【6話】やっと仲直り出来たんだけどまた突き放されたみたいだ
「仲直り……してくれるの?」
「しよう。俺だって悠人がいねーとつまんねーし」
やっと瑞樹が笑ってくれた。
「明日からまた、一緒に登校しよう。一緒に昼飯食って、一緒に帰ろうな」
「うんっ」
勢い良くうなずいた。
「あ、でも……瑞樹、葵ちゃんと昼ごはん、食ってるんだろ?」
「は? 葵?」
「付き合ってるんだろ。葵ちゃんから聞いたよ」
「なんだそれは…付き合ってねーよ。何だあの女、勝手なこと悠人に言ってんじゃねーよ」
訳わかんねーって、瑞樹は憤然としている。
「だけど、葵ちゃんとデートしたんだろ?」
「……あー、あれは……。悠人、言い訳させて?」
握られたままの手を瑞樹に引っ張られ、僕は瑞樹の隣に座らせられた。
「悠人に裏切られたと思って、ムカついてた時に、あの女が自分で金出すから、一緒に遊びに行ってくれって言われて。ま、いいかって思って行ったのはホント」
「……葵ちゃん、スマホ見せてくれたよ。瑞樹、楽しそうに笑ってた」
「ああ。観覧車に乗った時に、くすぐられて…。言い訳ばかりだけどさ、悠人。楽しくて笑ったんじゃない。あの女とは何もない。指一本、触れてない」
信じて? と瑞樹は懇願するように、僕を見つめた。
別に、女の子と何しようが、僕が文句を言うことじゃないけど、でも瑞樹が何もないって言ってくれた事で、ホッとしてるのも事実なんだ。
「信じるよ、瑞樹」
そう言ったら瑞樹も、ホッとしたように胸を撫で下ろした。
「悠人こそ、あいつに何もされてねーよな?」
「…されてない」
襲われそうにはなったけど、未遂だもん。ちょっと唇は触れたけど……。
ちょっとだけ後ろめたくなった。
「今、ちょっと間があった。ホントは何かあったんだろ」
「そ、そう言う瑞樹こそっ、葵ちゃんと」
「俺の意思では疾しいことは何っっもしてねー絶対!」
思いっきり、きっぱり、瑞樹が否定する。
瑞樹が言うように、僕だって僕の意思では何もしていない。
だから、本当は瑞樹と葵の間に何かがあったとしても、それは事故みたいなものだって思えばいい。
そこまで考えたとき、僕の独占欲の強さってかなりだよなーって我ながら驚いた。
「瑞樹、僕ね」
瑞樹としっかり目を合わせる。
「ずっと瑞樹といれるって思ってたのに…葵ちゃんに、僕の場所…取られたって思って悲しくて……」
瑞樹の目が、僕をまっすぐ見つめてくれる。
「瑞樹も、満更じゃなさそうにも見えてつらくて……」
男の僕でさえ、うっとりするほど見惚れる。
「ごめんな、悠人。つらい思いさせた。けど、俺だって、悠人と同じくらいつらかった」
「ごめんね、瑞樹。誤解が解けて、ホントに良かった」
「俺も」
そう言って笑った瑞樹の笑顔を、これからも僕だけに向けていて欲しい。
「悠人、今日泊まって行けよ。一緒に寝ようよ」
「けど、明日は学校あるし、制服も鞄も持ってきてないよ」
「じゃあ週末。絶対泊まるって約束しよう」
約束してから瑞樹は、僕を自転車の後ろに乗せて家まで送ってくれた。
門の前に自転車を止めると、瑞樹は僕と向かい合い、手を伸ばしてきた。
瑞樹の手のひらが、僕の頬に触れる。
瑞樹を見上げると、驚くほどまっすぐに見られていてちょっとドキッとした。
「瑞樹?」
僕が呼ぶと、瑞樹は「あぁ」と小さく言って、頬に当てていた手を、ポンッと僕の頭に乗せて軽く叩いた。
「今日、悠人がLINEくれなかったら、悠人が追いかけてくれなかったらこうしてなかったんだなーって思って、しみじみしちゃった」
「瑞樹だって、来てくれたじゃんか」
「ん…まあそうだけど、やっぱ、悠人のおかげだよ」
おかげって言葉にちょっと照れる。褒められたみたいで、くすぐったい。
「じゃあ、また明日な」
瑞樹が自転車にまたがった。
「うん。明日からもずっと、友達だよ」
「ああ、友達……だな」
じゃあなって、手を振って瑞樹は帰って行った。
瑞樹の背中が見えなくなるまで見送りながら、何故だか泣きたくなった。
