【続編4話目】瑞樹が焦ってるのはきっとバレてるから?
「あのさ、お兄ちゃん」
ドアを閉めると、優菜が僕から少し視線を外して言った。
優菜の部屋にまともに入ったのは久しぶりだ。
僕の部屋とは違って、綺麗に整理されているし、何だか甘い匂いがする。
「瑞樹くんって、女の子、ダメなんでしょ?」
「……瑞樹が、そう言ったの?」
「言ったの。瑞樹くん、女の子に興味ないんだって。お兄ちゃんと遊ぶのが一番楽しいんだって言ったよ」
がっかりしているように見えるって事は、優菜は瑞樹に興味があったって事だろう。
「好きなんだって。俺は悠人が好きなんだって、言われちゃった。そういう関係なのって聞いたら、……付き合ってるんだって」
とうとう優菜にばれてしまった。だけど、はっきり言ってくれてどこかホッとした。
「ほんとなの? それとも女の子を断る理由にされているの?」
「ほんとだよ。僕も瑞樹が好きなんだ。変だと思うかもしれないけど、付き合ってるんだ」
「……そっか。やけに仲がいいと思ってたんだ。だから、告白しても無駄だったんだね」
「告白したの?」
「したよ、中学のとき。俺は悠人と遊ぶからごめんねって言われた。ホントはお兄ちゃんたちと同じ高校に行きたかったんだよ。だけどそんなことがあったから、何だか嫌で、今の女子校を受けたの」
知らなかった。
優菜は好きで女子校に行ったんだと思っていた。
そんな経緯があったなんて、ビックリだ。
「私ね、中学のときは、まだ女の子より男同士で遊ぶほうがいのかな、まだ恋に目覚めてないのかなって思ってたんだよ。でも違ったんだね」
瑞樹は、その時にはもう、僕の事を好きだと思ってくれていたのかな。
「瑞樹くんには二度も振られちゃったから、もう瑞樹くんは諦めた。そんな時にさっきの人が現れたのよ。運命の出会いと思ったっていいじゃない?」
先輩も僕が好きなんだよって言ったら、優菜はなんて思うだろう。
恨まれないまでも変な目では見られるかもしれない。
「先輩、失恋したばっかりなんだ。チャンスかもよ」
そう言ってやったら、優菜は嬉しそうな顔をして笑った。
「優菜に、付き合ってること、言ったんだって?」
昼休みの屋上。
日なたを避けて、給水塔の陰で、弁当を食べているとき、瑞樹に言った。
「聞いたんだ? いいじゃん、ホントの事なんだし。それともまずかった? 変態扱いされちゃった?」
「意外に優菜、マジメに受け止めてくれてたよ」
「だよな、さすが悠人の妹だけあって、理解あるし、いい子だな」
瑞樹が女の子を褒めるのも珍しい。それはやっぱり僕の妹だから特別なのかな。
「悠人、食い終わったらキスしようか」
唐突な瑞樹の言葉に、、おかずを吹き出しそうになった。
「なんだよ、急に変なこと言うなよ」
一瞬の沈黙の後、瑞樹は静かに言った。
「だって、したくなったんだ。何か……わかんないけど」
何故だか瑞樹が落ち込んでしまった。
食べかけの弁当箱をじっと眺めたまま、箸が止まっている。
どうしたんだろう瑞樹。
……まさか、もしかして、先輩との事が、バレてるんじゃ……。
「は、早く食べよう瑞樹」
誤魔化すように言って、僕は残りのおかずを頬張った。
瑞樹もゆっくりだけれど、弁当を食べ終え、弁当箱を袋にしまいこんだ。
「悠人、しようよ」
「……ここじゃ、人に見られるよ」
給水塔の陰とは言え、ここからも生徒の姿が見える。
と言うことは、向こうからもこっちが見えている可能性はあるわけだ。
「じゃあ、トイレでしよう。誰にも見られないから」
行こう、と言って瑞樹は僕の手首を掴んだ。
トイレでって言うのがかなり嫌だったけれど、嫌だと言って瑞樹を怒らせるのが怖かった。
東棟三階の男子トイレに入り、鍵を閉めるとすぐに瑞樹が抱きしめて来た。
「悠人……」
心臓がバクバクと激しい音を立てる。
何か、いつもの瑞樹じゃないみたいで、ちょっと怖かった。
「あ……やだ、みず……」
制服のシャツのボタンを外されかけたとき、ちょっと抵抗した。
「嫌なの?」
「だって、汗……かいてるし」
二時間目に体育があって、そのときにたくさん汗をかいた。
夏はプールだけにしてくれればいいのに、うちの学校は夏でもサッカーやバスケを平気でやらせるんだ。
「そんなの気にすんな。悠人のだったら平気」
「ええ……」
瑞樹が良くても僕は嫌だよ。
自分でも汗臭いって思っているのに……。
けれど、嫌だって強く言えないのは、瑞樹に対して、後ろめたいことがあるせいだ。
頭の上で、昼休みの終わりのチャイムが鳴り響く。
「瑞樹……五時間目、始まる……」
僕の言葉も学校のチャイムも瑞樹には聞こえないのか、瑞樹の手は止まらない。
「やだ。ここじゃ、嫌だ」
こんなところじゃ、嫌だ。
女の子みたいに拘ってしまうけれど、トイレなんかじゃ嫌なんだ。




