第3話(中編)――「谷へ追い込め」
村へ戻ったレオンは、6人の百人隊長と現地の猟師を集めた。
地図の中央には北の村があり、その西に森、さらに北には両側を岩山に挟まれた谷がある。
「魔物が来るのは明日の夜です。村の中で迎え撃つつもりはありません。住民と家畜は、それまでに別の村へ移します」
隊長の1人が地図を見た。
「村の手前で戦うのですか?」
「そこも森に近すぎます。灰狼は木の間を走れますが、こちらは600人もいる。狭い場所へ入れば人数の利点がなくなります」
レオンは北側の谷を指した。
「ここへ追い込みます」
「魔物がこちらの望む方向へ動くでしょうか?」
「村へ行く道を空けたままでは無理です。南と西から兵を出し、角笛や太鼓、盾を叩く音で群れを北へ押します。襲ってきた魔物だけ弓で倒し、森の中では無理に追いかけません」
「火は使わないのですか?」
「森ごと燃えたら困ります。村にも広がるかもしれません」
谷の両側にある岩場には弓兵100人を配置する。歩兵の主力は谷の出口を押さえ、騎兵60人をその周辺に待機させる。残る騎兵と弓兵は予備として残し、群れが予定とは違う方向へ動いた時に使うことにした。
「灰狼と大猪が谷へ入ったら、両側から矢を射ます。オーガまで入ってから出口を塞いでください。傷のある大きなオーガを見つけても、勝手に追わないでください。あれを倒すために隊列を崩したら、ほかの魔物を逃がします」
百人隊長の1人が尋ねた。
「頭目については、どの段階で狙いますか?」
「谷へ入れてからです。弓で弱らせて、歩兵と一緒に倒します。俺も前へ出ますが、1人で戦うつもりはありません」
各隊の配置が決まると、細かな手配は百人隊長たちに任せた。
北の村では、その日のうちに避難が始まった。老人や小さな子供は荷車に乗せ、牛や羊、豚だけでなく鶏まで別の村へ移していく。
最後まで残っていた村人が、家の戸締まりを確かめながらレオンへ言った。
「家が壊れても、また直せます。家族と家畜が残れば何とかなります」
「村の中まで魔物を入れないつもりです。戦いが終わるまでは戻らないでください」
「お願いします」
翌日の夕方までに、村から住民の姿はなくなった。
兵も予定していた場所へ移動し、日が落ちるころには森の周囲に600人が展開していた。
レオンはブラウンに乗り、谷から少し離れた場所で待った。
夜が深くなり始めたころ、北西の森から獣の鳴き声が聞こえた。
占いで見た時刻と方向である。
その直後、視界に文字が現れた。
《占術が的中しました》
《天命が1つ満たされました》
《身体適応が進みます》
《能力【魔物察知Ⅰ】を獲得しました》
能力を得た途端、森の見え方そのものが変わったわけではない。それでも木々の向こうへ意識を向けると、魔物がまとまっている方向を以前よりはっきり感じ取れた。
「北西から来ています。予定どおり始めてください」
レオンの指示が伝わり、森の南側から角笛が響いた。
続いて太鼓や盾を打ち鳴らす音が広がる。
村へ向かっていた魔物の群れが動きを変えた。
西側からも兵が前へ出ると、灰狼や大猪は人間のいる方向を避け、北へ流れ始める。
「追いすぎるな。森の奥へ入る必要はない! こちらへ向かってきた魔物だけ倒せ!」
伝令が命令を各隊へ運んだ。
何度か灰狼が兵へ飛びかかったが、盾と槍で追い返される。弓兵も近づいてきた魔物だけを狙い、群れ全体を刺激しすぎないようにしていた。
やがて谷の手前から灰狼が姿を現した。
数十頭が続いて走り、その後ろから大猪が出てくる。さらに木々の間から、何体もの大きなオーガが現れた。
中央には、レオンが占いで見た個体もいる。
右肩から胸へ、白く盛り上がった古傷が走っていた。
「傷のある大きな奴がいます。あれが頭目です」
灰狼が谷へ入る。
続いて大猪も入った。
弓兵はまだ撃たない。
最後にオーガたちが進み、頭目まで谷の中ほどへ入ったところで、レオンは合図を出した。
「弓兵、放て!」
岩場の左右から矢が降った。
狭い谷には、魔物が横へ逃げられる場所が少ない。灰狼が次々に倒れ、何本もの矢を受けた大猪が暴れて後続の魔物とぶつかった。
オーガが岩場へ向かおうとすると、弓兵が集中して射る。1体が全身に矢を受け、そのまま斜面を転げ落ちた。
頭目のオーガが大声を上げた。
その声に反応したのか、周囲の灰狼が一斉に谷の出口へ走り始める。
「歩兵、盾を前へ。槍は3列で構えろ!」
谷の出口を歩兵が塞いだ。
先に来た灰狼は槍の列を破れず、大猪も何本もの槍を受けて倒れる。
オーガは力任せに棍棒を振り、前列の盾を叩いた。兵が吹き飛ばされるが、レオンはその場で押し返させなかった。
「前列は左右へ開け! 弓兵、近距離で射ろ!」
盾の間が開いたところへオーガが踏み込む。
待っていた弓兵の矢が胸と腕へ突き刺さった。
それでも頭目は倒れなかった。
何本もの矢を受けたまま谷の右側へ走り、出口ではなく岩山の奥へ向かっていく。
レオンは進行方向を見た。
そこには村も街道もない。
頭目がどこへ逃げようとしているのかを占う。
岩壁の陰へ巨体が消えた。
その先に、大きな洞穴の入口が見えた。
「岩山の奥に逃げ場所があります。騎兵40人、俺について来てください。頭目だけは逃がしません!」
レオンはブラウンを走らせた。




