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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

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第8話(中編)――「8人を率いる」

 10月半ば、レオンは1人で兵の詰所へ呼ばれた。


 ゲオルグは別の任務に出ていたが、隊長はそれを気にする様子もなかった。レオンが入ってくると、卓上へ地図を広げた。


「今日はお前に8人預ける」


「8人ですか。今度はどんな任務なのですか?」


「税銀が消えた」


 伯爵領東部の村から税として集めた銀貨を運んでいた徴税役が、予定の日を過ぎても城へ戻っていなかった。


 持っていた税銀は90枚である。


 徴税役には護衛が2人付き、3人とも馬に乗っていた。それが全員まとめて行方不明になっている。


「徴税役本人が銀貨90枚を持って逃げた可能性も調べているのですね?」


「もちろんだ。ただし、俺はその可能性を低く見ている。あの男は15年以上勤めているし、家族も城下にいる。銀貨90枚のために全部捨てるとは考えにくい」


「最後に姿を確認した者は、どこで見ているのですか?」


「東の村を出たところだ」


 隊長は地図を指した。


「本来ならこの街道を通って城へ戻る」


 レオンは地図を見た。


 街道の途中には林があり、その先で道が2つに分かれている。北へ行けば城へ続き、南へ行けば古い礼拝堂や牧草地のある一帯へ出る。


「分かりました。徴税役と税銀が今どこにあるのかを見ます」


「ああ。生きているなら、一刻でも早い方がいい」


 レオンは徴税役と銀貨90枚を意識して占った。


 すぐには何も見えなかった。


 しばらくすると、石造りの古い建物が頭の中へ浮かんだ。


 屋根の一部が崩れ、扉も傾いている。その中では中年の男が柱へ縛られていた。


 少し離れた場所には護衛の1人が倒れ、もう1人は壁にもたれて座り、片脚から血を流している。


 銀貨を入れた袋は建物の外に止めた荷車へ積まれていた。


 武装した男が5人いる。


 そのうち2人は、荷車から馬へ荷物を移していた。


「街道を南へ外れています」


 隊長が地図へ顔を寄せた。


「場所の見当は付くのか?」


「石造りの古い建物です。屋根の一部が崩れていました。この辺りに使われていない礼拝堂はありませんか?」


「ある。ここだ」


 隊長が地図上の印を指した。


「何年も前から使われていない礼拝堂だ」


「徴税役は生きています。護衛も少なくとも1人は意識がありました。相手は5人です。銀貨を馬へ積み替えていたので、長居するつもりはなさそうです」


 隊長はすぐに立ち上がった。


「8人はもう用意してある。説明は道で済ませろ。すぐ出ろ」


「分かりました」


 レオンが詰所を出ると、8人の兵が馬を用意して待っていた。前回の任務で一緒だった者も2人いる。


「レオン殿、今日はあんたの指揮で動けばいいんだな?」


「ああ。時間がない。東門から街道へ出て、そのまま東へ向かう」


 レオンはブラウンの鞍へ上がった。


 8人の兵も、指揮する者が16歳だということを気にする様子はない。レオンが馬を進めると、その後ろへ隊列を作った。


 一行は東街道を急いだ。


 途中の分かれ道へ着くと、レオンはブラウンを止めた。


 普通に見れば、どちらの道にも新しい馬蹄や荷車の跡がいくつも残っている。


 ところが【観察眼Ⅰ】を得た今は、それぞれの跡の違いが以前よりはっきり分かった。


「南へ入っている。こっちだ」


 兵の1人が地面へ目を向けた。


「これだけ馬蹄の跡が重なっていても判別できるのか?」


「荷車の轍が新しい。それに馬も3頭以上、同じ方向へ入っている」


「なら南で間違いなさそうだな」


 レオンはそのまま南の道へ入った。


 しばらく進むと、占いで見た崩れた礼拝堂の屋根が木々の間から現れた。


「ここだ。全員、馬を止めろ」


 レオンは馬を降りた。


「4人は俺と正面へ回る。2人は北側、残り2人は南側へ回って逃げ道を塞いでくれ。こちらが声を掛けるまでは姿を見せなくていい」


「分かった」


 兵たちはすぐに分かれた。


 レオンは4人を連れて礼拝堂へ近づいた。


 中から男たちの話し声が聞こえる。


「日が落ちる前に出るぞ」


「銀貨90枚だ。これだけあればしばらく遊べる」


 占いで見た通りだった。


