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48歳バツイチ占い師、異世界の貧乏士族の倅になる ~占いを当てるほど強くなる16歳の成り上がり~  作者: ひまえび
第一章――「貧乏士族の倅」

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第5話(前編)――「公爵夫妻」

 7月上旬、ハルベル伯爵家の城では、グランツ公爵一行を迎える準備が進んでいた。


 厩舎には新しい藁と飼料が運び込まれ、城門から館へ続く道も整えられている。普段は荷車や兵が行き交う正門前には木組みの飾り門まで造られ、伯爵家の紋章を染めた布が風に揺れていた。


 公爵一行が到着するのは翌日の午後である。レオンは朝から城へ呼ばれ、人夫や大工が忙しく働く正門前で、農地の管理役と顔を合わせた。


「最後に1つ、占ってもらいたいことがある」


「明日の天気ですか?」


「天気ではない。公爵閣下をお迎えする際に、何か問題が起きないか見てほしい。馬が暴れる程度でも、こちらにとっては十分な失態になる」


「何が起きるか分からない状態で占うんですね」


「難しければ、何も見えなかったと言ってくれて構わん。気になるものが見えた時だけ教えてくれ」


「分かりました。やってみます」


 レオンは正門の前に立ち、翌日の公爵一行の到着を意識した。


 門をくぐる馬車、その両側に並ぶ伯爵家の家臣や兵、風に揺れる旗が頭の中へ浮かんだ。馬車はそのまま館へ向かい、出迎えの者たちも頭を下げている。


 その途中で、正門前の景色が急に変わった。


 太い木材が斜めに倒れ、人の並んでいる側へ横木が落ちてくる。馬車ではない。数日前に造られた飾り門だった。


 右側の支柱が途中で折れ、上部を支えていた横木が倒れ込んでいた。


 レオンは目を開け、目の前に立つ飾り門を見上げた。


「この飾り門を調べた方がいいです」


 管理役も上を見た。


「何か見えたのか?」


「右側の支柱が折れて、横木が人の方へ倒れます。明日まで、このままにしない方がいいと思います」


「今朝も大工が点検したはずだが、それでも危ないのだな?」


「俺には倒れるところが見えました。調べて何もなければ、それで済みます」


「分かった。すぐ確認させよう」


 管理役は近くにいた大工を呼び、レオンが示した支柱を詳しく調べるよう命じた。


 表面を見ただけでは異常はなかった。


 ところが横木との接合部を外すと、内側の一部が黒く変色していた。木が腐り、表面からは分からないところまで弱くなっている。


 大工は腐った部分を刃物で削りながら顔をしかめた。


「雨水が入り込んでいたようです。今日くらいの風なら持つでしょうが、強く吹けば危なかったですよ」


「明日はこの下を大勢の人間と馬車が通る」


 管理役は外された支柱を確かめてから、レオンへ顔を向けた。


「先に見つかって助かった」


 その言葉を聞いたところで、視界に文字が現れた。


《占術が的中しました》

《天命が1つ満たされました》

《身体適応が進みます》

《能力【危険察知Ⅰ】を獲得しました》


 文字が消れると、周囲の見え方が少し変わった。


 大工が肩に担いでいる材木の先、人夫の足元に転がる石、近くを通る馬の耳や脚の動きに、以前より早く目が向く。危険な未来そのものが見えるわけではないが、事故につながりそうなものを自然に拾えるようになっていた。


「これなら戦う時にも使えそうだな」


 レオンがつぶやくと、管理役が振り返った。


「何か言ったか?」


「いえ。こちらの話です」


 ◇ ◇ ◇


 翌日の午後、正門前にはハルベル伯爵家の家臣や兵が並んだ。


 レオンもゲオルグとともに列へ加わり、公爵一行の到着を待っていた。


 やがて城下から馬蹄の音が聞こえ始め、先頭を走る騎兵が正門へ姿を現した。


 その後ろから何台もの馬車が続く。


 グランツ公爵一行は、レオンが想像していた以上の人数だった。騎兵が前後を固め、その間に公爵夫妻や家臣を乗せた馬車が進み、さらに従者と荷車が続いている。


 伯爵家が厩舎や干し草の確保に追われた理由も、実際に見ればよく分かった。


 先頭の馬車が館の前で止まった。


 最初に降りてきたのは、30歳前後に見える男だった。濃い茶色の髪を整え、仕立てのよい濃紺の上着を身に着けている。大柄ではないが姿勢がよく、周囲の人間が一斉に頭を下げることにも慣れている。


 アルベルト・フォン・グランツ公爵である。


 ハルベル伯爵が自ら前へ進み、礼をした。


「遠路ようこそお越しくださいました」


「世話になる、ハルベル伯爵」


 レオンも父から教えられた通りに頭を下げた。


 その時、公爵の声が耳に入り、胸の奥に引っ掛かるものを感じた。


 聞き覚えのある声ではない。顔にも見覚えはない。


 それでも、言葉を区切る間や相手を見る時の表情に、どこか覚えがあった。


 続いて馬車から若い女が降りてきた。


 20歳を少し過ぎたほどに見える。淡い金髪をまとめ、深い緑色の衣装を身に着けていた。


 ハルベル伯爵夫人が迎えると、女は笑顔で礼を返した。


「お招きいただき、ありがとうございます」


 セシリア・フォン・グランツ公爵夫人である。


 レオンは夫人の顔にも覚えはなかった。


 ところがセシリアが笑いながらわずかに首を傾けた瞬間、前世の記憶の奥から嫌な感覚が浮かび上がった。


 誰だったのかまでは思い出せない。


 ただ、その仕草を以前にも見たことがあるような気がした。


「レオン」


 隣のゲオルグが声を掛けてきた。


「どうした?」


「いや、何でもない」


「公爵閣下と御夫人をじろじろ見るな」


「そんなに見てないよ」


「見ていたから言っている」


 レオンは視線を下げた。


 公爵夫妻はハルベル伯爵夫妻とともに館へ入り、やがて姿が見えなくなった。


 それでも先ほど感じたものは消えなかった。


 レオンには、あの2人と会った記憶などない。


 そのはずなのに、まったく知らない相手を初めて見た時とは違う感覚が残っていた。

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