↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/95

第6話(前編)――「女の目が変わった」

 8月上旬、レオンは市場で占いの仕事を続けていた。


 夏の日差しは強く、昼が近づくと石を敷いた道から熱が上がる。市場には夏野菜や果物が増え、収穫した麦を詰めた袋を積む荷車も目立つようになっていた。


 午前中はゲオルグと武器の稽古をし、午後は市場へ出る。そんな生活は変わらなかったが、町の者がレオンを見る目は数か月前とは違っている。失せ物だけでなく、商売や天気を当て、伯爵家からも仕事を頼まれるようになったことで、占い師として名前を知られるようになっていた。


 この日も市場へ入って間もなく、布を扱う商人から声を掛けられた。


「レオン、少し時間をもらえないか」


「何かなくしたのか?」


「いや。娘のことで相談したい」


 商人の隣には18歳になる娘のアンナがいた。普段から父親の店を手伝っており、レオンも何度か顔を見ている。


 アンナは父親に促され、事情を話した。


「結婚を申し込まれているの」


「その相手のことを占えばいいのか?」


「私と本気で結婚したいと思っているのか知りたいの」


 相手は同じ町で桶や樽を作る職人の息子だった。20歳で、父親の仕事を手伝いながら独立するための金を貯めているという。


 布商人が腕を組んだ。


「俺も反対しているわけじゃない。ただ、まだ自分の店も持っていない男だ。娘と結婚したいのか、うちの商売を当てにしているのか、それが分からん」


「本人には確かめたんですか?」


「聞いたさ。娘が好きだから結婚したいと言っている」


「それなら、本心までは俺にも分からないと思います」


「そこを何とか見られないかと思って、お前に頼んでいるんだ」


 人の心そのものを占えと言われても、今のレオンにできるかどうかは分からない。


 そこでアンナへ向き直った。


「アンナは、その男と結婚したいと思っているのか?」


「本気で私との暮らしを考えてくれているなら、もう少し待ってもいいと思ってる」


「分かった。本人の気持ちじゃなく、この先どう動くのかを見てみるよ」


 レオンはアンナと相手の男が、この先どうなるのかを意識した。


 しばらくすると、木を削る仕事場で働く若い男が頭の中に浮かんだ。仕事を終えたあと、小さな革袋へ銅貨を入れている。場面が変わると、その男は父親らしい中年の職人とともに布商人の店を訪れていた。


 手には小さな箱を持っている。


 時期は3日後だった。


「今日すぐに返事をせず、3日だけ待ってみたらどうだ?」


 アンナがレオンを見た。


「3日待てば何かあるの?」


「3日後の夕方、相手が父親と一緒にこの店へ来る。小さな箱も持っていた。正式に結婚の話をしに来るんじゃないかな」


 布商人が身を乗り出した。


「箱の中身まで分かるか?」


「そこまでは見えませんでした」


 アンナは父親と顔を見合わせた。


「本当に来るのかしら」


「俺にはそう見えた。今日断るつもりだったなら、3日待ってから決めても遅くないだろ」


 アンナは少し考えてからうなずいた。


「分かった。待ってみる」


 3日後の夕方、桶職人の息子は父親とともに布商人の店を訪れた。


 若者が持ってきた小箱には、銀で作った小さな指輪が入っていた。独立資金とは別に少しずつ金を貯めて買った物で、父親も息子の結婚を認めているという。


 その場で婚約が決まったわけではないが、両家は正式に話し合いを始めることになった。


 翌日、アンナは市場でレオンを見つけると、銀貨1枚を差し出した。


「これ、父さんから」


「銀貨1枚も?」


「結婚するかどうかはこれからだけど、あなたが言った通りになったからって」


「それなら、ありがたくもらうよ」


 レオンが銀貨を受け取ると、視界に文字が現れた。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【異性魅了Ⅰ】を獲得しました》

《血縁者を除く異性から好意を持たれやすくなります》


 レオンは最後の1行を読み返した。


「……何だ、これ」


「どうしたの?」


「いや、何でもない」


 剣術や弓術なら、士族として役に立つことはすぐに分かる。乗馬や地形把握も仕事で使える。しかし、異性から好かれやすくなる能力を何に使えばよいのか、レオンには見当がつかなかった。


 表示された説明からすると、相手を思い通りに操るような力ではなく、以前より好印象を持たれやすくなる程度らしい。


「これも士族に必要な能力なのか……」


 もちろん、答えは返ってこなかった。


 ところが、その日のうちに効果らしいものが現れた。


 果物を売る若い娘から梨を買うと、娘は同じ値段の中から少し大きな実を選んで渡してくれた。


「こっちの方が甘いと思うよ」


「ありがとう」


 レオンが受け取ると、娘はうれしそうに笑った。


 パン屋でも、店を手伝っている娘がレオンを見るなり声を掛けてきた。


「今日は白パンがまだ残ってるよ」


「それなら2つもらう」


「こっちの方が焼き色がいいから、レオンにはこれをあげる」


 市場を歩いていても、同じ年ごろの娘たちから以前より視線を向けられている気がする。


 本当に【異性魅了Ⅰ】の効果なのかもしれなかった。


 しかし、レオンが戸惑ったのは周囲の女性の反応だけではない。


 前世では48年間、女性として生きてきた。異世界へ来たばかりのころは、16歳前後の少女を見ても、自分より30歳以上年下の子供にしか感じられなかった。


 ところが最近は、その感覚が少しずつ変わっている。


 パン屋の娘が笑った時、レオンは素直にかわいいと思った。


 相手を自分と同年代の少女として意識していることに気付き、【異性魅了Ⅰ】を得たこと以上に驚いた。


「俺の方も、だいぶ変わってきたんだな」


 その日の夕食では、リナが兄の買ってきた梨を食べながら口を開いた。


「兄さん、今日も女の人に話しかけられてたね」


「見てたのか?」


「市場で母さんと買い物してたから」


 エルザも笑った。


「最近、若い娘さんがレオンに声を掛けることが増えたわね」


「たまたまだよ」


 ゲオルグが酒の入った杯を卓へ置いた。


「妙なことをして恨みを買うなよ」


「何もしてないって」


「女のことで揉めると面倒だからな」


 その言葉だけは、前世の経験からもよく分かっていた。


「それは知ってる」


 ゲオルグが怪訝な顔をした。


「お前の歳で、どうしてそんなに実感がこもるんだ?」


「父さんの気のせいだよ」


 レオンは梨を食べながら話を終わらせた。


 異性から好かれやすくなる力を得ても、それを利用して次々に女を口説くつもりはない。前世で夫の不倫によって苦しんだ記憶は、今もはっきり残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。