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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

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第9話(中編)――「80人を率いる」

 11月半ば、レオンはハルベル伯爵の執務室へ呼ばれた。


 室内には伯爵と兵をまとめる隊長がおり、卓上には伯爵領北部の地図が広げられていた。


「今回は何人を預けられるのですか?」


 レオンが地図を見ながら尋ねると、隊長が答えた。


「80人だ」


 レオンは顔を上げた。


「前回の12人から、ずいぶん増えましたね」


「それだけの人数を任されるのが嫌なのか?」


「いいえ。むしろ試してみたいです」


 ハルベル伯爵が地図の北側を指した。


「領外から武装した集団が入ってきている。人数は60から70ほどと見ている」


「普通の盗賊ではないのですね?」


「傭兵崩れらしい。冬になる前に食料を奪って南へ移るつもりなのだろう」


 翌日には、伯爵家へ納める穀物を積んだ荷車24台が北部の村を出て、城へ向かう予定になっていた。


「穀物の輸送そのものを中止する考えはないのですか?」


 レオンが尋ねると、伯爵は首を横に振った。


「村へ置いたままにもできん。雪が降れば、あとから運び出す方が難しくなる」


「分かりました。それなら敵がどこで襲ってくるのかを見ます」


 レオンは地図へ目を落とした。


 荷車24台が城へ向かう道は2本ある。東の街道は短いが、途中で川を渡る。西側は遠回りになるものの、道幅は広く、橋も整っている。


 荷車と武装集団の動きを意識すると、頭の中へ夕方の川が浮かんだ。


 そこにあるのは石橋ではなく、川幅の狭い場所に架けられた古い木橋だった。橋の手前には黒い松が何本も立っている。


 荷車の先頭が橋を渡ろうとしたところで、街道脇の林から矢が飛んだ。


 同時に、川の対岸にも武装した男たちが現れる。


 橋の両側を塞ぎ、動けなくなった荷車から穀物を奪うつもりらしい。


 敵は合わせて60人を超えていた。


「黒い松が並んだ木橋で襲われます」


 隊長が地図を見た。


「黒松橋だな」


「おそらくそこです。明日の夕方、荷車が橋へ入った時に襲ってきます。こちら側の林に40人ほど、橋の向こうにも20人以上いました」


「橋の両側から挟み込むつもりか」


「そう見えました」


 ハルベル伯爵がレオンを見た。


「それで、お前なら80人をどう動かす?」


 以前なら、伯爵や隊長が作戦を決めてからレオンに兵を預けていた。


 今回は最初から、戦い方そのものを任されている。


「荷車は予定通り動かします。ただし、橋へ入る前に止めます」


「荷車を囮として使うのか?」


「はい」


 レオンは地図へ指を置いた。


「騎馬30人を先に橋の向こうへ渡し、対岸にいる敵の後ろへ回します。徒歩40人はこちら側の林へ先に入れる。残る10人は俺と荷車に付きます。敵が林から出てきたところで、後方を塞ぎます」


 隊長が続けて尋ねた。


「対岸へ渡す30人の指揮は、誰に任せるつもりなんだ?」


「騎馬兵の中から経験のある者を1人選びます。80人全部を俺1人で直接動かす必要はないでしょう」


 ハルベル伯爵が笑った。


「その答えなら任せられる」


 翌朝、レオンは80人の兵を率いて北へ向かった。


 途中で騎馬30人を分け、黒松橋を先に越えさせる。対岸へ渡った部隊には、街道から外れて敵の後方へ回るよう命じた。


 残る50人と荷車24台は、時間を置いて橋へ向かった。


 夕方が近づくと、街道の先に占いで見た黒い松が現れた。


「ここからは予定通り動く。各隊、配置へ向かえ」


 徒歩兵40人が荷車から離れ、街道の南側から林の奥へ回る。


 レオンは10人を連れたまま、24台の荷車を橋へ近づけた。


 先頭が黒松橋の手前へ来たところで、林の中から矢が飛んだ。


「荷車を止めろ!」


 レオンの命令で御者たちが一斉に手綱を引いた。


 同時に、林から武装した男たちが飛び出してくる。


「今だ! 後ろを塞げ!」


 回り込んでいた40人の兵が、敵の後方へ姿を現した。


 ほぼ同時に、橋の向こうからも怒鳴り声と武器のぶつかる音が響いた。先に渡していた騎馬30人が、対岸へ潜んでいた敵の背後へ回り込んだのである。


 レオンの視界に文字が現れた。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【軍略Ⅰ】を獲得しました》


 その瞬間、戦場の見え方が変わった。


 目の前の敵だけではない。どこで味方が押しているのか、どこに空きがあるのか、敵がどちらへ逃げようとしているのかまで、全体の動きから読み取れる。


「右側の10人は橋へ寄せろ! 川沿いへ抜ける道を塞げ!」


「了解!」


「荷車の護衛は持ち場を離れるな! 穀物を守れ!」


 敵は完全に挟まれていた。


 それでも中央にいた十数人は武器を捨てず、橋を突破しようとした。


 レオンはブラウンを進めた。


「前へ出る。騎馬兵は俺に続け!」


 近くの騎馬兵が続いた。


 剣を持った男が向かってきたが、レオンは馬上で刃を受け流し、すれ違いざまに剣の柄で肩を打った。男が崩れたところへ後ろの兵が入り、そのまま取り押さえる。


 続いて槍を持った男がブラウンの前へ出た。


 レオンは馬を横へ動かして穂先をかわし、すれ違う瞬間に剣で槍の柄を打った。槍が地面へ落ちる。


「武器を捨てろ! もう逃げ道は残っていない!」


 伯爵家の兵たちも同じ声を上げた。


 敵の抵抗は急速に弱まった。


 戦いが終わった時、50人以上が捕らえられていた。敵には負傷者も多かったが、伯爵家側には死者が出なかった。


 穀物を積んだ24台の荷車も、すべて無事だった。


 翌日、城へ戻ったレオンはハルベル伯爵から銀貨120枚を渡された。


「今回はかなり多いですね」


「荷車24台分の穀物と兵の命を守った。これくらいは当然だ」


「それなら遠慮なくいただきます」


「最近は『多すぎる』と言わなくなったな」


「金はあった方がいいと、ようやく分かってきましたから」


「それは正しい」


 レオンは革袋を受け取った。


 以前なら、まとまった金を手にすると家の食費や借金を最初に考えていたが、借金はすでになく、家にも十分な蓄えがある。この銀貨120枚も、次の商売へ回せる金だった。


 金があれば馬や荷車を買い、人を雇い、武器や食料を揃えることができる。必要なら商人へ資金を出すことも可能だった。


 自分の立場がさらに上がれば、動かす人間も物資も増える。その時になってから金を集め始めるのでは遅いため、レオンは稼げるうちにできるだけ多くの金を作っておくつもりだった。

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