第6話(中編)――「北街道の盗賊」
8月半ば、ハルベル伯爵領の北街道で盗賊による被害が続いた。
最初は町から離れた場所で旅人が荷物を奪われ、その数日後には小麦を積んだ荷車が襲われた。さらに商人の荷車まで被害に遭ったことで、伯爵家も兵を動かすことになった。
ある朝、ゲオルグが仕事へ出たあと、伯爵家から使いの者がローデン家を訪れた。
レオンが城へ向かうと、案内されたのは管理棟ではなく兵の詰所だった。中にはゲオルグのほか、伯爵家の兵をまとめる隊長と数人の兵がおり、卓上の地図を囲んでいる。
隊長は40歳前後の体格のよい男だった。
「お前がレオンだな」
「はい」
「天気や事故だけではなく、盗賊が次に出る場所も分かるか?」
「見えるかどうかは、占ってみないと分かりません」
「それで構わん」
隊長は地図の北側を指した。
「ここ10日ほどで3件やられている。場所はすべて違う。巡回を増やしているが、兵のいないところを選んで出てくる」
「次に襲われる場所と時刻を見ればいいんですね」
「できるなら頼みたい。場所を絞れれば、こちらから待ち伏せできる」
ゲオルグが息子を見た。
「無理に答える必要はないぞ。相手は盗賊だ」
「分かってるよ」
レオンは地図を見ながら、北街道を走る荷車と盗賊を意識した。
【地形把握Ⅰ】を得ているため、街道の周囲にある丘や林の位置は、地図を見るだけでもかなり具体的に思い浮かべられる。
その中の1か所だけが、次第にはっきりしてきた。
道の脇には途中から2つに裂けた古い樫の木があり、その少し先に低い石橋がある。夕方、薪を高く積んだ荷車が橋へ近づいたところで、林から男たちが飛び出してきた。
人数は6人ほどだった。
レオンは目を開けた。
「2日後の夕方に襲われます」
隊長が身を乗り出した。
「場所はどこだ?」
「北街道にある石橋の手前です。道の脇に、途中から2つに分かれた大きな樫の木があります。その樫から少し北へ進んだところです」
「襲われる荷車は分かるか?」
「薪を積んでいました。盗賊は6人くらいです」
隊長は地図上の1か所を指した。
「この橋だろう。近くに古い樫がある」
ゲオルグも場所を知っていた。
「町から馬で1時間半ほどです」
「なら、ここで待つ」
場所が絞れたため、隊長はその場で待ち伏せの手配を始めた。
隊長は占いで見えた状況に合わせて、盗賊を誘い出すことにした。伯爵家で普段使っている荷車へ薪を積み、商人に扮した兵を乗せる。別の兵は林から見えない場所へ伏せ、盗賊が姿を現したところで前後から挟む。
作戦を聞いたレオンは隊長へ尋ねた。
「俺も現場まで行くんですか?」
ゲオルグが先に答えた。
「お前は行かなくていい」
ところが隊長は首を横に振った。
「占いで見た場所が本当にここか、現地で確認してもらいたい。橋までは連れていくが、戦わせるつもりはない。兵の後ろにいろ」
「それなら行きます」
ゲオルグは納得していない様子だった。
「レオン、お前まで行く必要はない」
「父さんも行くんだろ?」
「だからこそ言っている」
「俺も士族の倅なんだから、危ない仕事に一度も関わらずに済むわけじゃないだろ」
ゲオルグは返事をせず、隊長を見た。
「必ず後ろへ置いてください」
「分かっている。16歳の倅を最初から盗賊へぶつけるほど兵に困ってはいない」
2日後の午後、伯爵家の兵は北街道へ向かった。
レオンも馬を借りて同行した。【乗馬Ⅰ】があるため、兵の隊列についていくことに苦労はない。
やがて占いで見た樫の木が現れた。
「ここです。この先に見える橋で間違いありません」
隊長は周囲の地形を確かめ、兵を配置した。
夕方になると、薪を積んだ荷車が町の方向から近づいてきた。御者台に座っているのは、商人に扮した兵である。
荷車が石橋の手前へ差しかかったところで、林から男たちが現れた。
「止まれ!」
先頭の男が剣を抜いた。
占いで見た通り、盗賊は6人だった。
その瞬間、レオンの視界に文字が現れた。
《占術が的中しました》
《天命が1つ満たされました》
《身体適応が進みます》
《能力【格闘術Ⅰ】を獲得しました》
ほぼ同時に、隠れていた伯爵家の兵が動いた。
「囲め!」
隊長の命令で兵たちが林の両側から飛び出した。
罠に気付いた盗賊たちは逃げようとしたが、3人はすぐに取り押さえられ、2人は剣を抜いて兵へ抵抗した。
残る1人は林を抜け、馬を置いていたレオンたちの方へ走ってきた。手には短剣を握っている。
「どけ!」
レオンは進路を空けようとしたが、男は逃げ道を作るため、そのまま短剣を向けて突っ込んできた。
その時、レオンには相手の動きをどう崩せばよいのかが感覚として分かった。
短剣を持つ右手を外へ払い、腕をつかむ。男の勢いを利用して足を掛けると、盗賊の身体が地面へ転がった。
レオンはそのまま腕をねじり、短剣を落とさせた。
「痛え!」
「俺だって刺されたくないんだ。動くな」
後ろから兵が駆けつけ、男を縛り上げた。
ゲオルグもすぐにやって来た。
「怪我はしていないか?」
「大丈夫だよ」
「今の動きは誰に習った?」
「またその話をするのか?」
「剣とも短剣とも違う。俺はあんな倒し方を教えていないぞ」
「俺にも説明できないよ」
ゲオルグは息子の身体を確かめ、怪我がないと分かると、それ以上は追及しなかった。
盗賊6人は全員捕らえられた。
しかし隊長は、縛られた男たちを見ながら首をひねった。
「こいつらだけではなさそうだな」
持ち物や装備を調べると、街道で奪った品を別の場所へ運んでいるらしいことが分かった。また、捕らえた6人の中には頭領と思われる者もいない。
隊長はレオンへ顔を向けた。
「悪いが、もう1度力を借りることになりそうだ」
「今度は何を占えばいいんです?」
「こいつらの頭領がどこにいるのか調べたい」
レオンは縛られた盗賊たちを見た。
少し前までは、市場で失せ物や品物の値段を占っていた。それが今では、伯爵家の兵が盗賊を捕らえるために自分の占いを使っている。
しかも今回は、自分の手で盗賊を1人取り押さえた。
短剣を向けられた時には怖かった。それでも、男を地面へ倒した自分の手を見ても、16歳の身体を借り物のようには感じなくなっていた。




