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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

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第5話(中編)――「公爵の試し」

 7月半ば、グランツ公爵一行はハルベル伯爵領の軍備や道路、農地を順番に視察していた。


 レオンは公爵が到着してから数日間、城へ呼ばれることもなく、市場で占いをしたり家で武器の稽古をしたりして過ごしていた。


 公爵夫妻を見た時に覚えた違和感についても考えてみたが、答えは出なかった。


 自分自身が別人の身体で異世界にいるのだから、前世で知っていた誰かに似た仕草をする人間がいても、それだけなら偶然で済ませることもできる。


 昼過ぎ、伯爵家から使いが来た。


「レオン・ローデン殿。グランツ公爵閣下がお呼びです」


「俺に直接ですか?」


「占いについてお聞きになりたいそうです」


 話を聞いたエルザは、息子より先に服装を確認した。


「着替えた方がいいわね」


「今日は市場へ行っただけだから、そんなに汚れてないよ」


「公爵様の前へ出るのでしょう?」


「そうだけど」


「それなら着替えなさい」


 レオンは反論しても無駄だと分かり、母の言う通りにした。


 城へ着くと、これまで使っていた管理棟ではなく、館の一室へ案内された。


 室内にはハルベル伯爵とアルベルト公爵が座り、後ろには数人の家臣が控えている。


 レオンは【礼法Ⅰ】で身に付いた作法に従い、立ち位置を確かめて礼をした。


「レオン・ローデンです。お呼びと伺いました」


 アルベルトは少年を見たあと、ハルベル伯爵へ顔を向けた。


「この少年が例の占い師か」


「ゲオルグ・ローデンの長男でございます。まだ16歳ですが、これまで何度も伯爵家の役に立っております」


「16歳か」


 アルベルトは改めてレオンを見た。


「天気だけではなく、馬を選び、相場の動きまで当てると聞いた。どんなことでも分かるのか?」


「分からないことの方が多いと思います。占っても何も見えない時がありますから」


「何も見えなければ、どうする?」


「分からないと答えます」


 アルベルトの口元が緩んだ。


「ずいぶん正直な占い師だな」


「分からないのに答えて外したら、次から仕事をもらえなくなります」


「なるほど。商売としても、その方が長続きするわけか」


「俺もそう思っています」


 答えたあとで、さすがに少し砕けすぎたかとレオンは思った。


 しかしアルベルトは不快そうな顔をせず、面白そうに笑った。


 その笑い方を見た時、レオンはまた同じ感覚を覚えた。


 相手の返事を聞いたあと、わずかに鼻から息を抜くように笑う。その癖を、前世で何度も見たことがある気がする。


 アルベルトは卓上の書類を指した。


「明日は伯爵家の兵を視察する。弓兵、槍兵、騎兵の訓練を見る予定だ」


「はい」


「そこでお前の占いを試したい。明日の訓練で、大きな事故が起きないか見てもらえるか?」


 ハルベル伯爵も続けた。


「訓練とはいえ、兵に余計な怪我をさせる必要はない。何も見えないのであれば、そのまま答えてくれてよい」


「分かりました」


 レオンは翌日の練兵場を意識した。


 兵が隊列を組み、掛け声に合わせて槍を構える姿が見える。騎兵も馬を走らせ、弓兵は的へ向けて矢を射ていた。


 しばらく見ていると、槍兵が武器を置く場所だけがはっきりしてきた。


 何十本もの槍を立てる木製の棚が傾き、やがて崩れる。槍が一斉に倒れ、近くにいた兵の肩や頭へ落ちていた。


 原因を探ると、棚の右側を固定している部分が浮かんだ。


「槍兵が使う武器置き場を調べてください」


 アルベルトが確認した。


「槍そのものではないのだな?」


「はい。槍を立てている棚の右側です。そこが外れて、槍が兵の方へ倒れます」


 ハルベル伯爵はすぐ家臣に確認を命じた。


 しばらくすると、練兵場へ向かった兵が戻ってきた。


「槍棚の右側を留めている木栓に割れがありました。表からは分かりませんが、槍を多く立てれば抜ける可能性があります」


 アルベルトは椅子に座ったままレオンを見た。


「本当に見えるのだな」


「俺にも、なぜ見えるのかは分かりません」


「その力を使って市場でも金を稼いでいると聞いた」


「頼まれたことを占って、当たった時に礼をもらうくらいです」


「外すこともあるのか?」


「何も見えない時は仕事を受けません。今のところ、はっきり見えたものは当たっています」


 アルベルトはまた、あの笑い方をした。


「それなら確かに外しにくいな」


「無理に当てたふりをするよりは、その方がいいですから」


 ハルベル伯爵も笑った。


 その直後、レオンの視界に文字が現れた。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【槍術Ⅰ】を獲得しました》


 槍の扱い方が、知識ではなく感覚として分かった。


 槍先が届く距離、柄を持つ位置、踏み込む時の足の運び方まで分かった。実際に槍を持った経験はほとんどないが、今なら基本的な動きはできそうだった。


 レオンが一瞬黙ったため、アルベルトが尋ねた。


「まだ何か見えたのか?」


「いえ。占いとは別のことです」


 レオンはそれ以上説明しなかった。


 アルベルトも追及しなかったが、そこで部屋の扉が開いた。


 入ってきたのはセシリア公爵夫人だった。


「こちらにいらしたのですね」


「明日の兵の訓練について話していた」


 アルベルトが答えると、セシリアはレオンへ目を向けた。


「その方が、伯爵様から聞いていた占い師なの?」


「そうだ。今も事故を1つ防いだ」


 セシリアはレオンの前まで来た。


「ずいぶんお若いのね」


「16歳です」


「16歳……」


 夫人はレオンの顔を少し長く見た。


「お名前を伺っても?」


「レオン・ローデンです」


「レオン……」


 セシリアは名前を繰り返したあと、笑った。


 その瞬間、レオンの前世の記憶に1人の若い女が浮かんだ。


 10年前、自分の夫と関係を持っていた女である。


 当時25歳だったその女は、写真の中で少し首を傾けて笑っていた。


 目の前のセシリアとは顔も髪の色も違う。それでも、笑う時の仕草がよく似ている。


「どうかなさいました?」


 セシリアに尋ねられ、レオンは我に返った。


「いえ。公爵夫人とお話しするのは初めてなので、少し緊張しただけです」


 自分でも驚くほど自然に答えられた。【礼法Ⅰ】がなければ、表情や態度にもっと出ていたかもしれない。


「そう。あまり緊張しなくても大丈夫よ」


「ありがとうございます」


 レオンは礼をした。


 セシリアを前世の女と同一人物だと決めつける材料はない。


 しかしアルベルトだけでなく、その妻にも前世の記憶を刺激する癖がある。


 2人続けば、偶然だと言い切るには少し気になった。

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