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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 5

毒舌神獣のボヤきと、温泉旅行の真実

——ガァァァァァァッ!!!

新宿のビル風を切り裂く、黄金の獅子の咆哮。

その声自体が物理的な衝撃波ショックウェーブとなり、迫り来ていた死蟻機アントの群れが、紙屑のように次々と吹き飛ばされていく。

「オラァッ! 邪魔だ虫ケラども!! 鉄クズにしてやるぜッ!!」

聖獣ガオンが、強靭な後脚でアスファルトを砕き、蟲の海へと突撃した。

その戦いぶりは、まさに「神の暴力」だった。鋼鉄の爪が死鎌機マンティスをネオン看板ごと両断し、巨大な牙が死蟻機の極厚装甲をまるでビスケットのように噛み砕く。

「す、すげえ……! あの数のバケモノを、一匹で圧倒してやがる!」

信長たち自衛隊員は、目の前で繰り広げられる「特撮映画」のような光景に息を呑んだ。

地球の近代兵器が沈黙し、大田区の町工場が作った単発銃で血反吐を吐きながら支えていた戦場で、異世界の「神獣」が無双の働きを見せている。

だが、ガオンのテレパシーが信長の脳内にガンガンと響き渡った。

『おい人間ども! 呆けてねえで援護射撃の一つでもしやがれ! 俺様の背中ブラインドに群がるウジ虫を撃ち落とせ!』

「あっ、悪い! 総員、ライオンの援護だ! 誤射に気をつけろ、九九式、撃てェッ!」

信長の号令で、自衛隊員たちが一斉にボルトアクションを引き絞る。

ズドン! ズドン! という重厚な発砲音と共に、ガオンの背後から迫っていたカマキリ型の蟲たちが次々と撃ち落とされていく。

『へっ、単発のポンコツ銃にしちゃあ、良い腕してんじゃねえか! その調子だドロガメども!』

「ドロガメって言うな! こっちは徹夜明けなんだよ!」

信長がインカム越しに怒鳴り返す。

異世界の神獣と、日本の自衛隊。絶対に交わるはずのなかった二つの力が、新宿のど真ん中で奇妙な共闘バディを組んでいた。

だが——。

「シャァァァァァァッ!!」

突如、地中から新たな巨大死百足センチピードが数匹同時に飛び出し、ガオンの四肢と胴体に何重にも巻き付いた。

さらに空からは無数の死鎌機が降り注ぎ、地上からは死蟻機が津波のように押し寄せる。

『チィッ……! 鬱陶しいウジ虫どもが、次から次へと湧きやがって!』

ガオンが全身から黄金の闘気を放ち、巻き付いた死百足を吹き飛ばそうとするが、蟲たちは死を恐れずに際限なく群がってくる。

十万、二十万という絶対的な「数」の暴力。いかに神獣といえども、無尽蔵に湧き出す敵を前にしてはスタミナ(神気)に限界がある。

「おい、ライオン! お前、仲間とか援軍はいねえのか!? この数じゃいくらお前でも押し潰されるぞ!」

信長が叫びながら、九九式のボルトを引く。

すると、ガオンの口から、心底腹立たしそうな声が返ってきた。

『呼んで来りゃ苦労しねえよ! 青龍と朱雀の馬鹿野郎どもめ! 女神ルチアナから「チキュウの『クサツ』は最高だぞ」なんて入れ知恵されやがって……!』

「は……? くさつ?」

信長の手が、一瞬ピタリと止まる。

『今頃あいつら、四神揃って『草津温泉』とかいう場所で湯治してやがるんだよ!! バカンスを満喫してて、俺の念話コールを完全無視しやがりやがって!!』

「くさつ……って、群馬の草津温泉かよォォォッ!?」

信長が思わずズッコケそうになった。

世界が滅亡の危機に瀕しているというのに、異世界の神獣(四神)たちは、日本の温泉文化の虜になって群馬県でくつろいでいるというのだ。

「ふざけんな! こっちは世界の危機なんだぞ! なんで神様が温泉旅行に行ってんだよ!」

『俺が知るか! あいつら「硫黄の香りが鱗のツヤに効く〜」とか抜かしてやがったんだよ! だあああっ! 限界だ! 重装甲の玄武がいねえと、俺様だけの装甲じゃこの酸を防ぎきれねえッ!』

