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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 2

永田町の妖怪と、パニック都市1400万

転移からわずか数十分。

日本の首都は、かつてない速度で「崩壊」への坂道を転がり落ちようとしていた。

『圏外』の文字が点滅するスマートフォンを握りしめ、人々は街頭ビジョンを見上げた。だが、いつもならやかましいほどに流れるニュース映像も、気の抜けたバラエティ番組も、今は無機質な砂嵐ノイズを映し出すだけだ。

そして何より、彼らを狂乱に陥れたのは「景色」だった。

新宿の高層ビルの向こう側にあるはずの関東平野は消え失せ、代わりに天を衝くような巨大な樹木が密生する、見たこともない大樹海が東京をぐるりと包み込んでいたのである。

「おい、冗談だろ……埼玉が、森になってるぞ……!」

「電話が繋がらない! 家族は!? ねえ、誰か!」

未知への恐怖は、瞬く間に「生存本能」へと直結する。

スーパーマーケットやコンビニエンスストアには群衆が殺到し、窓ガラスが割られ、棚という棚から食料と水が根こそぎ奪い取られていく。幹線道路は逃げ場を失った車で埋め尽くされ、クラクションの怒号が響き渡った。

1400万人。

この巨大都市が抱える胃袋の数は、流通という血液が止まれば、そのまま1400万の暴徒へと変貌する時限爆弾だった。

「総理はパニック状態で使い物にならん。官邸の機能は、今この瞬間から我が与党幹事長室が掌握する」

永田町、議員会館。

若林幸隆は、眼下で上がり始めた黒煙(暴動による火災)を冷徹な目で見下ろしながら、『ピース』の煙をゆっくりと吐き出した。

彼の執務室には、青ざめた顔の官僚たちと、防衛省の制服組がひしめき合っている。

「若林先生! いくらなんでも超法規的措置すぎます! 野党やマスコミが——」

「マスコミの電波が飛んでいるか? 野党が今、国民の胃袋を満たせるか?」

若林の低い、だが絶対的な覇気を孕んだ声に、若手官僚が言葉を詰まらせる。

「政治も合気道と同じだ。今、国民が抱いている『恐怖』という巨大なエネルギーを、そのまま『秩序』へと転換して流し込む。……直ちに『国家非常事態特別措置法』を強権発動しろ。都内全域の物流センター、スーパーの備蓄、すべてを国が一時接収する。逆らう者、略奪を行う者は……」

若林は灰皿にタバコを押し付け、獣のような鋭い眼光を放った。

「警察の機動隊と、陸上自衛隊の治安出動をもって、物理的に制圧しろ。ゴム弾でも催涙ガスでも構わん。暴力で食料を奪う連中は、見せしめとして徹底的に叩き潰せ。……私がすべての責任を負う。『一人も飢えさせない』と、街宣車を使って都内全域にアナウンスして回れ!」

「は、はいっ!!」

官僚たちが弾かれたように部屋を飛び出していく。

混乱を力技でねじ伏せる。この冷酷なまでの決断速度こそが、若林が「永田町の妖怪」と恐れられる所以だった。

だが、部屋に一人残った若林の表情に、余裕はない。

彼はデスクの奥に隠された、防衛省の暗号化専用回線(自衛隊の独立ネットワーク)の受話器を取った。

『……出雲艦隊打撃軍、坂上だ』

ノイズ混じりの回線の向こうから、聞き慣れた野太い声が響く。

「真一。状況は聞いているな。蘭くんのAIの計算通り、我々は地球から弾き出されたらしい」

『ええ。海自ウチのレーダーにも、見たことのない地形が映っています。東京湾の出口は、巨大な瀑布……海が滝のように途切れていました。我々は、文字通りの漂流国家です』

真一の声に焦りはない。かつて広島で暴走族の総長として大立ち回りを演じた男だ。修羅場には慣れきっている。

「単刀直入に言う。さっき『一人も飢えさせない』と大見得を切ったが……都内の備蓄を完璧に統制・配給したとしても、1400万人の食料と水は、持って『1週間』が限界だ。それ以降は、共食いが始まる」

若林の突きつけた絶望的な算段。

1日3食、1400万人分。1日で4200万食が消費される狂気の計算式だ。

「この未知の世界の現地勢力と接触し、安全を確保した上で、食料供給のライン(兵站)を構築する。それしか、この国が生き残る道はない」

『……了解しました。いずも艦隊、並びに練馬の陸自を動かし、即座に周辺の探索に出ます』

真一はそこで言葉を区切り、重く、硬い声で釘を刺した。

『ただし若林先生。我々の武器は強力ですが、本土の生産ラインが死んだ以上、ミサイル一発、銃弾一発の補充も不可能です。撃ち尽くせば、我々はただの鉄屑を持った案山子になります』

現代兵器という無敵の矛は、回数制限付きの使い捨てアイテムに成り下がったのだ。

その報告を受けても、若林の表情は揺るがなかった。

彼は新しく『ピース』をくわえ、火を点ける。

「構わん。出し惜しみをして威舐められれば、交渉のテーブルにすら着けない。最初の一撃で、我々が『触れてはならない猛獣』であることを外の世界に刻み込め」

若林は窓枠に手をつき、森に囲まれた異質な東京の空を見上げた。

「国を護るためなら、泥を被るのも悪たれを拾うのも厭わんよ。……やれ、真一。我々の『戦争』の始まりだ」

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