EP 3
自衛隊出動、そして削られる命
「——総員、伏せろぉっ!!」
銀座の断末魔が響く交差点に、腹の底を揺さぶるような爆音が叩きつけられた。
SATの隊員が絶望の中で目にしたのは、並木通りから猛スピードで突っ込んでくる数台の迷彩車両——陸上自衛隊の『16式機動戦闘車』と、完全武装のレンジャー部隊を乗せた高機動車だった。
「1尉、対象確認! 街中にバケモノが溢れてやがります!」
「民間人を巻き込むな! 12.7mm重機関銃、斉射始め!!」
高機動車のルーフから身を乗り出した坂上信長が、鋭く命じる。
警察の9mm弾を嘲笑った死蟻機の装甲に対し、自衛隊が放つのは「対軽装甲車用」の12.7mm重機関銃弾。
——ドガガガガガガッ!!!
空気を物理的に引き裂くような連続爆音。
重金属の弾丸が死蟻機の頭部を直撃した。鋼鉄の装甲が紙細工のように弾け飛び、緑色の体液がアスファルトにぶちまけられる。
「ギ、ギィィィ……ッ!?」
圧倒的な質量の暴力。
死蟻機が断末魔を上げる間もなく沈黙する。続いて展開したレンジャー隊員たちが、89式小銃を一斉に構えた。
「単発で狙え! 確実に急所を貫け!」
信長は自らも小銃を構え、死蟻機の複眼を正確に射抜く。
アナステシア世界の住人なら「闘気」で強化して挑む相手に対し、日本人は「火薬のエネルギー」と「徹底した訓練」で対抗する。
だが、信長の表情は鋼のように硬い。
「……硬すぎる。5.56mmじゃ、急所を外せば跳ね返されるぞ!」
さらに上空。
『いずも』から緊急発進した平上雪之丞のF-35Bが、超低空で銀座のビル群を掠めていく。
「あー……地上部隊、聞こえる? デカいアリんこが地下から続々湧いてきてるよ。これ、普通に街一つ飲み込む量じゃない?」
「雪之丞、無駄口を叩くな! ピンポイントで大穴の入り口を叩け!」
「了解……。バルカン(GAU-22/A)いくよ。残業代、上乗せしてよね」
F-35Bが機首を下げ、25mmガトリング砲を火を噴かせた。
大穴の周辺にいた死蟻機たちが、一瞬で挽き肉のような残骸へと変わる。
自衛隊の圧倒的な火力。それは、本物の化け物に怯えていた市民たちにとって「神の救い」に見えた。
一時間後。
銀座の街には、静寂と、鼻を突く強酸の異臭だけが残っていた。
数十体の死蟻機の死骸が転がり、自衛隊員たちが周辺の警戒を続けている。
「……隊長、お疲れ様です。制圧、完了しました」
部下の報告に、信長は無言で愛銃のマガジンを抜き取った。
カチャリ、という軽い音。
「……。なあ、今回の戦闘でどれだけの弾を使った」
「えっ? ……ええと、小銃弾が約2,000発、重機関銃が500発、それと雪之丞さんの25mmが……」
「……」
信長は拳を強く握りしめた。
銀座一箇所を制圧するだけで、補充の利かない弾薬の山が消えた。
もし、新宿で、渋谷で、永田町で同時にこれが起きれば?
もし、ルナミス帝国のような国家規模の軍隊が攻めてきたら?
「……勝ちましたが、犠牲も出ました。SATの隊員が5名、一般人は数十名が……あの酸に焼かれて」
「……ああ、分かっている」
信長は、黒焦げになった機動隊の防弾盾を見つめた。
自衛隊なら、重火器があればギリギリ戦える。
だが、その勝利は「日本の寿命」を削ることでしか成り立たない。
一方、空の上に浮かぶ『いずも』の艦橋。
坂上真一は、真っ赤に点滅する残弾カウンターの警告表示を、苦虫を噛み潰したような顔で見つめていた。
「総司令。……雪之丞から入電。バルカンの残弾、残り30%を切ったそうです」
「……」
真一は言葉を失った。
異世界のバケモノは、こちらの弾薬を枯渇させるためだけに、無限に湧いてくる。
今の日本は、巨大な貯金(弾薬)を食いつぶしながら、崖っぷちで立っている老人のようだった。
そして、永田町の執務室。
若林幸隆は、銀座の戦闘報告書をデスクに叩きつけた。
「……本物のバケモノを前にして、国民の恐怖は頂点に達した。今、食料の供給(ポポロ村とのライン)が止まれば、この国は内側から腐って崩壊する」
若林は新しい『ピース』に火を点け、紫煙の中に、次に打つべき「冷酷な一手」を描いていた。
「真一。……三国の連中が、そろそろ動き出すぞ。我々の『弱点(タマ切れ)』に気づく前にな」
平穏は終わった。
自衛隊の圧倒的な「暴力」を見せつけた代償として、日本は最大の危機——「弾薬の底」という恐怖に直面しようとしていた。




