【3話】僕の恋愛対象は女の子なので瑞樹の誤解なんですけど
「瑞樹、どうしたの、その顔!」
瑞樹の顔は、傷だらけになっていた。
瑞樹は、僕をチラッと見ただけですぐ目をそらし、僕を押しのけるようにして先に部室を出て行った。
瑞樹を追いかけて外に出たところで、葵につかまる。
「いろいろって瑞樹くんとケンカしたって事だった?」
相手は僕じゃない。
誰が瑞樹をあんなにしたの?
「すごい事になってるねぇ、長瀬」
「あ、先輩」
痛々しいね、と木原先輩は少し顔をしかめて、遠くの瑞樹をじっと見ている。
「先輩……じゃないですよね」
「…ったく…キミは、僕をなんだと思ってるの」
先輩はずっと僕といたんだっけ。
僕がスマホをもらいに行った時もちゃんと教室にいたし、瑞樹に危害を加える時間なんてない。
じゃあいったい誰?
部活が終わり、僕は散らばったボールを拾い集めていた。
いつもなら瑞樹も手伝ってくれるのに、今日はさっさと部室に戻っていく。
「相当怒ってるんだ、瑞樹」
ハァ…とため息をつきながら片付けていると、木原先輩が「手伝うよ」と言った。
「いいですいいです」
タマ拾いなんて雑用、部長の仕事じゃない。
「早く済ませて帰ろう。送って行くから」
別に送ってもらわなくても一人で帰れます、と言いたかったがやめた。
最後の一個を片付けて、部室に持って入ろうとしたとき、ちょうど着替えを終えた瑞樹が出てくるのに出くわした。
瑞樹は、僕と先輩を交互に見ると、あからさまにムッとした。
そして突き飛ばすようにして行ってしまう。
「いいよ、後は僕がやっとく。追いかけておいで」
先輩の好意に甘えて、僕は瑞樹を追って走った。
「瑞樹、待ってよ」
瑞樹は走ってたわけではないからすぐに追いついた。
「…なんだよ」
不機嫌ながらも一応振り向いてくれる。
「今日の昼休みの事なんだけど」
「ああ……。もういいよ」
「いいって、許してくれるってこと?」
「バーカ。勝手にすりゃいいだろって事。あいつと付き合うんだろ? 好きだったんだろ、良かったじゃん。で、俺のこと、邪魔なんだろうが」
「み…瑞樹、なに言って……」
「昼休み、悠人どこ行ってた? 誰といた? あいつといたんだろ? 電源切って何してた?」
畳み掛けられるように聞かれて、僕は動揺した。
「言えない様な事してたんだろっ」
瑞樹は怒ったまま、言い捨てて走っていこうとする。
「待って瑞樹っ……あの、その怪我どうしたの!」
僕にしては素早く腕を掴むことに成功した。
「…テニス部二年のやつらだよ。悠人を探してた時にやられたんだ。おまえとあいつの邪魔すんなって、いきなり殴りやがった。全部わかった。今までの嫌がらせもあいつらだ。悠人がいいなら俺は邪魔しない。仲良くやればいいし」
じゃあ、バイバイって瑞樹は誤解したまま、行っちゃったんだ。
誤解は早く解かなきゃいけないって思っていたけど、今は無理みたい。
瑞樹が冷静になってくれなきゃ聞いてももらえない。
昼休み、いつものように屋上に向かった。
遠くから瑞樹が見えたけれど、一人じゃなかった。
葵が自分で動いたんだって分かった。
声をかけるのがはばかられて、僕は教室に戻り、ひとりで弁当を食べた。
今日は金曜日だ。
この前瑞樹に、泊まりに来いよって言われた日。
もう家にもちゃんと言ってあるけれど、こんな状態で泊まりに行ってもいいのだろうか。
部活の後に、瑞樹と話そうと思っていたけれど、瑞樹は部活を休んでいた。
「本格的にケンカしちゃったか」
先輩が、なぐさめか冷やかしか、何かわからない言い方をするのにムカついた。
「片付け終わったら、映画でも見て帰らない?」
「僕、今日は用があるんです」
のんきに映画なんか見てる場合じゃないよ。
「じゃあ、明日は? 休みだし、どこか行こうよ。迎えに行くし」
僕は先輩と向き合った。
すでにほかの部員は部室に戻ってしまって、テニスコートには僕と先輩の二人きりだし、誰にも聞かれる心配はない。
「僕、先輩とは付き合えません。すみません」
深々と頭を下げて断った。だけど。
「悠人。堅苦しく考える必要はないんだよ。僕は悠人と仲良くしたいだけなんだ。僕と一緒にいれば、長瀬も嫌がらせをされずにすむんだ」
「先輩、二年の先輩たちがやってたこと、知ってたの?」
「昨日知ったよ。あいつら僕が悠人を気に入ってることを知っていたんだ。僕のために、悠人と仲のいい長瀬に嫌がらせをしていたことも、昨日、暴力を振るったことも白状した。ちゃんと注意はしたけど、またキミと長瀬が仲良くしていたら、隠れてやらないとも言い切れない」
そんなの脅しじゃんか。
先輩がもうするなって言えば、言うことを聞くんじゃないの?
もしかして先輩がやらせてる?
瑞樹が言ってたように先輩が首謀者なのか?
「仲良くしよう、悠人」
顎をぐいっと持ち上げられ、先輩が顔を近づけてくる。
咄嗟によけたが、先輩の唇が僕の唇をかすめた。
「おとなしく言うことを聞いてくれないか、悠人」
どんっと突き飛ばされ、僕が倒れたところに、先輩が馬乗りになる。
「何だよ、何するんだよ。うわっ……やめ…」
僕もしかして、襲われる?




