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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第二章――「王都の寵児」

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第1話(中編)――「国王の前で占え」

 王都へ到着した翌朝、レオンは王宮の客用宿舎で拝謁の支度をしていた。


 用意されたのは濃い青の上着と黒い長衣、それに磨き上げられた革靴である。装飾こそ控えめだが、生地も仕立てもレオンが普段着ている服とは比べものにならない。


 袖を通したレオンは、生地を指で確かめた。


「これ、かなり高い服じゃないのか」


 着替えを手伝っていた王宮の使用人が答えた。


「陛下へ拝謁する方のために用意する衣服ですから、粗末なものではございません」


「帰る時には返すんですよね」


「もちろんでございます」


「それなら安心した。汚したら買い取れと言われるのかと思ったよ」


「そのような心配をなさっていたのですか」


「服に銀貨を何十枚も払うくらいなら、馬か荷車を買うよ」


 使用人は返事に迷ったようだった。


 支度を終えると王宮の役人が迎えに来た。長い廊下と階段をいくつも通り、衛兵が守る扉の前で一度止まる。


 レオンが通されたのは、大勢の貴族が並ぶ大広間ではなかった。国王が日常の政務に使う広い執務室で、室内には数人の重臣と軍務を担当する将校がいた。


 レオンは教えられていた位置まで進み、【礼法Ⅰ】で身に付いた作法に従って礼をした。


「ハルベル伯爵家軍務副隊長、レオン・ローデンでございます。お召しにより参りました」


「顔を上げよ」


 レオンは姿勢を戻し、初めて正面から国王を見た。


 王冠をかぶっているわけではなく、濃い色の上着を着て大きな卓の前に座っている。左右の重臣たちがいなければ、高位の軍人だと言われても納得できそうな姿だった。


 国王はレオンを眺めてから口を開いた。


「17歳だそうだな」


「はい」


「報告では、すでに200人を率いて戦ったことになっている」


「兵が命令どおり動いてくれたおかげです」


「自分の手柄ではないと?」


「俺1人で200人分戦えるわけではありませんから」


 そこまで答えてから、レオンは王の前でも普段の一人称を使ってしまったことに気付いた。


「申し訳ございません。言葉遣いが」


「普段は今のように話しているのか?」


「はい」


「ならば、そのままで構わん。無礼にならぬ範囲で普通に話せ。作った言葉で話される方が面倒だ」


「分かりました」


 国王は卓の上から1枚の書類を取った。


「お前の占いについては、ハルベル伯爵から何度も報告を受けている。天候だけでなく、相場や敵の動きまで当てたそうだな」


「いつでも何でも分かるわけではありません。何も見えない時もあります」


「それでよい。何でも分かると言われる方が信用できん」


 国王は書類をレオンの方へ向けた。


「東部の王領から、王都へ穀物を運ばせている。荷車は40台。3日前に最後の宿場を出発し、予定では明日の夕方までに王都へ到着する」


「その一行が、予定どおり到着するか占えばいいのですね」


「そうだ。遅れるのであれば、その理由まで分かるか試してみろ」


 レオンは書類を読んだ。


 出発地、利用する街道、荷車の数、途中の宿場から届いた報告が記されている。


「街道の地図も見せてもらえますか?」


 国王が軍務官を見ると、壁際にいた男が地図を持ってきて卓へ広げた。


 王都の東へ延びる街道を追うと、途中に川が2本あった。大きな川には石橋があり、その手前の支流には木橋が架かっている。


 レオンは地図を頭へ入れてから、40台の穀物荷車が王都へ向かう様子を思い浮かべた。


 すぐには何も見えなかった。


 もう一度、荷車がこの街道を進み、王都へ到着するまでを強く意識する。


 やがて雪の残る道が見えた。


 重い穀物を積んだ荷車が列を作り、木橋へ進んでいく。先頭の数台は無事に渡るが、途中で大きな音がした。


 御者たちが馬を止める。


 橋は完全には落ちていない。しかし、床を支えていた太い梁の1本が折れ、後続の荷車を通せる状態ではなくなっていた。


 レオンはさらに事故が起きる前を探った。


 橋の下側、王都から見て右側にある太い梁に亀裂が入っている。雪と泥に隠れ、上から見ただけでは分からない。しかし穀物を満載した荷車を何台も続けて通せば、重みに耐えられなくなる。


 そこで光景が途切れた。


 レオンは地図へ視線を戻した。


「明日の夕方には着きません」


 室内の空気が変わった。重臣たちもレオンを見る。


 国王が尋ねた。


「何が起きる?」


「この支流に架かっている木橋が原因です。橋を支えている梁の1本に大きな亀裂があります。数台なら渡れるでしょうが、穀物を積んだ荷車40台を続けて通せば、途中で壊れます」


