↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/93

第8話(後編)――「12人を動かす」

 10月下旬、城下町では秋の収穫市が始まった。


 周辺の村から麦、豆、野菜、果物、干し肉、酒などが次々に持ち込まれ、市場だけでは店を出す場所が足りなくなった。城門近くの広場にも露店が並び、普段の数倍の人が町へ入ってくる。


 人と金が集まれば、揉め事も増える。


 盗み、喧嘩、酔客同士の争い、荷車の衝突まで起きるため、伯爵家は城の兵を町へ出した。


 レオンには12人の兵が任された。


 朝、隊長は兵の詰所で簡単に命令した。


「今日は市場の西側から穀物倉庫まで、お前に任せる」


「12人を全部使って構わないのですね?」


「そのために集めた。配置も動かし方もお前が決めろ」


「分かりました」


「何か起きても、まずは自分で判断しろ。手に負えない時だけ詰所へ人を寄越せ」


「そのつもりで動きます」


 隊長からの指示はそれだけだった。


 ゲオルグは同行しない。兵をどこへ置き、何が起きた時にどう動かすかも、すべてレオンが決める。


 外では12人が待っていた。


「4人は市場の西側、4人は倉庫通りを担当してくれ。残る4人は俺と広場を回る。昼に一度ここへ集まって状況を確認する。それまでも何かあれば、すぐ俺へ知らせてくれ」


「了解」


 兵たちは3組に分かれ、それぞれの持ち場へ向かった。


 レオンはブラウンには乗らず、4人の兵とともに広場を歩いて見回った。


 収穫市には若い娘も大勢来ていた。


 以前から【異性魅了Ⅰ】の効果は感じていたが、人が集まる場所ではさらに分かりやすかった。兵を連れて歩くレオンを、露店や商家の娘たちが何度も振り返る。


 果物の店を手伝っている娘は、レオンを見ると林檎を1つ差し出した。


「レオン、これ食べる?」


「もらうなら代金は払うよ」


「1つくらいいいって」


「今は仕事中だから、帰りにまだ残っていたらもらうことにする」


 娘が笑った。


 一緒にいた兵が小声で言った。


「レオン殿、ずいぶん人気があるんだな」


「俺の顔を見るより、周りを見張ってくれ」


「これは失礼」


「仕事が終わってからなら好きにからかっていいよ」


 午前中は大きな問題もなく過ぎた。


 昼前に12人を集めて報告を聞くと、喧嘩が2件と盗みが1件あっただけで、どれも兵がその場で収めていた。


 ところが午後、穀物商人の1人がレオンを訪ねてきた。


「レオン、少し耳に入れておきたいことがある」


「何か気になる動きでもあったのか?」


「倉庫の辺りで見慣れない男が何度も裏道を確認している。荷物を運ぶでもなく、店へ入るでもない」


「盗みの下見でもしているように見えたのか?」


「そこまでは分からん。ただ、油壺を売る店でも同じ男を見た」


 レオンは倉庫通りへ目を向けた。


 麦や豆を大量に保管する木造の倉庫が何棟も並んでいる。乾燥した穀物と木造建物が集まる場所だけに、火が出れば被害は大きい。


「その男の顔や服装で覚えていることはあるのか?」


「痩せた男だ。左の眉の上に傷があって、灰色の上着を着ている」


 レオンはその男と、今日の倉庫通りを意識して占った。


 やがて夕方の光景が浮かんだ。


 人通りが減った倉庫の裏で、灰色の上着を着た男が油壺を傾けている。隣にはもう1人いた。


 2人は木壁の下へ油を撒き、火のついた布を投げようとしていた。


 その少し離れた場所では、別の3人が両替商の店へ近づいている。


 倉庫へ火を付け、人々が消火へ向かった隙に両替商を襲うつもりらしい。


 レオンは目を開けた。


「そいつらは盗人じゃない。倉庫へ火を付けるつもりだ」


 商人の顔色が変わった。


「そんなことをされたら、ここ一帯が燃えるぞ」


「ああ。火事で人を集めて、その隙に別の3人が両替商を襲う。動くのは夕方だ」


 レオンは近くにいた兵へ命じた。


「持ち場にいる者も含めて12人全員を集めてくれ。急いだ方がいい」


「分かった!」


 ほどなく12人が揃った。


 レオンは地面へ簡単に周辺の道と建物の位置を描いた。


「相手は5人だ。2人が倉庫へ火を付け、残る3人が両替商を襲う。火事を囮にするつもりらしい」


 兵たちの表情が変わった。


「4人は両替商へ向かってくれ。客や通行人に見える位置で待機する。3人は倉庫の裏へ回って姿を隠せ。残る5人は俺と表通りで待つ」


 兵の1人が確認した。


「火を付けようとしたところで押さえればいいんだな?」


「油を撒くところまでは待つ。そこまでやれば言い逃れはできない。ただし、火は絶対に付けさせるな」


「了解した」


「俺が合図するまで動かないでくれ」


 兵たちはそれぞれの場所へ散った。


 夕方になると露店を片付け始める商人も現れ、人の流れは少しずつ市場の中心へ移っていった。


 レオンは倉庫通りの入口で待った。


 【観察眼Ⅰ】を使って通行人を見ていると、灰色の上着を着た細い男が現れた。


 左の眉の上に傷がある。


 男は何度か周囲を確かめてから裏道へ入った。


 少し遅れて、別の男が油壺を持って続いた。


 レオンはまだ動かなかった。


