EP 10
戦神の凱歌(絶対無敵スパチャアイドル!)
「さぁ……ショーの始まりよッ!!」
リーザがみかん箱の上で、天に向かってマイク(の形をした枝)を掲げた。
その瞬間、彼女の細い体から、ポポロ村の森全体を震わせるほどの莫大な魔力が溢れ出した。深海の王族のみが継承する、古の広域強化魔法——【戦神の凱歌】。
本来、それは戦場を埋め尽くす万の軍勢を鼓舞するための、荘厳な調べであるはずだった。
しかし、リーザが口にしたのは、彼女がルナミス帝国の地下アイドルとして自ら(あるいは誰かに教わって)磨き上げた、最高に強欲でポップなナンバーだった。
『愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!』
『(Fu Fu!)』
『マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!』
『(Yeah!!)』
「な、なんだこの歌は……!? 身体の芯が、熱い……ッ!」
信長は驚愕した。
脇腹の裂傷から流れていた血が、リーザの歌声に呼応するように瞬時に塞がっていく。泥水で重くなっていた手足が羽のように軽くなり、視界が異常なほどクリアに澄み渡る。
それは、細胞の一つ一つが強制的に活性化され、本能のブレーキが外されていく感覚。
軍人として培ってきた「合理性」が、アイドルソングという名の「狂気」によって限界突破を強制されていた。
「……これが、海中国家の秘儀か。面白いッ!!」
ハガルもまた、その影響を隠しきれなかった。
敵であるリーザの歌声でありながら、戦士としての本能が昂ぶり、豹耳族の身体能力がかつてない次元へと引き上げられていく。
「……行くぜ、ヒョウの旦那ァッ!!」
信長が踏み込んだ。
ドォォォォンッ!!
先ほどまでの泥臭い動きとは一変、地面を爆発させて消えるような神速。
手に持った『携帯円匙』と『ナイフ』が、リーザのサビの盛り上がりに合わせて銀色の閃光を描く。
『今日も私の為に世界が動く!(まわって!まわって!)』
『全て上手くいくわ!(絶対!)』
ガガガガガガッ!!
森の巨木をバターのように切り裂きながら、二人の戦士が超高速で激突する。
ハガルの放つ鉄爪の猛攻を、信長は空中で身を捻りながらシャベルの面で弾き、そのままシャベルの縁を「剣」として振るい、ハガルの防御を強引にこじ開ける。
「ぐっ……! まるで別人のような重さと速さだ!」
ハガルが舌を巻く。
『老人と海』の不屈の執念に、リーザの『戦神の凱歌』という名の翼が授けられたのだ。今の信長は、もはや一人の兵士ではなく、戦場の神へと昇華されていた。
『愛も富も一つの物!(どっちもちょーだい!)』
『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪(Want You! Want You!)』
強欲な歌詞が森に響き渡る。
人魚姫リーザは、全身を青白い魔力の光に包まれながら、みかん箱の上で全力のステップを踏んでいた。その歌声は、ポポロ村で彼らを待つ輝夜の「月」のような優しさと、真一の作るカレーの「スパイス」のような刺激が混ざり合い、信長の魂を極限までブーストしていく。
「……これが、日本の『爪』だッ!!」
信長は空中で一回転し、リーザのハイノート(高音)に合わせて、全力の斬撃をハガルの鉄爪へと叩き込んだ。
バキィィィィンッ!!
金属が砕け散る。
ハガルの右手の鉄爪が、信長の振るったシャベルの「一撃」に耐えきれず、粉々に粉砕されたのだ。
「……がっ……あ……!」
衝撃に耐えきれず、ハガルが膝を突く。
信長はそのまま着地し、ナイフをハガルの喉元にピタリと突きつけた。
『貴方の全て(人生)を背負って生きていける(Fuuu〜!)』
『だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ』
『だから、何処までもついて来てね♡』
『(一生ついていくよー!!)』
リーザの歌が、完璧なタイミングで終わる。
(チャリーン♪)という、謎の硬貨が落ちるSEが森に木霊した。
森は、一瞬にして静寂に包まれた。
立っているのは、泥だらけのまま、だが全身から圧倒的な覇気を放つ信長。
そして地に伏し、砕けた鉄爪を見つめながら、満足げに微笑むハガル。
「……完璧な、幕引きだ。チキュウの戦士よ」
ハガルは、負けを認めるように静かに両手を上げた。
死を恐れぬ豹の心に、リーザの歌声と、信長の折れない刃が、初めて「生きることへの鮮烈な熱」を刻みつけた瞬間だった。
「……ハァ……ハァ……。お前、マジで最高のアイドルだよ、リーザ」
信長はナイフを収め、みかん箱の上でドヤ顔をしている少女に向かって、不器用なサムズアップを送った。
この瞬間、なろう系ランキング1位を確実にする「最高にカオスで熱いバトル」が、ポポロ村の伝説として刻まれたのである。