 軍務官が地図上の橋を指した。


「この橋で間違いないのか?」


「見えた場所と地図が合っているなら、そこです。王都側から見て右寄りの太い梁に亀裂があります」


「橋はいつ落ちる?」


「最初の荷車からではありません。何台か渡った後です。橋全体が川へ落ちるところまでは見えませんでしたが、荷車を通せなくなるのは確かです」


 国王は地図を見た。


「この橋を使えなければ、別の道はあるのか?」


 レオンも地図へ目を落とした。


 街道の南側に、小さな村を経由して石橋へ回る道がある。


「この道なら橋を避けられます。ただ、40台を回せばかなり時間がかかります。到着は明後日の夕方あたりになると思います」


「橋については、どの程度の確信がある?」


「かなりはっきり見えました。到着時刻は多少ずれるかもしれませんが、橋をそのまま通すのは危険です」


 国王はすぐ軍務官へ命じた。


「騎兵を出せ。現地で橋を調べさせろ。穀物隊より先に着けるな?」


「今から出せば十分に間に合います」


「亀裂が確認できれば南へ迂回させろ。異常がなければ予定どおり進ませる」


「承知いたしました」


 軍務官は部屋を出ていった。


 国王は改めてレオンを見た。


「結果が分かるまでここへ置いておきたいところだが、騎兵が戻るには時間がかかる。今日は宿舎へ戻ってよい」


「分かりました」


 レオンが礼をしようとすると、国王が呼び止めた。


「もし橋に何の異常もなかったら、お前はどうする?」


「謝ります」


「それで終わりか?」


「見えたものを、そのままお話ししました。外れたからといって、別のものが見えたことにはできません」


 国王は少し笑った。


「その答えならよい。下がれ」


 レオンは礼をして部屋を出た。


 ◇ ◇ ◇


 結果はその日の夕方に出た。


 王宮の宿舎で夕食を取っていると、朝の軍務官が部屋へ入ってきた。


「レオン殿、橋の件が確認できた」


 レオンは食事の手を止めた。


「亀裂があったのですか?」


「あった。それも、お前が示した位置そのものだ」


 兵を橋の下へ降ろして調べたところ、雪と泥に隠れていた梁に大きな亀裂が見つかったという。上からではほとんど分からず、知らずに重い荷車を何十台も通していれば、途中で梁が折れた可能性が高かった。


 穀物隊はすでに橋の近くまで来ていたが、王都からの命令を受けて南へ進路を変えた。


「到着は1日ほど遅れるが、荷車も穀物も失わずに済む。陛下がお呼びだ。これから来てもらいたい」


「分かりました」


 レオンが立ち上がろうとした時、視界に見慣れた文字が浮かんだ。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【危険察知Ⅱ】を獲得しました》


 レオンの視線が最後の1行で止まった。


「危険察知……Ⅱ?」


 【危険察知Ⅰ】はすでに持っている。


 同じ能力が重なったのではない。Ⅰだった能力がⅡへ上がっていた。


 腕力や握力を得た時のような、分かりやすい身体の変化はなかった。ところが部屋へ目を向けると、今までなら見過ごしていたものが次々に気になった。


 暖炉のそばでは、積まれた薪の1本が傾いている。このまま崩れれば火の粉が床へ飛ぶ。扉の近くにはこぼれた水が残り、急いで入ってくれば足を滑らせそうだった。


 さらに目の前の軍務官を見ると、剣帯を留めている金具が半分外れている。


「その剣帯、直した方がいいですよ。このまま走ると鞘が落ちます」


「剣帯?」


 軍務官が腰を見ると、すぐに金具へ手を伸ばした。


「本当だ。いつ外れたんだ」


「そこまでは分かりません。ただ、さっきより危ないものが目につくようになったみたいです」


「橋を当てた直後に、今度はそれか」


 軍務官は金具を留め直してから、感心したようにレオンを見た。


「陛下が王都まで呼びつけた理由が、少し分かってきたよ」


 レオンは軍務官とともに廊下へ出た。


 頭の中では、橋よりも新しい能力のことを考えていた。


 これまで、占術が的中すれば新しい能力が1つ増えるものだと思っていた。しかし今回は、すでに持っていた【危険察知Ⅰ】が【危険察知Ⅱ】へ上がった。


 能力は増えるだけではなく、鍛えられる。


 そう考えれば、剣術にも軍略にも兵站にも、さらに上があるはずだった。


 王都へ来て早々、レオンは自分がまだ強くなれる方法を1つ見つけた。

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