EP 9
神の湯上がりと、奇跡の【聖獣合体】
「……んぐ、んぐ、んぐ。ぷはぁっ! 腰に手を当てて飲むチキュウの『フルーツ牛乳』、最高だぜ!」
新宿・都庁前広場。
瓦礫の山と強酸の悪臭が漂う地獄の戦場に、フルーツ牛乳を一気飲みする白い虎(白虎)の間の抜けた声が響いた。
その隣では、青龍が手ぬぐいで角を拭き、朱雀が羽をパタパタとさせて湯冷めを防ぎ、玄武が甲羅の上の温泉まんじゅうをモシャモシャと頬張っている。
日本が誇る名湯『草津温泉』の成分表示板まで一緒に転送されてきた四神たちは、完全なる「湯上がりオヤジ」の顔であった。
『てめえらァァァァァッ!! ぶっ殺すぞォォォォッ!!!』
聖獣ガオンの黄金のタテガミが、怒りで逆立ち、ビリビリと放電する。
『俺様が酸の海で死にかけてる時に、何バカンス満喫してやがんだ!! さっさとその木桶と牛乳瓶を捨てやがれ!!』
「なんだよガオン、騒々しいな。ルチアナ様が『日本に行ったら絶対クサツに行け』って言ったんだぞ。お前も後で来いよ、湯畑マジですげえから」
青龍が呑気に言い返したその時である。
——ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
先ほど、魔王ラスティアの『次元魔王剣』で胴体に風穴を開けられた超巨大な合成死獣。
その巨体が、信じられない再生力で蠢き始めた。地下から次々と這い出てきた無数の死蟻機が、傷口に群がり、自らの体をパズルのように繋ぎ合わせていく。
『……ハッ! ハハハッ!! 驚きましたよ、魔皇国の女帝陛下! まさか結界を放棄して、単身でチキュウの陣地に乗り込んでくるとは!!』
合成魔獣の奥底から、魔人ワイズの歓喜に歪んだ声が響く。
『ですが、貴女のその理不尽な魔力でも、無限に湧き出す我が軍勢の「自己再生」は止められない! さあ、神獣もろとも、チキュウの人間たちを溶かしてしまいなさい!!』
再生を終えた合成魔獣は、先ほどよりもさらに巨大化し、全長150メートルを超える悍ましい「蟲の塔」となって新宿の夜空にそびえ立った。
その無数の複眼と大顎から、滝のような強酸が降り注ごうとする。
「おいおい……! マジかよ、あんなのどうやって倒すんだ!?」
坂上信長が、新品の九九式を構えながら絶望的な大口を開ける。
大田区の町工場が作った名銃も、あの規格外の質量を前にしては、文字通り「焼け石に水」だ。
だが。
『——ガオッ! ガオッ! ガオッ!』
『——ガオッ! ガオッ! ガオッ!』
ズンッ! ズンッ! と腹の底に響く重低音のビート。
絶体絶命の戦場に、防災スピーカーから、そして自衛隊員たちの通信機から、あの『歌』が鳴り響いていた。
「ん……? なんだ、この景気のいい音楽は?」
白虎が耳をピクッと動かす。
『眠れる獅子の瞳に宿る 紅蓮に燃え上がるソウル……』
「……俺たちのことか? なんでチキュウの人間が、俺たちのテーマ曲を知ってんだ?」
朱雀が首を傾げた、その瞬間だった。
『——ガオガオオオオン!!』
新宿の巨大ビジョンに映し出された朝倉月人のシャウトと共に、シェルターの中から、大田区の町工場から、そして目の前の自衛隊員たちから。
1400万人の「ガオッ!ガオッ!」という熱狂的なコール(信仰心)が、四神たちの体に雪崩れ込んできたのだ。
「な、なんだこの尋常じゃねえ神気は!?」
「内側から、力が無限に湧いてきやがる……!! クサツの湯よりスゲエぞ!!」
温泉ボケしていた四神たちの瞳に、本来の『神獣』としての鋭い光が宿る。
手ぬぐいが消し飛び、木桶が砕け散り、フルーツ牛乳の瓶が弾け飛んだ(※白虎は一滴残らず飲み干してから瓶を捨てた)。
『理解したか、お前ら! この国の人間たちは、俺たちに限界突破の祈り(バフ)を捧げてくれてんだよ!!』
黄金の獅子・ガオンが、新宿のど真ん中で天に向かって咆哮した。
『——いくぞ! 五つの願いが、一つに重なる時だ!!』
ガオンの合図と共に、四神たち——青龍、朱雀、玄武、白虎の体が眩い光に包まれ、それぞれが巨大な『機械のパーツ』へと変形を開始した。
それを上空で見ていた魔王ラスティアは、次元魔王剣を放り出して両手でペンライトを握りしめ、喉が裂けんばかりの絶叫を上げた。
『キタァァァァァッ!! 合体シークエンス!! ちゃんとアニメ通りに変形してるぅぅぅッ!!』
ラスティアの限界オタクの悲鳴をBGMに、1400万人の大合唱が最高潮に達する。
「叫べッ!」
避難所の若者たちが、工場のオヤジたちが、自衛隊員たちが、拳を突き上げて叫んだ。
「「「聖獣合体!! ガオガオン!!!」」」
その声に応え、神獣たちが空中で一つに組み上がっていく。
『右腕は白虎!! 砕けぬものは無い!!』
白虎が巨大な右腕となり、ガオンの右肩にガシャンッ! とドッキングする。その手は、あらゆるものを粉砕する虎の顎だ。
『左腕は青龍!! 紅蓮の雷鳴放て!!』
青龍が左腕へと変形し、左肩に接続。龍の口からは、超高熱のプラズマレーザーの砲身が覗く。
『背中に朱雀の 黄金の翼広げ!!』
朱雀が巨大な炎の翼となり、ガオンの背面に合体。新宿の夜空に、神々しい真紅の炎が燃え広がる。
『玄武の重力で 大地を震撼させろ!!』
玄武が重装甲の下半身と脚部になり、ズドォォォンッ!! と新宿の大地を踏みしめた。
アスファルトがクレーター状に陥没し、圧倒的な重力場が周囲の蟲たちを地面に叩き伏せる。
そして最後。
黄金の獅子・ガオンがメインコアとして中心に鎮座し、胸のライオンの瞳がカッと見開かれた。
頭部に『王冠』を模した装甲が装着され、ツインアイが鋭く発光する。
「……うおおおおおっ!! すげえ……!!」
坂上信長は、九九式を握りしめたまま、完全に少年の目になってその姿を見上げていた。
全長50メートル。
黄金と五色の装甲に身を包んだ、絶対無敵の巨大ロボット。
神話と現代アイドル文化の奇跡の融合。
『——聖獣機神ガオガオン、ここに降臨だァァァッ!!!』
新宿のビル群を見下ろす巨神が、合成魔獣に向かって、大地を揺るがす名乗りを上げた。
1400万人の『歌』を背に受けた特撮ロボット大戦のクライマックスが、いよいよ火を噴く。




