【7話】僕は瑞樹が好きだけどそれってどういう好き?
放課後、部室のドアを開けると、ちょうど瑞樹が出てくる所だった。
「今、退部届け出して来た。悠人は? どーすんの、決まった?」
「……もう少し、続けていい?」
「俺に聞くなよ。続けたいなら頑張ればいいし」
ほら、まただ。瑞樹は、僕がどうしようがどうでもいいんだ。
「わかった。続ける」
バイバイと手を振って、瑞樹を見送った。
いいよ。瑞樹がいなくたって友達出来たし、木原先輩だっているし。
「悠人?」
木原先輩が部室から顔をのぞかせた。
「長瀬、やめるって。コレどうしよう。預かっちゃったけど、顧問に出していいかな」
先輩は、瑞樹の退部届けをひらひらさせた。
「いいんじゃないですか? 瑞樹が辞めたいって言ってるんだし」
「あれ、もしかしてまたケンカ?」
僕の言い方が素っ気なかったからか、先輩が心配そうに僕を見た。
僕は、曖昧に笑ってからロッカーを開き、ジャージに着替える。
「あのさあ、悠人」
先輩が僕の背後から聞いた。
「長瀬のどこがいいんだよ。見掛けだけじゃん、あいつ。口は悪いし年上に対する礼儀もなってない」
その通りかもしれないけど、他人に瑞樹の悪口を言われると頭に来るな。
「好きなんだろ? どこが好き?」
「……どこが好きとか、そういうのじゃない。瑞樹のどこか一部分が好きなんじゃなくて」
自分でさえ自分の気持ちが良く分かってないのに、僕何言ってるんだ?
「僕、瑞樹の全部が好き。瑞樹が瑞樹だから好きなんだ。友達とか、それ以上の感情とか、良く分からないけど一緒にいたい。そばにいたい。ずっと僕だけを見てて欲しい」
言ってしまって、あれ? と思った。
「ふーん。そんなに好きなんだ」
先輩は驚くわけでもなくうなずいた。
もしかして呆れて言葉が思いつかない?
「長瀬もなんじゃない? あいつも悠人のことが好きだろ」
「瑞樹は僕を求めてくれるし、大事にもしてくれるけど、それは親友としての僕であって、僕が思っているような、僕と同じ意味での好きなんかじゃないんです」
自分の言葉なのに、ズキンと胸に刺さっちゃった。
なんか僕、変だ。
週末、約束どおり瑞樹の家に泊まりに行った。
晩御飯は焼肉で、またも長瀬親子の肉取りバトルを前に、見ているだけでおなかが一杯になった。
いつものように入浴を済ませ、瑞樹の部屋に入ると、瑞樹が僕をベッドに入れる。
「どう? 悠人、部活で苛められたりしてねーか?」
心配そうに聞きながら瑞樹が隣に潜り込んで来る。
「大丈夫だよ。うまくやってるつもり」
部活は大丈夫だけど、僕の心臓がヤバイ。
今まで、こんなことにならなかったのに、ドキドキがひどいんだ。
「そうか。楽しい?」
瑞樹はいつもと変わらず、じっと顔を覗き込んだりする。
「瑞樹が一緒だと、もっと楽しいのにな」
「悠人…」
「瑞樹、部活やめる時、僕に好きにしろって言っただろ?」
「言ったけど?」
「僕……僕の事なんかどうでもよくなったって、突き放された気がしたんだ。いつもなら、おまえもやめろよって言うのに、瑞樹……」
「違うんだ悠人。俺は悠人の意思を尊重しようと思っただけだ。いつも強引に俺の好きに悠人を振り回して、悪いよなーって反省してさ、そんであんな言い方になったけど。悠人がそんな悲しいって思ってたなんて知らなかった。ごめん」
突き放されたんじゃなかったって事?
瑞樹は僕の意思を尊重してくれただけだった?
「不安だった?」
瑞樹はものすごく心配そうに、僕を見てくれる。そうだよね、突き放されたなんて思う方がバカだ。瑞樹はこんなにちゃんと僕の事を考えてくれていた。
「もう平気。今日の瑞樹、今までと同じに優しくしてくれる」
瑞樹は何も変わらない。
いつもと同じだ。
今までと同じように僕を大事にしてくれる。
なのに僕は……。
「安心してろよ、悠人。ずっと変わらずおまえが好きだよっ」
瑞樹は僕の頭を撫で回すとすぐ、ふざけ半分みたいに僕の体をくすぐってきた。
「ちょっ……やだよ、くすぐったっ……」
笑いながら、泣きそうになった。
好きだよ、なんて瑞樹に言われたけれど、軽すぎる。
瑞樹の「好き」と僕の「好き」の意味はきっと別のものだ。
だけど今ならどさくさに紛れて僕も言える。
「好き。大好き…みず……」
鼻の奥がつんとしてきて、言葉が続かなかった。
「な…いてんのか、悠人」
無理やり瑞樹に顔を覗き込まれる。
「どうしたんだよ。どうして泣くんだ? 俺、なにか嫌なことしたか? 何か気に障ったんなら。……ああ、体、くすぐったの嫌だった?」
「違うよ。瑞樹は悪くない! 悪いのは僕の……僕の方」
そういう意味で、僕は瑞樹が?
「ちょっと待ってろ」
瑞樹は暖かいココアを作って持ってきてくれた。
コップに一緒に手を添えて、飲ませてくれる。
優しい優しい瑞樹。
……好きになって……ごめんね。
「落ち着いたか?」
瑞樹の問いかけに、コクンとうなずいた。
「じゃあ聞くけど。さっき……俺の事、好きって言ったよな」
瑞樹が窺うように、僕を見た。あんな風に泣いてしまって、好きなんて言ったんだ。
軽く流してはくれないよね。
「それってさ、キスしたいくらいの好き、なわけ?」
「えっ!」
びっくりして言葉が続かない。
「瑞樹、それは……」
どうしよう。どうなんだろう?
「僕は……」
上半身を起こして、上から瑞樹を見下ろす格好になる。
「ボ……僕はみ、み……」
だめだ。声が震える。
言葉が喉で詰まったようで、出てきてくれない。
「何だよ悠人。そんな目で見ると襲うぞ」
「おそ……」
次の瞬間、くるんと体が反転して、すごい勢いで押し倒された。