 倉庫の裏へ入った2人が油壺の蓋を開ける。


 1人が木壁へ油を撒き、もう1人が布へ火を付けるため火打ち石を取り出した。


「今だ! 押さえろ!」


 レオンの声と同時に、裏へ回していた3人の兵が飛び出した。


「何だ!」


 男が驚いて火打ち石を落とした。


 レオンも正面から走った。


「火を持っている方を先に押さえろ!」


 2人は抵抗しようとしたが、周囲を兵に囲まれ、逃げることはできなかった。


 その直後、両替商の方でも怒鳴り声が上がった。


「伯爵家の兵だ! 武器を捨てろ!」


 残る3人も、店へ押し入る直前に捕らえられた。


 倉庫から火は出ず、両替商の金も奪われなかった。


 5人をすべて縛り上げたところで、レオンの視界に文字が現れた。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【指揮Ⅱ】を獲得しました》


 12人の兵を見渡すと、次に誰をどこへ動かせばよいのかが、それまで以上に早くまとまった。捕虜を運ぶ者、倉庫に残す者、両替商を確認する者を迷わず分けられる。


「4人は捕虜を城へ連れていってくれ。3人は倉庫に残り、撒かれた油を処理する。商人は安全が確認できるまで中へ入れないでくれ。残りは俺と両替商へ向かう」


「了解!」


 兵たちは命令を聞くとすぐに動いた。


 レオン自身も、命令を出したあとに迷い直すことがなくなっていると分かった。


 翌日、レオンはハルベル伯爵の前へ呼ばれた。


「昨日は倉庫への火付けを未然に止めたそうだな」


「油を撒いたところで捕らえました。火は出していません」


「その間に両替商を狙っていた者まで捕らえたと聞いている」


「5人とも同じ仲間でした。火事で人を集めている間に店を襲うつもりだったようです」


 ハルベル伯爵は報告書へ目を落とした。


「倉庫へ火が回っていれば、麦や豆を大量に失うところだった。収穫直後にそれをやられれば、冬の値段にも響く」


 伯爵は銀貨40枚をレオンへ与えた。


「受け取れ」


「ありがとうございます」


「それと、今後は10人や20人程度の兵なら、お前に任せる」


 レオンは少し考えてから答えた。


「そこまで任せてもらえるなら、こちらも指揮する前提で動きます」


「もうそのつもりで12人を動かしていたのだろう」


「昨日は必要だったのでやりました」


「城の兵も、お前の命令で問題なく動いたと報告を受けている。占いだけが役に立っているわけではないということだ」


「分かりました」


「ただし、大勢を動かす時ほど自分1人で何でもやろうとするな。任せることも覚えろ」


「肝に銘じます」


 城を出ると、隊長が詰所の前にいた。


「伯爵様から話は聞いたか?」


「これからは20人程度まで任せると言われました」


「そうなると思っていた」


「隊長は最初から、そのつもりで俺に12人を預けたのですか?」


「俺が伯爵様へ報告した。最終的に決めるのは伯爵様だから、先に余計なことは言わなかっただけだ」


「なるほど。それなら納得しました」


 隊長はレオンの肩を軽く叩いた。


「次から俺は任務の内容だけ説明する。細かい配置までいちいち聞きに来るなよ」


「そこまで任されたなら、自分で決めますよ」


「言うようになったな」


「今さらでしょう」


 レオンは笑った。


 家へ帰ると、ゲオルグは庭で剣の手入れをしていた。


「今日はずいぶん遅かったな。報酬まで出たのか?」


「帰って最初に聞くのが金の話なのか?」


「怪我をしていないのは見れば分かる。なら次に気になるのは稼ぎだ」


「銀貨40枚」


「そうか」


「もう驚きもしないんだな」


「お前の稼ぎに毎回驚いていたら疲れる」


「それは助かるよ」


 レオンは父の隣へ座り、自分の剣を抜いた。


 ゲオルグが息子の剣を見た。


「自分で手入れする気になったのか?」


「自分の剣なんだから当たり前だろ」


「ブラウンの世話は済ませたのか?」


「餌も水もやった。蹄も見たよ」


「なら、もう俺から言うことはないな」


 少し前までは、ゲオルグが稽古の仕方から武器の手入れまで1つずつ教えていた。今では父と息子が並び、それぞれ自分の剣を手入れしている。


 しばらくして、ゲオルグが言った。


「もう俺が、お前の仕事についていく必要はなさそうだな」


 レオンは剣から目を離さなかった。


「気付くのが遅いよ」


「それくらい言うようになった方が安心だ」


「こっちはとっくに1人で行っているだろ」


 ゲオルグは笑い、レオンも笑った。


 その夜、食卓には肉の煮込みと白いパンが並んだ。以前なら特別な日にしか食べられなかったものだが、今では月に何度か食卓へ出るようになっている。


 レオンには自分の馬があり、自分の剣がある。伯爵家から兵を預けられ、自分で配置を決め、自分の判断で動かすことも当たり前になってきた。


 この1か月で得た【観察眼Ⅰ】【追跡Ⅰ】【指揮Ⅱ】も、それぞれ実際の任務で役に立っている。


 仕事を任され、自分で判断し、結果を出して報酬を受け取る。10月が終わるころには、それがレオン・ローデンの日常になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。