表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/53

EP 10

猟犬の葛藤と、戦術兵器のウサギ

ポポロ村の境界線。

夜風が木々を揺らす中、ルナミス帝国・近衛騎士団長リカオンは、精鋭数十名を率いて漆黒の森を無音で進んでいた。

彼の目には、もはや一切の迷いがない。

情報網をズタズタにされ、経済は混乱の極み。帝国というシステムが内側から崩壊しかけている今、残された道は「力」でこの緩衝地帯を焼き払い、日本の喉元に物理的な楔を打ち込むことだけだった。

(すべては我が背に。地獄に落ちるのも、泥を被るのも、私一人で十分だ)

リカオンが短剣の柄に手をかけた、その時。

「——よせ。それ以上進めば、帰れなくなるぞ」

月明かりの下、森の獣道に一人の男が立ち塞がっていた。

出雲艦隊総司令・坂上真一。

迷彩服姿の彼は、口にくわえた『ハイライト』の煙をゆっくりと吐き出しながら、腰に提げた日本刀の鯉口をカチンと親指で切った。

「……チキュウの将軍か。どけ。我々に言葉を交わす余地はない」

リカオンの全身から、凄まじいまでの殺気が膨れ上がる。

だが、真一は紫煙の向こうで、静かに、そして極めて自然体で立っていた。構えすら無い。ただ、どこから打ち込んでも斬り返されるような、底知れぬ「静の圧力」がそこにあった。

(……この男、隙がない。ただ剣を振るうだけの兵士ではない。実戦の地獄の底で、削り出されたような合理の剣だ)

「抜かねえのか?」

真一が問いかける。

「……ッ!!」

リカオンが動いた。

瞬きすら置き去りにする帝国の神速の踏み込み。漆黒の短剣が、真一の首魁へと音もなく迫る。

しかし、真一は慌てることなく、半歩だけスッと軸足をずらした。

ギリィッ!

刃が首の皮一枚を掠める。と同時に、真一の抜刀がリカオンの鎧の腹部を浅く、しかし確実に斬り裂いた。

「チィッ!」

リカオンが後方に跳び退く。

互いに無言。一切の無駄口を叩かず、ただ最短距離で相手の命を奪うことだけを目的とした、極限まで研ぎ澄まされた合理の殺し合い。

何度打ち合おうと、真一の剣はリカオンの殺意を水のように受け流し、的確に反撃の牙を剥く。

(……一対一で抜ける相手ではない。だが、ここで時間をかけるわけにはいかない!)

リカオンは冷静に状況を判断し、背後に控える重武装の精鋭部隊に向けてハンドサインを送った。

『私はこの男を抑える。お前たちは村へ向かえ。何であれ、火を放て』

指示を受けた十数名の帝国兵が、真一を迂回してポポロ村へと向かって突撃を開始する。

真一はそれを追おうとしなかった。ただ、短くなったタバコを地面に落とし、靴の裏で踏み躙った。

「……言っただろうが。帰れなくなるぞってな」

真一の視線の先。

突撃していた帝国兵たちの頭上——夜空の彼方から、空気を切り裂くような異音が響いた。

ヒュォォォォォォォォッ!!!

「なんだ……!? 上から何かが落ちてくる!」

帝国兵の一人が空を見上げる。

それは、月を背にして落下してくる一つの「影」だった。

いや、ただ落ちてきているのではない。

ポポロ村村長・キャルルは、空中の「空気の壁」や巨木の枝を凄まじい脚力で蹴り渡り、ピンボールのように不規則に軌道を変えながら急降下してきていた。

空中で加速と攪乱を繰り返す変幻自在の軌道——【乱れ流星脚】。

「な、なんだあの動きは! 捉えられん!」

「防御陣形! 魔力障壁を最大出力で張れ!!」

帝国精鋭部隊が密集し、何層にも重なる分厚い光の盾を展開する。

だが、空中のキャルルのウサギ耳がピンと立ち、彼女の特注の靴に仕込まれた『雷竜石』が、限界突破の輝きを放った。

『あんたたちの相手は、アタシよッ!!』

キャルルは空中で一回転し、すべての運動エネルギーと1億ボルトの紫電の雷光を右足のつま先に収束させる。

【超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)】!!

マッハ1の壁を突破した衝撃波が、空気をプラズマ化させて白く発光する。

それはもはや格闘技の技ではない。

1,000メガジュール、実に277トンの衝撃を伴った、一人の少女の姿をした『戦術核』の直撃であった。

——ズドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!

轟音と共に、帝国軍の誇る魔力障壁は薄紙のように消し飛び、大地がすり鉢状に吹き飛んだ。

凄まじい衝撃波と紫色の稲妻が森を薙ぎ払い、突撃を企てていた精鋭部隊の巨漢たちが、木の葉のように空の彼方へと弾き飛ばされていく。

「……なっ、バカな……ッ!?」

剣を構えたまま、リカオンは絶望的な光景に戦慄した。

クレーターの中心。濛々と立ち込める土煙を晴らしながら、キャルルが着地する。

彼女の足元からはパチパチと紫電が奔り、その周囲数十メートルは完全に焦土と化していた。

「あーあ、村の前庭がボロボロじゃない。……修理代、高くつくわよ?」

キャルルはトンファーを肩に担ぎ、ポケットから飴玉を取り出して口に放り込んだ。

絶対的な覚悟で挑んだ帝国の猟犬の前に立ち塞がったのは、理を極めた老練な剣士と、理不尽の極みである一億ボルトのうさぎ。

力で盤面をひっくり返そうというリカオンの最後の希望は、圧倒的な「物理法則(暴力)」の前に完全に叩き潰されたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