【4話】瑞樹の隣に女の子がいるから僕の居場所がなくなった
「嫌だぁぁ!」
可能な限り暴れまくった。
手が先輩の頬に、顎に、当たる。
怖くて怖くて、涙が勝手にボロボロこぼれる。
冗談じゃない、こんなこと。
と思った瞬間、ふっと体が軽くなり、目を開けると、先輩が傍らに座って頭を抱えていた。
「悪かったよ。もうなにもしない」
泣かせるつもりはなかった、と先輩は言った。
「長瀬が入部してくるまで、僕が女の子の人気を独占していたのに、あいつが全部持って行っちまった。その上、一年のくせにレギュラーまで取って、ムカツクって、二年のやつらの前でつい、言ってしまった。あんな一年、辞めさせてーとかも言ったよ」
先輩は、ひとつ小さなため息をついた。
「まあ、やったのはあいつらだし、僕はやれとは一言も言ってねーし、僕の知ったことじゃねーって、知らんふりしてたんだけど……」
先輩は、僕も手を出してしまったね、と肩をすくめた。
「先輩も瑞樹をいじめたの?」
「僕が手を出したのは、おまえにだよ、悠人」
確かに出された。けどこれって、いじめ?
先輩が僕に手を出した事と、二年の先輩たちの嫌がらせは、全く別のものだった。
話をまとめるとこう。
瑞樹は誰に対しても素っ気ないのに、僕には笑いかけてる。
それを見て先輩は、瑞樹が僕を大事に思っていることに気がついた。
どうしてだろうと、僕を見ているうちに、僕のことが気に入っちゃったらしい。
好きになるってそんな簡単なことなの?
話がしたくて瑞樹の家まで行ってみたけれど、ほかの友達と約束して、出かけたらしい。
瑞樹のお母さんは、僕以外の友達と瑞樹が出かけるなんて初めてのことでびっくりしてるって言ったけど、僕だってびっくりだ。
瑞樹が泊まりに来いって言ったくせに、約束はキャンセルにされてしまったようだ。
がっかりして僕は家に帰った。
誤解を解くのにやっぱりLINEじゃ伝わらない。
電話も途中で切られたらアウトだ。
直接会いたかった。
どうしても直接会って誤解を解きたかった。
元はといえば、僕のスマホを使って先輩が、
『今日から先輩とお昼ご飯を食べる』
みたいなことを、勝手に瑞樹に送ったことで、瑞樹が僕を疑ったみたい。
誤解さえ解ければ元通りなんだと思うけど。
果たして僕、うまく説明できるだろうか。
だけどせっかくの土、日も瑞樹はつかまらなかったんだ。
そして月曜日、葵から聞かされた。
「瑞樹くんとデートしちゃった」
葵は「ほら見て」と無理やりスマホを僕に見せた。
そこに写っていたのは、瑞樹の笑顔。
葵とのツーショット。
「これは昨日、遊園地に行った時に撮ったの」
女はうるせーって言ってたのに。
葵に興味ないって言ってたのに。
女と遊ぶより僕と遊ぶほうが楽しいって……。
「和泉くん、恋人が出来たんでしょ? だから瑞樹くん、暇になったからいいよって言ってくれたんだー。金曜の夜と土曜、日曜って会ってくれたんだよ」
「……付き合ったの?」
「付き合ったよ」
葵は可愛い。
男の僕と遊ぶより、可愛い女の子の方が瑞樹だっていいに決まってる。
今までは僕がくっついていたから女に行けなかっただけで、本当は女の子と遊びたかったんだ。
「そっか。良かったじゃん」
ハハハ……と笑って僕はトイレに走った。
良かったじゃんか、彼女が出来て。
と思うのに、すごいショックに陥ってる。
嫌だけど、嫌だって言うのは僕のわがままだ。
瑞樹の幸せを、親友の僕が喜んでやらなくてどうする。
「親友? まだ親友なのかな」
ぽつりとつぶやくと、ぶわぁっと涙があふれた。
もしかしたらもう、瑞樹は僕のこと友達とも思ってないかもしれない。
連絡が取れないし、会ってもくれない。
それがいい証拠じゃないか。
誤解さえ解ければ、元通りになると思っていた。だけど、誤解が解けてももう元通りにはなれない。
瑞樹は葵と付き合って、もう僕だけの瑞樹じゃなくなった。
テニス部の試合の日になり、僕はみんなの応援に行った。
あれから瑞樹の隣にはいつも葵がいる。
瑞樹の隣にはもう、僕の居場所はなくなってしまった。
LINEも電話もしづらくなって、あれから一度もしていない。
観覧席から、女の子たちの黄色い声が聞こえてハッと我に返った。
見ると、コートに瑞樹の姿があった。
すごい声援だ。
コートの中の瑞樹は、いつも通りのクールな表情。
こんなすごい声援なのに、まるで聞こえていないかのように無関心、無反応だ。
試合の相手は二年生だ。
体格は瑞樹より、ひと回りは大きい。
やっぱり綺麗だよな、瑞樹。
あんなに走り回っているのに、全然余裕の表情で、そして優雅で華麗で……。
「キャァァァー!」
ひときわ大きな歓声があがり、見ると瑞樹がラケットを持った右手首を押さえて立ちすくんでいる。
「瑞樹くん、どうしたのかな」
横にいた葵が不安そうに僕に聞いた。
「手首を、痛めたのかも」
僕も葵も瑞樹に駆け寄ることは出来ない。
観覧席の金網越しに、心配するしかない。
瑞樹はその後、手首をかばってか、ラケットが思うように振れなくなり、残念ながら負けてしまった。
心配していた瑞樹の手首は、相手のボールが直接当たったための打撲だと聞いた。
痛みがひどいのか、瑞樹はずっと顔がつらそうだった。
そばには葵がついていたから僕は近づけなかった。
瑞樹も僕の方なんか、一度も見てくれなかった




