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『1400万人の漂流国家 ~弾薬ゼロの自衛隊と最強の政治家が、異世界で「究極の兵站(ロジスティクス)」を無双する~』  作者: 月神世一


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EP 5

ポポロ村会談、傲慢なる異世界の牙

ポポロ村の村長邸、その奥に急遽しつらえられた石造りの巨大な会議室。

通常であれば穏やかな空気が流れるはずのその部屋は、今、物理的な重さを持った『圧倒的な殺気と魔力』によって満たされていた。

円卓の奥の席に、三つの巨大国家から送り込まれた全権使者たちが腰を下ろしている。

一人は、煌びやかなミスリル製の魔法鎧を纏った金髪の男。

北の大国【ルナミス帝国】の魔法騎士団長、ザルバス。彼の全身からは、呼吸をするだけで周囲の空気がパチパチと帯電するほどの莫大な魔力が溢れ出ている。

もう一人は、筋骨隆々とした体躯を革鎧に包んだライオンの獣人。

東の武闘派国家【レオンハート獣人王国】の猛将、ガラン。彼が腕組みをしているだけで、室内の空気が闘気の圧力によって歪んで見えた。

そして最後の一人は——西の【グレイグ魔皇国】から遣わされた宰相、ルーベンス。

彼だけは、完璧に仕立てられた夜の闇のようなスーツ(貴族服)に身を包み、他の二人の放つ威圧感などどこ吹く風と、手元の紙の束(ジオ・リザード競馬新聞)に赤ペンで熱心に印をつけていた。

「遅いな。どこの馬の骨とも知れぬ弱小国の分際で、我ら三国を待たせるとは良い度胸だ」

ザルバスが、ワイングラスを揺らしながら不快げに鼻を鳴らす。

部屋の隅に控えていたニャングルとリバロンは、三人の放つプレッシャーに冷や汗を流し、息を潜めていた。

その時、重厚なオーク材の扉が開かれた。

「——お待たせして申し訳ない。空の便が少々混み合っておりましてな」

足音一つ立てずに入ってきたのは、完璧なスーツを着こなした初老の男——日本の与党幹事長、若林幸隆。

そしてその後ろには、フル装備の陸上自衛隊迷彩に身を包んだ坂上信長が、油断のない足取りで随伴している。

「ほう。魔力の欠片も、闘気の欠片も持たぬ無力な人間か」

獣人のガランが、若林たちを見るなり嘲るように牙を剥いた。

若林はそんな挑発には一切乗らず、円卓の手前側に悠然と腰を下ろす。信長は彼の斜め後ろに立ち、鋭い視線で室内の脅威度を計算していた。

(……やべえな。ルナミスの男も獣人も、親父(真一)の全盛期クラスのプレッシャーだ。あの競馬新聞を読んでるイケメンに至っては、底が全く見えねえ)

信長の額に嫌な汗が浮かぶ。

もしここで彼らが「殺す」と判断すれば、信長がアサルトライフルの引き金を引くよりも早く、全員の首が飛ぶだろう。

それが、異世界における絶対的な「個の暴力」の恐ろしさだった。

「さて、単刀直入に伺おう。我々日本国に対する食料取引の中止要求……その真意をお聞かせ願いたい」

若林が、胸ポケットから『ピース』を取り出しながら静かに切り出した。

「真意だと? 笑わせるな」

ルナミス帝国のザルバスが、ドンッと拳でテーブルを叩く。その衝撃だけで、卓上のグラスがひび割れた。

「東の海に現れた鉄の島……貴様らの国『ニホン』とやらが、ゴルド商会を通じて我が大陸の物資を根こそぎ買い漁っていることは掴んでいる。我々三国が睨み合う神聖なる緩衝地帯(ポポロ村)を、得体の知れない物乞い国家の『食料庫』にされることなど、断じて容認できん!」

「……物乞い、ですか」

タバコに火を点けようとしていた若林の動きが止まる。

ザルバスは勝ち誇ったように顎を上げ、若林を見下した。

「そうだ! 魔法も使えず、己の力で食料すら生み出せない貴様らは、ただの物乞いの集まりにすぎん! 偉大なるゴルド商会が、なぜ貴様らのような貧民に物資を流しているのかは知らんが……」

ザルバスの瞳に、残酷な魔力光が宿る。

「貴様らがこれ以上、我々の大陸の富を掠め取ろうというのなら……なんなら我が帝国の魔法兵部隊で、貴様らの『トーキョー』とやらに、直接巨大な『地震』を起こして海に沈めてやっても構わないんだが?」

国土を揺るがし、1400万人を皆殺しにするという、国家ぐるみの明確な「脅迫」。

そのあまりに傲慢な言葉に、後ろに立っていた信長の堪忍袋の緒がブチッと切れた。

「……ッ! てめえ、ふざけんな!!」

信長が殺気を爆発させ、咄嗟に89式小銃を構えようとした、まさにその瞬間。

「——控えなさい、信長くん」

若林の低く、しかし絶対的な命令が、信長の動きをピタリと止めた。

若林はカチャリとジッポーライターを鳴らして『ピース』に火を点けると、紫煙を深く吸い込み、天井に向けてゆっくりと吐き出した。

その表情には、恐怖も、怒りすらも一切浮かんでいない。

ただ、底知れぬ深淵のような冷たい瞳が、傲慢なルナミスの武将を真っ直ぐに見据えていた。

「地震を起こす、か。……なるほど、田舎のガキ大将は、すぐそうやって腕力をひけらかしたがる」

立場を分からせようとする異世界の超大国に対し、弾薬ゼロの日本。

絶対的劣勢の盤面で、永田町の妖怪が、いよいよその反撃の口火を切ろうとしていた。

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