第三話「なんで俺だけ」
木曜の夜、帰りに友人の村田と食事に行った。
生姜焼き定食を食べながら、村田が言った。
「お前ってさ、嘘うまいよな」
「何が」
「いや、なんか場の空気読んで、みんなが聞きたいこと言えるじゃん。俺それ全然できなくてさ。この前企画にダメ出ししたら、めちゃくちゃ気まずくなった」
アキは苦笑いした。
「それは正直すぎるだろ」
「でもお前だったらうまいこと言えるんでしょ」
「まあ……場合によるけど」
村田は感心したように頷いた。
「得だよなあ」
アキも飲んだ。得、か。そうかもしれない。大学生になってから、嘘というか、言葉の調整がうまくなった。本音と建前を使い分けて、誰も傷つけずに、自分も傷つかずに、うまくやってきた。
でも。
アキは先週のユキの部屋を思い出した。「声が一瞬遅かった」。
なんで俺、ユキの前だとできないんだ。
一番うまくやりたい相手の前で、一番ボロが出る。論理的におかしい。
好きな人には良く見せたいはずだろう、普通。
「彼女できたんだって?」
村田が聞いてきた。
「うん」
「どんな人?」
アキは少し考えた。
「なんか、鋭い人」
「美人?」
「それはまあ」
「いいじゃん」
村田はそれで満足したようだった。アキは鋭い、という言葉を選んだ自分に気づいた。
好き、と言えばよかった。
簡単な言葉なのに、なぜか村田に向かっては言えた気がしなかった。