それと同時に、頬に残る瑞樹の手のひらの感触に、何故だか胸が痛くなった。
瑞樹と仲直りしたことは、すぐに木原先輩の知るところになった。
「僕さぁ、罪悪感でいっぱいだったから、仲直りしてホッとしたよ」
先輩は、瑞樹にもごめんなって謝ってくれた。
「二度と悠人に変なことすんなよっ」
「ハイハイ。じゃあ仲良くね」
先輩が僕たちの前からいなくなると、瑞樹はムカツクと言った。
「あいつ、ふざけてる」
「え、どこが?」
「ハイハイって言っただろ? ハイは一回でいいんだよっ」
「いいじゃん。謝ってくれたんだからさ」
「えー、そうか?」
瑞樹はまだ口をとがらせている。
「やっぱ、テニス部やめよう、悠人」
「ええっ、やめるの?」
もう何も問題なさそうなのに。
「あいつもあの女も、二年のやつらも、ヤなんだもん」
あいつって木原先輩? あの女は葵のことだよね。
「でも瑞樹、テニスが好きなんだろ?」
高校にテニス部があると知ると、張り切って入部届けを出してたよな。
「テニスは学校じゃなくてもできる」
「そりゃそうだけど……」
「悠人は続けたいのか?」
僕はラケットでボールを打ってみたいな、と思っていた。
早く打てるように練習して上達すれば、きっともっとテニスが楽しくなるだろうなって、思っていたんだ。
「放課後まで考えとけよな」
朝のホームルームの始まりを告げるチャイムに動かされ、瑞樹は行ってしまった。
もともと瑞樹に誘われて入ったテニス部だ。
瑞樹がやめるって言うなら一緒にやめてもいいかなあ。
だけど、いつだって瑞樹に言われるままに流されて来たような気はしてたんだ。
それで嫌だとか別に思いもしなかった。
今は?
瑞樹の選択はいつも正しいと思っていたからこそ、従うのに戸惑いも迷いもなかった。
だけど、今の瑞樹のやめたい理由はあまり納得出来るものじゃない。
嫌だからやめるなんて瑞樹らしくない。
昼休み、昨日約束したとおり、僕は屋上に上がった。
いつも瑞樹が先に来ている。
それは僕がトロいんじゃなくて、瑞樹の教室がある東棟の方が屋上へ行く階段に近いのが理由だ。
「あ……」
瑞樹のそばに葵がいるのに気付いてしまった。
葵は僕と同じクラスなのに、来るのが早かったんだな。
やっぱり僕がトロいのかな。
しばらく躊躇して、二人の様子を遠くから見ていた。
何だか言い争いをしているように見えて、近づけない雰囲気だ。
「あ、悠人!」
瑞樹が僕に気付いて、「来いよ!」と呼んだその瞬間、葵が瑞樹の頬を叩いた。
僕は驚いて走り出していた。
と、同時に葵がこっちに向かって来る。
「バカッ!」
すれ違いざま、葵が僕のことを突き飛ばして、屋上の出入り口から出て行った。
「大丈夫か悠人」
「瑞樹こそ」
「僕はいいんだよ。当事者だから。くそっあの女、悠人にまで当たりやがって許せねー」
「葵ちゃん、泣いてたよ。良かったの?」
「いーのいーの。勝手に怒って泣いたんだ。勝手にその気になられて迷惑してんのはこっちの方だ」
瑞樹のことだから、葵にキツイ言い方したんじゃないだろうか。
「瑞樹、葵ちゃんに何言ったの?」
「悠人が言ったんだろ、自分の場所、取られたみたいって。女に取られて悲しかったんだろ? だから今日から悠人と一緒にいるって、言っただけじゃん」
悪いのかよ! と瑞樹が声を荒げた。
僕のためってとこは嬉しいけど、そのために女の子を泣かせて平気なの?
「ごめん。そんな顔すんな、悠人」
瑞樹が手を伸ばし、僕の手を引っ張った。
「座れよ。そんで早く食おうぜ。昼休み、終わっちまう」
瑞樹は気まずそうに、僕から目をそらしたまま弁当箱を開く。
僕も瑞樹の隣に座り、弁当を食べた。
「やっぱ、部活やめよっかな。なんか嫌になった」
瑞樹は、ハーとため息をついて、僕をチラリと横目で見た。
「悠人、続けたいならいいよ。俺はやめる。俺に合わせてやめなくたっていいよ」
そう言われた瞬間、瑞樹に、『勝手にすれば?』 って言われているようで悲しくなった。
瑞樹に、ポンッと突き放されたようで……。
寂しくなったんだ。