ガオンの黄金のボディから、シューシューと不気味な白煙が上がり始める。

無数の蟲たちがガオンの四肢に喰らいつき、至近距離から緑色の強酸を吐きかけていたのだ。

「ライオンッ!!」

『グ、ガァァァァァァッ!!』

蟲の山に押し潰され、ついにガオンがアスファルトの上に膝をつく。

どれだけ日本の町工場が奇跡を起こし、自衛隊が必死に援護しようとも、「神獣の合体」という本来のスペックを引き出せない状態では、数十万の蟲の群れを捌き切ることは不可能だった。

「クソッ、撃て! ライオンから蟲を引き剥がせ!!」

自衛隊員たちが九九式を一斉に発砲するが、蟲たちはもはや人間たちには目もくれず、最大の脅威であるガオンの息の根を止めることに全力を注いでいた。

『——無駄ですよ。いかに神獣といえども、単独では我が軍勢の数の暴力には勝てない。さあ、神の残骸と共に、あの目障りな鉄パイプを持った人間どもも溶かしてしまいなさい』

天魔窟からワイズの冷酷な指令が飛び、蟲たちの殺意が限界まで膨れ上がる。

黄金の獅子の瞳から光が消えかけ、戦場が真の絶望に包まれようとしていた。

その頃、新宿駅の地下深くに設けられた巨大シェルター。

地上からの凄まじい震動と、バケモノたちの不気味な咆哮が響く中、数万人の市民が恐怖に身を寄せ合っていた。

「ひっ……! 上で、上で何が起きてるの……!?」

「自衛隊の人たち、やられちゃったのかな……」

暗いシェルターの中で、早乙女蘭もまた、震える両手で自分のバッグを抱きしめていた。

自分がポポロ村で渡したチョコが、どれほど世界を救うキッカケになったかなど知る由もない。今はただ、本物の死の恐怖に怯える一人の少女でしかなかった。

——ズドォォォォォンッ!!

直上(地上)で、ガオンが蟲の群れに叩きつけられた凄まじい衝撃。

その余波でシェルターの天井からパラパラとコンクリートの粉が落ち、激しい揺れが襲った。

「きゃっ!?」

蘭はバランスを崩し、その拍子にバッグから『スマートフォン』が床へと滑り落ちた。

パチンッ、という音と共に、スマホの画面にヒビが入る。

そして、運命のバグか、奇跡の悪戯か。

衝撃でロック画面が誤作動を起こし、彼女が毎朝のアラームに設定していた『推しの曲』が、マナーモードを突き破って最大音量で再生され始めたのである。

静まり返った絶望のシェルター内に、突如として鳴り響く、無駄に壮大で、そしてあまりにも熱苦しいイントロ。

『——ガオッ! ガオッ! ガオッ!』

『——ガオッ! ガオッ! ガオッ!』

『ガオガオオオオン!!』

「えっ……!? ちょ、ちょっと待って、なんでこんな時に月人くんの曲が……!」

パニックになった蘭が慌ててスマホを拾い上げ、音を止めようと画面をタップする。だが、ヒビの入った液晶はフリーズして全く反応してくれない。

『眠れる獅子の瞳に宿る 紅蓮に燃え上がるソウル……!』

朝倉月人の伸びやかな歌声と、女神ルチアナが徹夜のコタツでヤケクソになって書き上げたダサ熱いロボットアニソンが、暗い地下空間にガンガンと反響していく。

だが、この時、誰も気づいていなかった。

この少女の落としたスマホの着メロが、絶望の戦場をひっくり返す「最大の奇跡」のトリガーになることに——。

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