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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 11

異世界の神獣、日本の「広報担当」になる

新宿の空を覆っていた分厚い紫の雲が割れ、眩しい朝日が崩壊したビル群に差し込んだ。

「……終わったな」

「ああ。マジで、冗談みたいな夜だったぜ」

坂上信長は、硝煙と油の匂いが染み付いた『九九式短小銃』を肩に担ぎ、アスファルトの瓦礫の上にへたり込んだ。周囲では、泥だらけになった自衛隊員たちが、互いの無事を喜び合いながら配給の水を回し飲みしている。

弾薬ゼロという国家滅亡の危機は、大田区の町工場が起こした奇跡と、1400万人の「歌」、そして異世界の神獣とオタク魔王の理不尽なまでの暴力によって、完全に退けられたのだ。

その数時間後。東京・大田区。

徹夜の熱狂が過ぎ去り、静まり返るはずだった町工場の密集地帯に、なぜか高級な黒塗りのハイヤーが横付けされていた。

「ひゃーっ! さすがはチキュウの『マチコバ』! 驚きの精度ニャ!」

降り立ったのは、シルクハットを被った二足歩行の猫——ゴルド商会の商人、ニャングルである。

彼は、岩田源蔵の工場の作業台に置かれた「新品の九九式」のボルトをカチャカチャと引いては、その滑らかさに目を丸くしていた。

「おう、猫のダンナ。今回はあんたが『硝石』と『鉄』を特急で運んでくれたおかげで助かったぜ」

源蔵が、首に巻いたタオルで汗を拭いながら笑う。

「にゃはは! 商人は恩と金には敏感なのニャ。……ところで源蔵さん」

ニャングルは、スッと商人の顔つきになり、懐から『魔導通信石』と『魔力バッテリー(蓄魔石)』を取り出して作業台に置いた。

「この通信石、アナステシアじゃ『エルフの職人』しか作れない超高級品なんだけど……源蔵さんたちのその『変態的な削り出し技術』と『電子基板』の知識を使えば、リバースエンジニアリング(大量生産)できたりしないかニャ?」

源蔵の目が、キラリと光った。

「……なるほど。ファンタジー世界の魔法道具を、日本の工業力で大量生産して、異世界に逆輸出ダンピングするって寸法か」

「その通りニャ! 魔皇国を怒らせない程度に、他の国に売り捌けば……莫大な利益になるのニャ!」

源蔵は、魔導石を手に取り、様々な角度から舐め回すように観察した。

「……中に刻んである魔法陣のパターンを解析して、基板にプリントすりゃあイケるかもしれねえな。おい野郎ども! 帰って寝ようと思ったが、新しい商材のおでましだ! 日本の町工場の『本当の商魂』、異世界の連中に見せつけてやらあ!!」

「「「オオォォォォッ!!」」」

徹夜明けのオヤジたちの雄叫びが、大田区の空に響き渡る。

兵器の生産から魔導具の大量生産へ。日本の「モノづくり」は、異世界の経済バランスを根底からひっくり返すための新たなるビジネスへと舵を切った。

一方、その頃。

東京の中心にある、大手テレビ局の収録スタジオ。

『それではお呼びしましょう! 我らが日本を救った救世主! 朝倉月人くんと……聖獣ガオンさんです!!』

『キャァァァァァァァッ!!』

スタジオの観覧席から、割れんばかりの黄色い歓声が上がる。

スポットライトを浴びて登場した爽やかな笑顔のアイドル・朝倉月人。

そしてその隣には……黄金の装甲をピカピカに磨かれ、首に「初心者マーク」のフリップをぶら下げた、体長3メートルのメカライオン(※スタジオに入れるように縮小化させられたガオン)の姿があった。

『……おい。なんで俺様が、こんなピカピカ光る箱の中で、人間どもにジロジロ見られなきゃならねえんだ……』

ガオンが、顔を引き攣らせながらテレパシーで周囲にボヤく。

舞台裏では、与党幹事長の若林幸隆と、大手広告代理店のスーツの男たちが、その様子を満足げに腕を組んで見守っていた。

「若林先生、完璧ですね。ガオンのエネルギー源が『1400万人のファン心理(信仰心)』である以上、常に彼をメディアに露出させ、国民の熱狂(推し活)を浴びせ続ける必要があります」

「うむ。そういうことだ。彼は今日から、我が国の大事な『公式マスコットキャラクター』兼『防衛省特別広報担当』だ」

若林はジッポーライターを鳴らしながら、フッと笑った。

その通りである。ガオンが常に最強の神獣であり続けるためには、あの「降臨!聖獣機神ガオガオン」のコールと熱気を維持し続けなければならない。

つまり、ガオンは日本という国に縛り付けられ、半永久的に「アイドルロボット」としてグッズ展開され、テレビに出演し続けるという過酷な労働契約を結ばされたのだ。

『てめえらァ! 俺様は神獣だぞ! バラエティ番組のひな壇に座らせるんじゃねえェェッ!!』

スタジオに響き渡る毒舌神獣のボヤきと、それを「カワイイ!」ともてはやす観客の歓声。

平和(?)な日常が、異世界の神を完全に飲み込んでいた。

『……ハッ。随分と楽しそうですね、チキュウの人間ども』

はるか北方の深淵ダンジョン・天魔窟。

薄暗い玉座の間で、魔人ワイズは血塗れの口元を歪め、水晶玉に映る東京の様子を冷ややかに見つめていた。

『物理的な弾薬タマは尽きたが、「心」という厄介な代物を弾丸の代わりに撃ち出してくるとは。……予想外でした。ですが、これで明確になりましたよ』

ワイズは、道化師の仮面を被り直し、クックックと不気味な笑い声を漏らす。

『彼らの最大の武器は、銃でも大砲でもない。あの「1400万人が一つにまとまる団結力システム」そのものです』

銃弾ならば、いずれ補充されるかもしれない。

だが、「心」の力はどうだろうか。

『ならば次は、その「心」を削りに行きましょう。疑心暗鬼、食糧危機、そして内部からの裏切り。……いかに最強のバリアがあろうと、内側で殺し合いを始めれば、国など簡単に滅びるのですよ』

ワイズの背後で、新たな、そしてこれまでとは全く異なる邪悪な気配が蠢き始める。

物理的な侵略が失敗に終わった今、魔人の悪意は、人間社会の最も脆い部分——「猜疑心」へと狙いを定めていた。

だが、彼らはまだ知らない。

次に彼らが仕掛けるであろう「経済と情報の戦争」において、この1400万人の漂流国家(資本主義の権化)が、どれほどタチの悪いモンスターであるかを。


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