EP 10
聖獣機神ガオガオン、一刀両断のゴッドブレード
全長150メートルを超える、死蟲の集合体・合成死獣。
対するは、1400万人の「歌」という名の絶対的信仰心を受け、新宿の夜空に顕現した全長50メートルの巨大神像——『聖獣機神ガオガオン』。
圧倒的な質量差。だが、ガオガオンから放たれる黄金の神気は、新宿一帯を真昼のように照らし出していた。
『チキュウのポンコツ兵器ども!! 我が圧倒的な質量で、そのオモチャごとペチャンコにしてさしあげましょう!!』
天魔窟から響く魔人ワイズの絶叫と共に、合成死獣がビル群をなぎ倒しながら、強酸の滝をガオガオンに向かって吐き出した。
『——甘えんだよ虫ケラァ! 下半身(玄武)、踏ん張れ!!』
『おう! 草津の湯でツヤツヤになった俺の甲羅を舐めるな!』
ガオガオンの下半身を構成する玄武が、強烈な重力場を発生させる。
【玄武シールド】。重力の壁が空間を歪め、致死量の強酸の滝を空中で完全に弾き返した。
『左腕(青龍)、上空の羽虫どもを掃除しろ!』
『湯冷めする前に終わらせるぜ! くらえ、紅蓮の雷鳴!!』
左肩の青龍の顎が開き、超高熱のプラズマレーザーが扇状に掃射される。空を覆っていた数万の死鎌機が、悲鳴を上げる間もなくチリとなって蒸発した。
『右腕(白虎)、装甲をカチ割れ!!』
『オラァッ! フルーツ牛乳パワー全開だぜ!!』
白虎の頭部で構成された右腕が、猛烈な勢いで回転を始める。【白虎ドリル】だ。
ガオガオンは背中の朱雀の翼で一気に空を蹴り、合成死獣の極厚の胴体装甲に右腕のドリルを叩き込んだ。
——ギュイィィィィィィィィンッ!!!
火花と緑色の体液が噴き出し、150メートルの巨体が激しくよろめく。
そして、剥き出しになった合成魔獣の胸部の奥深くに、魔人ワイズが遠隔操作している「巨大な紫色の魔石」が姿を現した。
「見えた! バケモノの核だ!!」
地上で戦況を見上げていた坂上信長が、令和版・九九式短小銃を構え直した。
だが、蟲の自己再生能力は凄まじい。抉られた装甲が、一瞬で元に戻ろうと周囲の蟲を集め始める。ロボットの巨体では、あの小さなコアの隙間を的確に撃ち抜くのは難しい。
その時、信長の脳内にガオンの念話が響いた。
『人間ども! 俺様が動きを止める! テメェらのその「大田区産の鉄砲」で、再生の隙間をこじ開けろ!!』
「上等だ! やってやる!!」
防災スピーカーから流れる『降臨!聖獣機神ガオガオン』のBGMが、いよいよラストの大サビへと突入する。
1400万人の熱狂のコールが、東京の大地を震わせた。
『吠えろ獅子! 聖なる咆哮!』
『——ガァァァァァァァァァオオオオオオオオオオオンッ!!!!』
ガオガオンの胸に鎮座する黄金の獅子が、ありったけの神気を込めた咆哮を放った。
音波兵器を遥かに凌駕する【聖なる咆哮】。それは敵の神経系と魔力回路を完全にショートさせる、神の絶対麻痺攻撃。
「ピ、ピギィィィィ……ッ!?」
合成死獣の巨体が、金縛りに遭ったかのようにピタリと完全に停止する。再生しようとしていた装甲の動きも止まった。
「——いまだッ!! 大田区のオヤジたちの意地、見せてやれェェッ!!」
信長の怒号と共に、地上に展開した自衛隊の精鋭たちが、九九式のボルトを一斉に引き絞った。
狙いは、ガオガオンが開けた合成死獣の装甲の隙間——わずか数十センチの「点」。
ズガァァァァァァンッ!!!
数百発の7.7mm真鍮弾が、狂いのない完全な弾道を描き、合成魔獣の傷口へと一点集中で吸い込まれていく。
「町工場の変態精度」によって生み出された旧式銃の一斉射撃は、蟲の再生組織を完全に粉砕し、紫色の魔石を完全に剥き出しにした。
『ば、馬鹿な!? チキュウの旧式鉄パイプが、我が魔獣の核を……ッ!?』
ワイズの驚愕の声が響く。
「決めてくれェェッ、ライオン!!」
信長が空に向かって絶叫する。
宙に浮く魔王ラスティアが、ペンライトを振り折らんばかりの勢いで叫んだ。
『いけぇぇぇっ! ガオガオーン!!』
月人の歌声が、最後のフレーズを歌い上げる。
『今だ一刀両断! 聖獣剣ゴッドブレード!』
『——これで終わりだァァァッ!! 聖獣剣、ゴッドブレェェェェドッ!!!』
ガオガオンが、虚空から身の丈ほどもある巨大な黄金の剣——【聖獣剣ゴッドブレード】を引き抜いた。
朱雀の翼が最大出力で炎を噴き出し、上空から隕石のような速度で急降下する。
剣身に1400万人の祈り(バフ)と、四神の力をすべて集中させた、究極の一撃。
——ズバァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
夜空に、巨大な黄金の十字架が閃いた。
ガオガオンのゴッドブレードが、150メートルの合成死獣を、紫のコアごと完全に「一刀両断」に切り裂いたのだ。
『ア……アァァ……こんな、バカな……音楽と、旧式の鉄パイプ、そして温泉帰りの神獣ごときに……私の完璧な絶望のショーが……ッ!!』
天魔窟の奥底で、魔人ワイズが血を吐きながら膝をつく。
次の瞬間、両断された合成魔獣は凄まじい大爆発を起こし、緑色の光の粒子となって新宿の夜空に消え去った。
戦闘終了。
朝焼けが、崩壊した新宿のビル群を照らし始める。
「……終わった……。勝った、勝ったぞォォォッ!!」
自衛隊員たちが、九九式を天に掲げて歓喜の涙を流す。
大田区の工場で徹夜していたオヤジたちが、ラジオから流れる勝利の報告に、油まみれの手でハイタッチを交わす。
地下シェルターで、蘭をはじめとする市民たちが、抱き合って安堵の声を上げる。
朝陽を背に受け、黄金の装甲を輝かせながら立つ『聖獣機神ガオガオン』。
『……へっ。テメェらの歌、悪くなかったぜ。……よくやったな、人間ども』
ガオガオンが、自衛隊員たちに向かって、不器用に親指を立てた。
弾薬ゼロの絶対的絶望から始まった、東京地下の防衛戦。
それは、日本の工業力(下町)と、1400万人の歌(オタク文化)、そして異世界の神獣と魔王が奇跡の融合を果たした、最高の勝利として幕を閉じたのであった。




