるでしょう。給金を払っても、水害で作物を失うより安いですよ」


 レオンは自分の資金から銀貨120枚を出し、排水溝の浚渫と拡幅、木橋の補強を始めさせた。


 土を掘る道具も足りなかったため、近隣の町から鉄の鍬や鋤を買い足した。木橋には新しい梁を入れ、流木が引っ掛かりやすい場所には人が入って取り除ける足場も作った。


 給金が出ると知ると、予定していた2つの村以外からも働きたい者が集まった。春の農作業と日を分けて参加する者もおり、10日後には埋まりかけていた排水溝へ再び水が流れるようになった。


 管理官は水路を見ながら言った。


「銀貨120枚を使いましたが、この春に水害が起きなければ、何もなかったように見えるかもしれませんな」


「何も起きないのが一番ですよ。それに占いが外れても、掃除した排水溝と補強した橋は残ります」


「それなら無駄にはなりませんな」


 数日後、山の気温が急に上がり、その夜から強い雨が降った。


 翌朝には川の水位が大きく上がり、レオンが占いで見た場所から実際に水が溢れ始めた。しかし低地へ入った水は、広げた排水溝へ流れ込み、そのまま村の南へ抜けていく。


 木橋の脇にも予想どおり流木が集まったが、あらかじめ人を置いていたため、川を塞ぐ前に取り除くことができた。


 前年までなら水に浸かっていた畑の大半が守られた。


 午後になって川の水位が下がり始めたころ、レオンの視界へ文字が現れた。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【治水Ⅰ】を獲得しました》


 新しい能力を得てから川を見ると、どこへ水を逃がせば畑に溜まりにくいのか、川や水路のどこへ手を入れればよいのかを以前より考えやすくなっていた。


「来年までに、もう2本排水路を増やせそうです。それから川沿いの低い土地は、畑にこだわらない方がよさそうですね」


「耕地を減らすのですか?」


「毎年水害を心配する場所なら、牧草地にした方が使いやすいかもしれません。羊を増やすなら、そちらでも役に立ちます」


 今回使った銀貨120枚で作物の損失を防ぎ、排水溝と橋も残った。領地を豊かにするには、金を残すだけでなく、将来の収入につながる場所へ使う必要がある。

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