EP 4
無敵の現代兵器、そして残弾のリアル
強烈な排気熱を撒き散らしながら、F-35Bが護衛艦『いずも』の飛行甲板に垂直着艦を果たした。
「あー、スリープ・ワン帰還しました。マジで疲れましたよ。ワイバーン? っていうんですか、あのトカゲ。血がこびりついて洗車が大変そうっス」
ヘルメットを小脇に抱え、CIC(戦闘指揮所)に飄々とした足取りで入ってきた雪之丞を、オペレーターたちは安堵と感嘆の混じった出迎えた。
未知の生物を相手に、被弾ゼロの完全勝利。自衛隊の誇る最新鋭機の圧倒的な力は、転移という絶望に沈んでいた艦内に、確かな「希望」をもたらしたように見えた。
だが、ただ一人。
総司令の坂上真一だけは、腕を組んだままピクリとも笑っていなかった。
「蘭。今の戦闘での消耗データをメインスクリーンに出せ」
「はいはい。……ほら、出たよ。お説教タイムの開始」
蘭がチュッパチャプスを転がしながらキーボードを叩くと、CICの巨大モニターに赤い数字の羅列が映し出された。
【消費兵装】
・AIM-9X サイドワインダー:2発(残弾:機外搭載分減少)
・25mm機関砲弾:120発(残弾:残量45%)
・航空燃料(JP-8):約800ガロン消費
「……雪之丞。お前はたった数分で、何百万円分の弾と油を空にばら撒いたか分かっているか?」
真一のドスの効いた声に、CIC内の空気が一瞬で凍りつく。雪之丞は「えっ」と間の抜けた声を出した。
「いや、総司令が『敵対行動をとるなら撃ち落とせ』って言ったんじゃないスか! 俺は命令通りに——」
「ああ、お前の腕は完璧だった。あの牽制がなければ、今頃この艦はあの飛竜のブレスで甲板を焼かれていただろう」
真一は重い足取りでスクリーンに歩み寄り、その赤い数字を指差した。
「問題は、この数字が『絶対に回復しない』ということだ。日本列島の生産ライン(工場)が消滅した今、ミサイル一発、機関砲の弾一発、そして一滴の燃料すら、我々には補充する術がない」
その言葉の重みに、CICの乗組員たちが息を呑む。
「最新鋭の戦闘機も、イージス艦も、弾と油が尽きればただの巨大な鉄屑だ。その時、俺たちは何を武器にこの世界を生き抜く? 徒手空拳で飛竜と殴り合うか? 弾の撃てない軍隊なんてな、ただ飯を食うだけの『うんこ製造機』に成り下がるんだよ!」
真一の容赦ない現実の突きつけに、雪之丞もヘラヘラした笑いを消し、小さく舌打ちをした。
現代兵器は無敵だ。だが、それは背後に「国家という巨大な補給線」が存在して初めて成立する無敵だったのだ。
その沈黙を破るように、暗号化回線のスピーカーから、低くしゃがれた声が響いた。
『真一の言う通りだ。我々の暴力は有限のカードになった。だが、だからこそ最初の一枚は最も派手に切る必要があった』
永田町の妖怪、若林幹事長だ。
『空の安全は確認できた。そして、我々が「容易に手を出せない牙」を持っていることも、この世界のどこかで見ていた者たちに伝わったはずだ。……ならば次は、我々から「挨拶」に出向く番だな』
「現地勢力との接触ですね」
『そうだ。暴徒の鎮圧と配給制の敷設で、都内のパニックは一時的に抑え込んでいる。だが、1400万人の胃袋のカウントダウンは止まらん。タイムリミットは7日。それまでに、この異世界における恒久的な「食料の供給線」を見つけ出せ』
若林の特務命題。
それは、相手がファンタジー世界の住人であろうと、何が何でも食料を毟り取ってこいという冷酷な生存命令だった。
『真一。海自の足では陸の奥深くには入り込めまい。適任者はいるか?』
「……ええ。嫌な役目を押し付けるのに、うってつけの『うんこ製造機』のトップエリートが陸自に一人います」
真一は不敵に笑い、通信機を握り直した。
「陸上自衛隊・第1師団。坂上信長1尉を呼び出せ。……レンジャー部隊の出番だ」
無敵の現代兵器。
しかし、残弾という名の砂時計は、残酷に落ち続けている。
弾が尽きるのが先か。1400万人が餓死するのが先か。
生き残るための唯一の命綱は、未知なる大地に住む「友好的な現地勢力」を確保し、交渉のテーブルに着かせることのみ。
かくして、日本の命運を背負った特務部隊が、魔法と闘気の支配する未踏の森へと足を踏み入れるのだった。




