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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

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第9話(前編)――「塩を60袋買え」

 11月上旬、レオンは市場の塩問屋で足を止めた。


 店先には南部から届いた塩袋が山のように積まれていた。冬が来る前に運び込まれた品だが、今回は荷が多すぎたらしく、問屋の主人は普段より安い値段を付けている。


「今日はずいぶん安く出しているな」


 レオンが声を掛けると、主人は積み上がった塩袋を指した。


「南から3つの隊商が同じ日に着いたんだ。置いておくだけでも倉代がかかる。まとまった数を買うなら、もう少し安くしてやるぞ」


「10袋以上まとめて買った場合、1袋いくらになるんだ?」


「銀貨2枚だ」


「まだ下げられる余地はあるのか?」


「また値切るつもりか」


「安く仕入れなければ、商売にならないだろ」


 主人は笑った。


「それで、何袋くらい買うつもりなんだ?」


「まだ決めていない。少し待ってくれ」


 レオンは店先に積まれた塩と、この先の値動きを意識した。


 やがて頭の中に、10日ほど先の市場が浮かんだ。


 今は塩袋で埋まっている店先から荷がほとんど消え、南へ続く道には雪が積もっている。峠の手前では、大きな荷車が先へ進めず引き返していた。


 さらに先を見ると、市場で売られる塩の値段が上がっていた。


 1袋銀貨4枚。


 峠を再び荷車が通れるようになるのは、それから20日ほど先らしい。


 レオンは目を開けた。


「60袋まとめて買うなら、1袋いくらまで下げられる?」


 問屋の主人から笑顔が消えた。


「60袋も買うつもりなのか?」


「ああ」


「それだけの代金をすぐに払えるのか?」


「払える」


 ローデン家の借金は8月のうちに返し終えていた。その後は軍務の報酬や占いで得た金を蓄え、家の生活費とは別に、レオン自身が自由に動かせる銀貨も100枚を超えている。


 借金を返し、家族が食べていけるようにする段階はすでに終わった。


 これからは、持っている金を使ってさらに金を増やせばよい。


「60袋なら、1袋銀貨1枚半まで下げる」


「全部で90枚だな」


「そうだ。ただし、今日中に全部引き取ってくれ」


「置き場所まで用意できるのか?」


「隣の貸し倉庫が空いている。金を払えばすぐ使えるぞ」


 銀貨90枚は大金だが、生活費に手を付けるわけではない。仮に値上がりの時期がずれても、塩は簡単に腐る品ではなく、いずれ売ることができる。


「その条件なら60袋全部買う」


 主人は念を押した。


「本当に60袋すべてでいいんだな?」


「ああ。全部引き取る」


 レオンは銀貨90枚を払い、さらに銀貨3枚で貸し倉庫を借りた。塩60袋はその日のうちに問屋から運び出し、まとめて倉庫へ入れた。


 夕食の席で商売の話をすると、エルザはさすがに驚いた。


「銀貨93枚も一度に使ったの?」


「使ったというより、銀貨を塩60袋に替えたんだよ」


「値段が上がらなかったら、どうするつもりなの?」


「その時は塩が60袋残るだけだ。腐るものじゃないから、時間をかければ売れる」


「そういう話をしているんじゃないでしょう」


「分かってるよ。家の生活費には手を付けていないから、その点は心配しなくていい」


 ゲオルグが口を挟んだ。


「塩の値が上がるところまで占いで見えたのか?」


「ああ。10日ほどで南の峠が雪に閉ざされる」


「それなら、伯爵家にも先に知らせた方がいいんじゃないか?」


「そのつもりだ。明日、城へ行った時に話しておく。伯爵家が必要な分を先に買うなら、そっちを優先してもらうよ」


 自分が儲けるために、伯爵家や城下町を塩不足にするつもりはなかった。


 翌日、レオンは城の管理役に、10日ほどで南の峠が雪に閉ざされる可能性を伝えた。伯爵家ではすでに冬用の塩を十分に備蓄しており、追加で買い入れる必要はないという。


 それを確認してから、レオンは自分の商売を続けた。


 10日後、南部へ続く峠で大雪が降った。


 塩を積んだ荷車は峠を越えられなくなり、市場へ入る量が急に減った。数日もすると塩の値段は上がり、1袋銀貨4枚近くで取引されるようになった。


 そこでレオンは、市場の商人3人を倉庫へ呼んだ。


「今の相場なら、1袋銀貨4枚でも売れる。それでも俺は3枚で出す」


 商人の1人が尋ねた。


「相場より安く出すのには、何か理由があるのか?」


「長く抱えるつもりがないからだ。それに、町の塩が高くなりすぎれば困る人間も増える」


「どのくらいの数を売るつもりなんだ?」


「60袋全部だ。ただし、3軒で分けて買ってくれ。1軒だけに全部渡して、そこからさらに値を吊り上げられるのは困る」


 相場より安く、しかも十分な利益が取れる値段だったため、商人たちはその条件を受け入れた。


 銀貨90枚で仕入れた塩60袋は、銀貨180枚になった。倉庫代の銀貨3枚を引けば、利益は銀貨87枚である。


 代金を受け取ったところで、レオンの視界に文字が現れた。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【交渉術Ⅰ】を獲得しました》


 文字が消れると、目の前にいる商人たちとの話し方まで以前とは違って感じられた。どこまで強い条件を出せるのか、どこで譲れば相手が納得するのか、話をまとめるための加減が自然に分かる。


 これなら、今後もっと大きな商売をする時にも使えそうだった。


 家へ戻ると、レオンは今回の売上を食卓へ並べた。


 エルザは銀貨を数えてから息子を見た。


「本当に増えたわね」


「銀貨93枚を使って、180枚になった」


「倉庫代まで引いて、87枚の儲けということなの?」


「ああ。それが全部利益だ」


 ゲオルグは杯を置いた。


「伯爵家の任務より商売の方が儲かっているんじゃないか?」


「今回はそうだな」


「お前、士族だったよな?」


「士族が商売をしてはいけない決まりでもあるのか?」


「そんなことは言っていない」


「それなら問題ないだろ」


 リナが銀貨の山を見ながら尋ねた。


「これだけあったら、お肉は何回食べられるの?」


「そろそろ肉で金額を考えるのはやめた方がいいぞ」


「だって、それが一番分かりやすいんだもん」


 レオンは笑った。


 ローデン家にはもう借金がなく、冬の食料を心配する必要もない。今では銀貨を使って商品を買い、その商品を売ってさらに銀貨を増やせる。


 前世では仕事を失うたびに貯金が減っていくことを恐れていたが、今では手元にある金を次の金を作る元手として使える。銀貨100枚を200枚にできるなら、いずれ200枚を500枚、500枚を1,000枚へ増やすこともできる。


 レオンは、ようやく金を使って金を作る面白さを知り始めていた。

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