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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 9

ステージはどこにだってある

『五円!五円!御縁!御縁!ハイ!』

『五円!五円!御縁!御縁!ハイ!』

(キラキラリーン☆)

血と泥と狂気が支配していた暗い森の奥深く。

限界を超えた二人の戦士が最後の一撃を放とうとしたまさにその瞬間、あまりにも場違いで、ポップで、脳の髄を溶かすような脳天気な歌声(と、謎の効果音)が響き渡った。

「……は?」

「……なんだ?」

信長とハガルの、極限まで張り詰めていた殺気が、風船が割れたようにフッと萎んだ。

彼らは構えを解き、ポカーンとした顔で声のした茂みの方を振り向く。

ガサガサッ、と音を立てて暗がりから飛び出してきたのは、両手でボロボロの『みかん箱』を抱えた深海の王女・リーザだった。

「ストーップ! そこまでッ! 命を懸けたアンコールにはまだ早いわよ!」

リーザは二人の間の泥濘ぬかるみにみかん箱をドン!と叩きつけると、ヒョイッとその上に飛び乗った。

鼻に五円玉は詰まっていない。普段のポンコツ具合からは想像もつかないほど、彼女の海色の瞳は真剣そのものだった。

「お、おい……お前、なんでこんなところに……! 危ねえから下がってろ!」

信長が脇腹を押さえながら怒鳴る。

「下がるわけないでしょ! アイドルはね、どんな場所だってステージにしちゃうんだから!」

数分前。

少し離れた場所から輝夜と共に決闘を見守っていたリーザは、泥水に顔を突っ込み、ボロボロになりながらも絶対に立ち上がる信長の姿を見て、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

『私は……暗闇の中で迷う人を見守り、そっと道を照らす「月」でありたいんです』

先ほど、温かいご飯を作ってくれた輝夜の言葉が脳裏に蘇る。

誰かを蹴落として輝くのではなく、誰かのために自分の光を使う。

(……私だって。私だって、みんなに元気を与えるアイドルだもん!)

ただご飯を恵んでもらうだけの存在じゃない。

タダでもらった茹で卵も、カレーも、おでんも。その温かさの分だけ、今度は私が誰かの背中を押す番だ。

そう決意したリーザは、輝夜の制止を振り切り、大事な商売道具(みかん箱)を抱えて戦場のど真ん中へと走ってきたのだ。

「……チキュウの娘か。邪魔立てするなら、容赦はせんぞ」

ハガルが、再び鉄爪を構えて低く唸る。彼の死狂いの精神は、いかなるイレギュラーが起きようとも揺るがない。

「ヒョウのおじさん! おでんの味に感動して泣いてたのに、なんでそんなに急いで死のうとするのよ!」

リーザは、みかん箱の上からハガルをビシッと指差した。

「命を捨てて誰かを守るなんて、全然美しくないわ! 泥だらけになって、這いつくばってでも生きて、またみんなで温かいご飯を食べる! それが一番のハッピーエンドでしょ!?」

リーザの叫びに、ハガルの動きがピタリと止まる。

彼女の放つ底抜けの「生への肯定」は、信長が体現していた泥臭い執念と同じベクトルを持っていた。

「……お前」

信長は、みかん箱の上に立つ少女を呆然と見上げた。

「それに特使のお兄さん! あんた、さっきから泥だらけで最高にダサいけど……すっごく、すっごくカッコいいわよ! 私のトップオタ(ファン)第一号に任命してあげる!」

リーザは満面の笑みを浮かべ、胸の前で両手をギュッと握りしめた。

「アイドルは、ファンに死なれちゃ困るの! 私の特等席スパチャで、誰にも死なせないんだから!」

リーザが大きく息を吸い込む。

深海の王族として受け継がれてきた、本来の強大な魔力が、彼女の華奢な体を中心に渦を巻き始めた。

『さあ、ショーの始まりよ! 現実シビアな戦場に、最高の魔法をかけてあげる!』

ポンコツ地下アイドルが、その身に秘めた「本当の力」を解放する。

暗い森に、彼女の純度100%の歌声が響き渡ろうとしていた。

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