 レオンは剣を抜いた。


「正面から入る。逃げた者は左右へ回した兵に任せるぞ」


 4人も武器を構えた。


 レオンは礼拝堂の前へ出た。


「伯爵家の兵だ! 武器を捨てて、その場から動くな!」


 中にいた男たちが振り向いた。


「どうしてここが分かった!」


「裏から逃げろ!」


 2人が裏手へ走った。


「左右から出ろ!」


 レオンの声で、北と南へ回していた兵が姿を現した。


 逃げようとした男たちは足を止めた。


 残る3人は剣を抜いた。


「押し通すぞ!」


 1人がレオンへ向かってくる。


 白岩坂で初めて人と斬り合った時には、相手へ刃を入れることに迷いがあった。今は違う。


 殺す必要がなければ殺さない。それでも、武器を向けてくる相手を止めることには迷わなかった。


 レオンは男の剣を外へ流し、脇腹へ蹴りを入れた。身体が崩れたところで手首を打ち、剣を落とさせる。


「そいつを押さえてくれ!」


 後ろの兵が男を地面へ伏せさせた。


 別の2人も短い戦いの末に取り押さえられた。


 レオンは徴税役と護衛を解放し、税銀を確認した。


「まず銀貨を数えてください。90枚すべて残っていますか?」


 徴税役は震える手で袋を確かめた。


「あります。全部あります」


 レオンは続いて護衛の2人を見た。


「2人とも城まで戻れそうですか?」


「俺は大丈夫です。こいつは脚をやられているので、荷車へ乗せた方がいいでしょう」


 もう1人も頭を打って倒れていただけで、命に別状はなかった。


 3人とも生きている。


 その時、レオンの視界に文字が浮かんだ。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【追跡Ⅰ】を獲得しました》


 周囲へ目を向けると、足跡や折れた草、土のわずかな乱れから、人がどちらへ動いたのかを以前より読み取れるようになっていた。


 礼拝堂から、1人だけ先に出ていった者がいる。


 レオンは地面に残る跡を追った。


「ここから先に、もう1人出ていった跡があるな」


 徴税役が驚いた。


「そこまで分かるのですか。最初は6人いたんです。1人だけ、朝のうちにどこかへ出ていきました」


 森へ続く足跡は、まだ追えそうだった。


 しかし、今の任務は逃げた1人を捕らえることではない。税銀90枚と徴税役たちを無事に城へ戻すことが先だった。


「今回は追わない。税銀と負傷者を城へ戻す方を優先する」


 兵の1人もうなずいた。


「それがいいでしょう。逃げた1人を追って、銀貨90枚を危険にさらす必要はありません」


「捕虜5人を縛れ。負傷者は荷車へ乗せる。銀貨は隊列の中央に置いて、前後を兵で挟む。準備が済み次第、城へ戻るぞ」


 兵たちはすぐに動いた。


 夕方、一行は税銀と徴税役たちを連れて城へ戻った。


 隊長は銀貨90枚が揃っていることと、徴税役と護衛2人が生きて戻ったことを確認すると、レオンを詰所へ入れた。


「よくやった。全員無事に戻したそうだな」


「占いで場所を見つけただけじゃありませんよ。8人にはかなり働いてもらいました」


「報告は聞いている。配置も捕縛も問題なかったそうだ」


「俺の命令通りに動いてくれたからです」


「兵は、命令が曖昧なら動けん。そこまで含めて指揮する者の仕事だ」


 隊長は銀貨の入った小袋をレオンへ渡した。


「報酬は20枚だ」


「銀貨90枚を取り戻したとはいえ、20枚も出るのですか?」


「税銀は全部戻り、徴税役も護衛も助かった。それを考えれば安いくらいだ」


 レオンは袋を腰へ下げた。


「この調子だと、次に呼ばれる時はもっと人数が増えそうですね」


 隊長が笑った。


「自覚が出てきたじゃないか」


「どうせまた俺に任せるつもりなんでしょう?」


「その通りだ」


 レオンも笑った。


 家へ帰ると、ゲオルグはすでに夕食を食べていた。


「今日は何人預けられたんだ?」


「8人。税銀を奪った連中を捕まえてきた」


「任務は無事に済んだのか?」


「こっちは全員無事だ。税銀90枚も全部取り戻した」


「それなら十分だ」


 ゲオルグはそれだけ言って酒を飲んだ。


 以前なら、危険はなかったのか、怪我をしなかったのかと何度も確認しただろう。


 今は息子が1人で任務へ出て、兵を連れて無事に戻ったことを、そのまま受け入れている。


 レオンも、その方が気楽だった。

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